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天使よ俺を巻き込むなっ!  作者: 小麦
雷の天使ラミエル
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天使の婚約者(エンジェル・フィアンセ)

「にしても酷い目に遭った」

 成田の家を後にした俺は、「こんなの使えねーから持って帰れよ」と手渡された謎の模様付き黒焦げ包丁を抱えて帰宅の途についていた。こんなの何に使えというのだ。

「こんなのお土産にもらったって何の足しにもならねーよ。俺がどんだけ危ない目に遭ったと思ってんだ」

 自分の家の目の前でため息をつく。そうは言ってもようやく安心できる空間がすぐ目の前にあるのだ。ここは今日これまでのことはすべて水に流して、のんびりとしようじゃないか。

「あれ、電気がついてる」

 大方家族の誰かが珍しく早く帰って来たのだろう。

「ただい……」

「おかえりなさい操様。あなたの婚約者のラミエルにございます」

 ドアを開けると目の前には先ほど俺を殺しかけた女の子がいた。

「のわああああ!」

 俺はまた雷が飛んでくるのではないかと慌てて数歩距離を取った。が、どうもその心配はなさそうだ。

「な、なな何でお前がうちにいるんだよ!」

「えっ、だって婚約者が同じ家に住むのは当然のことでしょう? それに、あの家の家主に言伝はしておいたはずですが」


「ん? ああ、あいつ? あいつならお前の家で待ってるとか言ってさっさと荷物まとめて出てったぞ? お前あいつに何したんだ? 俺としては厄介者がいなくなったから万々歳だけど」


 そういえば成田の奴そんなこと言ってたな。いろいろ起こりすぎてすっかり忘れてた。……ん?

「婚約?」

「はい。さっき愛の儀式をしたじゃないですか」

「俺とお前がいつ婚約したんだよ!」

「あなたの胸に婚約の印として雷の烙印(パルスタンプ)を押したでしょう。あの印は私の婚約者の証なのです」

 普通ならあり得ないことだが、彼女はさも当然だ、というように言ってのけた。

「い、いや、でもさっきって……」

 俺は先ほどの出来事を事細かに覚えている。彼女が雷の烙印と言ったあれは、俺の体のどこにも刻まれてはいない。俺は彼女の手の先の雷に包丁の平の部分を押し付けただけだ。結果、その包丁は俺の手持ちで黒焦げとなり、おかしな模様がついてしまったために俺が持って帰って来た。つまり、彼女の言い分は筋が通っていないことになる。なら、それをこの場で指摘してしまえばいい。そう考えた俺だったが、すぐに首を横に振った。

(こいつの性格を考えろ。そんなことを言ったらどうなる? あの高出力の雷をもう一度俺の体に押し付けようとするんじゃねーか?)

 先ほどの印は仕組みとしては一瞬で刻まれる刺青のようなものだ。たまたまうまくかわせたからいいようなものの、今度あれをもう一度やられたらさすがに生きていられる自信がない。結果、

「あ、ああ、あの手の雷のことかぁ。い、いやあ、あれは怖かったなあ、ははは」

俺が出した結論は、『適当に相槌を打つ』だった。相手に話を合わせておけば、とりあえずは何とかなるだろう。

「そんな、あの程度で怖がってちゃ困りますよお。だって」

 彼女がそう言って手をかざした瞬間、家中の電気が一瞬にして消える。

「は? え? て、停電?」

「私は雷を操る天使ラミエル。このくらいのことは造作もないんですから」

 彼女が手を下ろすと、すぐに電気がついた。

「まあ、電気系統を操ったり雷を生み出したり、私の能力はそんな方向のものが多いので。自然人工何でもござれです。何なら気に食わない人をこの雷で焼いて差し上げることも可能ですよ?」

「へ、へえぇ……」

 ヤバい。こいつ頭のねじが3本くらいぶっ飛んでやがる。控えめに言って頭がおかしい。雷だの天使だのもそうだが、発言そのものにサイコパス的な何かを感じる。……あれ、そういえば、こいつさっきから気になること言ってたな。いろいろありすぎてすっかり忘れてたけど。

「1つ聞きたいんだけど、お前、本当に本物の天使、なのか……?」

 あくまで俺が聞いているのは自己申告だ。確かに雷やら何やらかんやら納得できる要素がないわけではないが、とりあえず確認はしておきたい。

「そうですね。まずはそこから信じてもらいましょうか」

 そう言うと、彼女は宙にふわっと浮かぶ。次の瞬間、背中から大きな白い翼が顔を出した。翼の出現によって家の中が多少散らかったところを見るに、どうやら形があるものなのは間違いないようだ

「触ってみてください」

「ええっ?」

「信じてもらうにはそれが手っ取り早いと思うんです。さ、早く」

 彼女にせかされ、俺はおずおずとその翼に手を伸ばす。

(……これ、触っていいのか?)

 未知のものという恐怖が先に先行して、どうしても触れることができない。

「……早く触らないと雷が飛びますよ?」

「そ、それはやめてくれ」

 しびれを切らした彼女に睨まれ、俺はそっと彼女の翼に触れる。

「んっ」

「お、おい、変な声出すなよ」

「ご、ごめんなさい。でもそこ、くすぐったいんです」

 彼女の反応を見るにどうやらこの翼も本物であるらしい。偽物の翼なら触っただけで頬の色は赤くならないだろうし、連動して彼女の体も動くことはないだろう。残念だが彼女の言葉を信じるしかないようだ。俺は彼女の翼から手を離した。

「まあお前が天使だっていうのは信じてやるけど、にしても何で俺がお前の婚約者なんだ? 成田でも良かったんじゃないのか?」

「あの人はダメです」

 代替案を出したが即答された。

「あんな遊び歩いている上に人に対しての思いやりのないクズは私の婚約者にはふさわしくありません。黒焦げにならなかっただけ感謝してほしいくらいです。正直拾ってもらった以外に恩なんてありません」

(あいつこの女に何やったんだよ)

 実際俺もクズという点に関してのみ同意はするが、ほぼ初対面のやつにここまで悪印象を与えるあいつもあいつだと思う。まあ確かに人を振り回したり、危険を回避したり、人を苛立たせる自分勝手さはあるが、それを差し引けばそれなりにいいところは……。

(ねえな。そもそもあいつをそんなにかばってやる必要もねえや)

 成田にそこまでしてやる義理もないし、俺のビジネスパートナーに関する話はもうやめだ。ならば単刀直入に聞くとしよう。おそらくそっちの方が早い。

「そうは言っても、見ず知らずの俺をいきなり婚約者っていうのはどうなんだ? 何か納得のいく説明くらいはあってもいいと思うんだが」

「ああ、そのことですか。確かに納得はしていただかないといけませんね。何せ将来の旦那様なのですから。ふふっ」

 そう言うと、彼女は嬉々として説明を始めた。

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