邂逅 天使サリエル
「ふう、いやあ終わったねえ」
「まさか本当に8本1人でやるとは思わなかった……」
こいつはどういう動体視力をしてるんだ。確かに2画面でやれば同時に2本はできる計算だから本人曰く実質4本しかやってないらしいが、それにしても何を言ってるんだかちょっと意味が分からない。
「操もきちんと2本終わらせてくれたじゃん」
「まあ俺も頼まれたことくらいはやるよ」
中身はほとんど覚えてないし俺には早送りしたようにしか見えなかったが、彼女はしっかりストーリーを追うことができて満足だったようだ。訳が分からん。
「にしてもお前変なところで優秀だよな。いろいろと残念だけど」
絶対他のことに生かせるものが何かあったと思う。
「そこがいいって全私の友人から賞賛を得てるよ」
「お前の友人ならそりゃそうだろうな」
「あとファンクラブ」
「お前そんなんあんの!?」
俺なんて顔も普通性格最悪だから遠い世界の話だと思っていたが、まさかこんな身近にいるとは。
「って言っても、あるだけめんどくさいだけだけどねー。ちょこちょこ揉め事も起きて大変なんだから」
「俺には一生関わりのない話だな」
まあ、これでとりあえず役目は終えたわけだ。約束も果たせたし、俺からすればこれ以上ない休日の消化の仕方にはなった。
「んじゃ、そろそろ帰るわ」
「そだね。……あ、そういえば私買い物あったんだっけ。途中まで送るよ」
「買い物? ゲームじゃなくてか?」
「うん。ま、ちょちょっと食料の買い出しをね」
そういえばこいつこの年で家事全般できるスーパーハイスペック女の子だった。何で俺の周りにはこう一芸に秀でたやつばっかりいるんだろうな。
「操も変な特殊能力に目覚めたじゃん」
「俺の心を読むな!」
「いや、心の声丸聞こえだったけど」
「!?」
しまった。そんなに俺はぼそぼそと不気味な行動を取っていたのか。
「なーんてね。それじゃ、私も準備するからちょっと待っててよ」
「……?」
咲良のあまりの機嫌のよさに、俺は懐疑心を持つのだった。
「あのさ、天使と済むってどんな感じなわけ?」
「済んでない。変換おかしいだろ。何で事後なんだよ」
さっきのキャラはどこへやら、いつもの咲良だった。自転車で行くのにショートパンツ姿にわざわざ着替えるのは彼女らしいのかもしれない。
「で、どんな感じ? やっぱり空飛んだりとかするわけ?」
「あくまで流すのかよ。まあそうだなー、基本的には普通の人間と変わらねえよ。あいつらはあいつらで目的があってこっちの世界に来てるらしいしな」
「そういえば仲間を探してるんだっけ? 結局見つかったの?」
「いや、あれから進展なし。ま、既に一人と合流できてるラミエルはすごいと思うけどな」
もっとも、ここ数日あいつは羽休めと称してガブリエルと出かけていたようだが。俺の家にいなかったのもそのせいらしい。誰がうまいこと言えと、と書き置きを見て思ったのは否定できない。
「ふーん、そんなもんか。……ってあれ?」
「何だどうした? 目当ての乙女ゲームでも見つけたか?」
「あんたじゃないんだから。あれ見てよ」
咲良が指差した方向には見慣れた2つの影があった。だが、いつもと違っていたのは2人とも倒れた状態だったことだ。
「あそこで倒れてるの、ラミエルさんと天使の人じゃないの?」
目の前で倒れていたのはラミエルとガブリエル。遠目で見た限りでは外傷はなさそうだったが、あの2人が誰かにやられた様子もなく道端に倒れている様子は違和感しかなかった。
「!? マジだ。ちょっと行っていいか?」
「うん。何かあったことは間違いなさそうだし、私も行く。面識はないけど、やっぱり気になるもんね」
2人で同時に走る。だが、彼女たちが目の前に見えたその時だった。
「あら、あらあらあら? ラミエルちゃんとガブリエルちゃんのお知り合いかしらあ?」
頭上から新たな声がする。それは聞き覚えのない、新たな事件の始まりを告げる声。
「誰だ!?」
「あたしの名前? 知る必要もないと思うけどお、教えてあげるう。あ・た・し、はあ……死を操る天使、サリエルちゃんでーっす」
「死を……」
「操る天使……」
天使サリエル。名前だけならばこの間調べた時に見たことはある。彼女の能力は死。彼女の目に見つめられただけで最悪死に至ることもあるという恐ろしい能力を持った天使だ。
「ほ・ん・と・う・はあ、あなたたちにも死んでもらおうと思ったんだけどお、せっかくだからチャンスをあげまーす♪ ラミエルちゃんたちの知り合いみたいだしねえ」
彼女はにこっと笑う。だが、その目の奥は決して笑ってなどいなかった。
「今、ラミエルちゃんとガブリエルちゃんはあ、あたしの目を見て倒れてる状態なんだけどお、死んでるわけじゃないのよお。あの2人にはねえ、生存確率1%の脱出ゲームに挑んでもらってるのお。で、チャンスっていうのはあ、あなたたちにも同じゲームに挑む権利を与えてあ・げ・るってことお」
「脱出ゲーム?」
「そうよお。けっこう難しいのよお。もうラミエルちゃんたちも半日以上眠ったままなのお。脱出条件は、あたしのゲームの中のクリア条件を満たすことよお。ちなみに、24時間以上このままだと、みんな死んじゃうのお。どお?」
「……もし、やらなかったら?」
「この場で殺す。それ以外の選択肢はないわよお」
いちいち言い方が耳に障る奴だが、こいつの能力と性格は間違いなくトップクラスにヤバい。
「咲良。巻き込んで悪いけど、お前にも協力してもらうことになりそうだ。いけるか?」
「ま、乗り掛かった舟ってやつでしょ。いいよ。ゲームの類で挑戦されたらどのみち断れないしね」
俺たち2人はゲーマーだ。ゲームと言われて挑まれている以上、たとえ普段と違うジャンルだとしても、ゲーマーとしての血が騒いでしまう。
「じゃ、決まりねえ」
その瞬間、彼女は目を閉じ、そしてすぐ開いた。
「イービルアイズ!」
その瞬間、俺たち2人の視界は暗転し、その場に崩れ落ちた。
「操、起きてよ操」
「ん、うん……」
体を揺らされて起きる。ぼんやりと視界が開けてきたことで、ようやく目の前に咲良がいることが確認できた。
「起きた?」
「ああ、何とかな。で、ここは……」
「あたしたち、とりあえずは無事にあの天使の言ってたゲームの世界には入り込めたみたいよ」
意識がはっきりしてきた俺は改めて周りを見渡すが、そこは昼間のごく普通の街並みだった。そう、まるで俺たちの住む街のような、普段と何も変わらない景色。
「なあ、ここ、本当にあの天使サリエルの作った世界なのか?」
「分からないよ……」
咲良に聞いても仕方ないことだと分かってはいるが、思わず聞かずにはいられなかった。
「じゃあ、俺たちはここで何をすればいいんだ?」
「さあ……?」
手掛かりは目の前に見える景色だけ。果たして俺たちは「ここ」で何をすればいいのだろうか。




