ギャルとマスコット~不思議な違和感と共に~
「そもそも、ここはどこなんだ?」
「確かに……」
何のヒントもない中昼下がりの街並みに放り込まれても困る。せめて何かヒントのようなものでもあれば、とも考えたが、このゲームを作ったのは死を操る天使サリエルだ。敵がわざわざクリアしやすいように難易度を調整してくれると考えるのは馬鹿だろう。
「とにかく歩いてみよう。情報を得るんだ」
「そうだね」
ゲーマーだけあって、こういう場合の対処法は2人とも慣れたものだった。互いの考えにすぐ納得し、俺たちはすぐに行動に移した。
「で、分かったことはこんなところか」
1時間後、再び合流した俺たちは情報をまとめる。この街が夕土市と呼ばれている街であること、人口は俺たちの住む朝風市と同じくらいであること。マウンテンランドと呼ばれるテーマパークがあり、人気キャラクターである猫のニャクシーとキャーロットが有名であること。
「……何もかもが朝風市と反対な世界なんだね」
「ああ。何が目的でこの世界が作られたのかは分からねーけど、とりあえずここが俺たちの知る街じゃないことだけは、確かみたいだな……」
夕土市なんて街は俺の知る限り聞いたことはないし、マウンテンランドなんて大きなテーマパークも聞いたことがない。間違いなくここが異世界であることだけは真実だということを教えてくれた。
「あと23時間だけど、まず何をすべきだろう?」
「そうね……。こういう時は、まず人を探すのがいいんじゃないかな?」
「RPGの鉄則だな。その案乗った」
こういう時にゲーマーの相棒は頼りになる。俺たちは2人で周りを探索してみることにした。
「……あのさあ」
「何で人っ子一人いないんだろうな?」
残り22時間となったが、誰一人として人間を見かけない。それどころか、車の類もなければ物音の類もないのだ。
「これ、人を頼りに攻略するゲームじゃないのかな?」
「そう考えた方が良さそうだけど、誰もいないはずはないし……。ひとまずマウンテンランドだっけ? に行ってみないか?」
俺は先ほど知りえた情報をもとに咲良に提案してみる。
「そうだね。まだそっちの方が可能性あるかも」
咲良の同意も得て、俺たち2人はマウンテンランドに向かうことにした。
「チョーヤバい!」
「マジウケる!」
マウンテンランドのすぐそばに来た俺たちは、入り口で一昔前のいわゆる山姥ギャルが中身のない会話をしているのを見つけた。
「……あんなんでも自分と同種の奴を見つけると安心するもんだな」
「なんか悲しくなってくるね」
ぼそぼそと話しながら彼女たちの横を通り抜けようとした俺たちだったが、
「つーか、あたしたちガン無視とか? なめてんの? みたいなー」
なぜか彼女たちの方から呼び止められてしまった。
「……いったい何の用ですか?」
外行きモードになった咲良が敬語で尋ねる。
「あんたら、サリエル様のダチっしょ? あたしらこのゲームのリーダーなんだけど、みたいな」
「!? お前らが案内役!?」
人は見かけによらないとはまさにこのことだ。サリエルの名前を出された俺たちは彼女たちを話し相手として認識した。
「マジウザいんですけど」
「っつか、さっさと通した方がよくね。こーゆうの一番嫌いなタイプだし」
露骨な嫌悪感を抱かれてしまったようだが、俺たちも急いでいる。
「このゲームの脱出条件は?」
「マウンテンランドのゲームクリア。それだけって感じ」
「ま、それだけじゃクリアできないとか聞いたけど、あたしらにとってはどうでもいいし。ここでだべってられるのマジサイコー」
どうやら人間界からここに連れてこられたか、そういうプログラムをされているのか分からないが、彼女たちにとってはここの説明をする以外に仕事はないようだ。
「ラミエルさんもここにいるのかな?」
「ま、そう考えた方がいいだろ。とりあえず行ってみよーぜ」
意見はまとまった。
「ありがとうギャルさん」
「いーっていーって。そんじゃね」
その瞬間、彼女たちの姿がその場から消えた。
「えっ、まさかあれだけのためのキャラなの?」
「……いちいち突っ込んでたら先が持たないと思うぞ」
俺も咲良が突っ込みたいのは分かるが、最優先はゲームのクリアだ。とにかく中に入るしかない。俺は咲良を連れてマウンテンランドの中に入った。
「よーうこそいらっしゃいました!」
『うわあ!』
足を踏み入れた途端、NPCキャラクターであろうウサギのマスコットキャラが2匹飛び出してきたのに俺たちは大声を上げる。確かニャクシーとキャーロットと呼ばれていたはずだ。
「ここはマウンテンハイム。今からあなたたちにはいくつかのゲームに挑戦していただきます。それをクリアして、このゲームの脱出条件をクリアすることができれば、あなたたちは晴れてこの世界から自由の身になれると、そういうことにございます」
なるほど単純明快なルールだ。
「ゲームの数は?」
「5つにございます。ちなみに現在クリアされているゲームはございません」
「ここにきたやつは?」
「2人いますねえ。まあ、彼女たちは最初のゲームがクリアできていないようですが」
ラミエルとガブリエルだろう。あいつらゲームの類は相当苦手のようだ。
「分かった。それじゃ、このテーマパークの地図をもらいたい」
「いいでしょう。あるのとないのとでは攻略のしやすさも大きく変わってくるでしょうから」
ポン! という煙と共に、出てきたマップを手渡される。
「そうそう、先に入って来た2人はあと8時間この世界にいると死んでしまいます故、お気を付けくださいませ……」
そう言ったニャクシーとキャーロットは姿を消した。この神出鬼没さはまさに道化師と言っても過言ではない。
「方針は決まったわね。で、どこから行く?」
もらったマップを確認すると、山すそエリア、ふもとエリア、中腹エリア、山小屋エリア、頂上エリアの5つに分かれていた。
「とりあえず手前から潰していこう。順番に回れば時間も短縮できる」
下手したら自分たちの命もないゲームなのだ。ここでのんびり好きな場所から遊んでいくという選択肢を取っている余裕はない。
「賛成。それじゃ、いこっか」
そう言った咲良は俺の手をつなぐ。
「さ、咲良?」
「どうせならカップル気分でも味合わせてよ、操」
「お前な……」
遊びに来てるんじゃないんだぞ、と言いかけた俺に、彼女は分かっていると目で答える。
「ま、あんたしかいないしね。私の知り合いが見たら発狂しそうだけど、少なくとも私のことを外見でしか判断しない男どもよりは操の方がいい。何がどうなるか分からないなら、最後に人間らしいことの1つや2つくらい経験したいからさ」
「……お前のことは死なせやしねえよ。俺の命に代えてもな」
絶対に守ってやる、という決意を新たに、俺は幼なじみを連れ、俺は最初のエリアである山すそエリアに向かった。




