操の日常~天使と幼なじみ~
「お前ら、急にいなくなって突然帰って来たかと思えば……」
俺はこの場にいる2人の天使にそう尋ねる。数日前に決闘してようやく認めてもらえたと思えば、その後ばったりと消息を絶っていたガブリエルが突然ラミエルに連れてこられて現れた。ここまでは何の問題もない。問題はその後だ。
「何がだ? 私はお前とラミエルが使っていたこの部屋を使うと言っているだけだが……」
「だから、それで何で俺が廊下で寝るんだよ! 曲がりなりにも俺はこの家の家主なんだぞ!」
彼女はこの家に来るなり、俺の部屋にラミエルと二人で寝るからお前は廊下で寝ろと言い出したのである。
「えー、でもこの家は操様が出して建てたわけではないのでしょう?」
「それを言ったらお前らは俺の家族ですらねえよ!」
親のすねをかじってと言いたいのだろうが、こいつらに関してはかじるすねすらない居候である。
「……ごちゃごちゃうるさいやつだ。なら仕方ない、この部屋を3等分することで手を打とう」
「最初からそのつもりだったのに何で妥協案になってんだよ……!」
部屋の3分の2を他の奴に貸しているのだから俺としては相当懐の広いやつだと思うのだが、こいつらにとっては何てケチな人間だというふうに見えるらしい。2人が俺をジト目で見ているのがその証拠だ。
「それじゃ、ガブリエル。ここからここまでが私、ここからここまでがガブリエルということで」
ラミエルは勝手に部屋に線を引く。しかも、その線は俺の部屋が明らかに狭くなるように引かれていた。俺の線は俺の体の分くらいしか入らないのに、2人分の部屋スペースはしっかりと確保されていた。
「お前らなあ……、いい加減にしろー!」
白昼の住宅街に俺の怒声が響いた。
「それで、この数日間で何か収穫はあったのか?」
結局綺麗に3等分で部屋を使うことにようやく納得してもらえた俺は、本題の方を彼女たちに尋ねることにした。
『ない(です)!』
「言い切ったな。むしろ清々しいわ」
結局こいつらも当てもなくこの街をさまよっていただけだったらしい。俺も同じなので人のことは言えないのだが。
「気になるのは咲良の言ってたこの間の赤い天使の噂だな」
「赤い天使?」
ああそうだ。こいつらには話してなかったんだった。
「ああ。お前ら以外にもいたんだよ。この街で噂になってる天使が。青と緑はお前らだっていうのは分かったけど、赤の方はまだ見つかってないみたいだしな」
「赤……。ということはウリエルだな……。あいつもこの街にいたのか」
「ウリエルって言うと、炎の?」
俺もこの間本で調べた程度の知識で彼女たちに応戦する。
「そうですね。3大天使にカウントされる有名な天使です。まあ、他にも能力はあるんですが、今はそのくらいの知識でもいいでしょう」
「……お前俺のことあからさまに馬鹿にしただろ?」
「いえいえ別にそんなことは。……ってあれ? 操様どこかに行くんですか?」
手持ちのリュックを持って立ち上がる俺を見て、ラミエルは俺に尋ねる。
「あー、うん。ま、ちょっと今日はな」
俺はため息をつく。今日は土曜日、咲良有紀との約束の日だ。
「まさかデートか!?」
「……そんな高尚なもんじゃねーよ」
面倒なのでこいつらには伏せておくとしよう。
「ん? ああ、そういえば今日はゲームやりに行くんでしたっけ? しばらく帰ってなくて忘れてましたけど今日土曜日ですもんね」
そういえばラミエルは途中から話聞いてたんだった。確か咲良には亡霊か何かと勘違いされてたけど。
「そういうこと。ま、お前らと戦うことになったせいで俺もあいつに特訓付き合ってもらったからな。んじゃ、行ってくるわ」
『いってらっしゃーい』
ばたんとドアが閉じられたその奥で、天使たちがこんな話をしているとは俺は夢にも思わなかった。
「予定通り以上の有能さだなあいつは。さて、それじゃ作戦実行と行くか」
「ええ。天使サリエル。あの子を何としても味方に引き入れねば」
「おー来たね異能力少年。来ないかと思ってたけど」
数十分後、俺は咲良の家に到着していた。ここ数日で呼び方が変わったのはおそらくこの間の特訓のせいもあるのだろう。今日の彼女の格好は部屋着に近いラフな格好だが、またそれも可愛いと思わざるを得ないほどだったのが悔しい。
「さすがに約束くらいは守るっての」
俺はそう照れ隠しする。半分は用事の消化もあるが、もう半分は大切な友人との遊びだ。たとえゲームに付き合うだけだとしても嬉しくないはずがなかった。
「そっか。あんたのそういうところはいいところだと思うよ」
咲良はにんまりとしてドアを開ける。
「んじゃ、入ってよ操。今日は一日付き合ってもらうんだからさ」
「おう、任せとけ」
「ほい、ワングレのわくメモ限定版」
俺は来る途中に寄ったワングレで買った約束の品を咲良に渡す。
「あーありがとー!これ欲しかったんだよねえにひひ」
「何か笑いが気持ち悪いぞどうした」
長い付き合いだが、いつもの笑みの数倍気持ち悪い。そんなに欲しかったのか。
「何よ何か文句ある? 私は早くいかくんに会いたいのよ」
「おつまみかよ。何なんだそのお前の謎のネーミングは」
「伊藤魁斗で苗字と名前を取っていかくんよ。かわいいでしょ?」
「どこがだ! ネーミングに気を取られるわどうしても」
そんな満面の笑みを向けられても反応に困る。
「公式設定なんだから仕方ないじゃない」
「迷走してんな公式も」
俺は少し頭を抱えた。
「それより、そろそろ始めよ? さっさとあの山片付けないと」
俺のため息はすぐさま桜の指さした積みゲーの山に向けられる。
「……そうだった。あれ全部今日やるのか?」
「ううん、まああんたは2本くらい終わらせてくれればいいかなと思ってるけど」
「同時進行でやってもその本数が限界だろうな」
「え? 私は8本くらいはできるよ?」
真顔で返す咲良。
「いやそれは無理だろ。どういう速度でやったらそうなるんだよ」
「ほら、私フラッシュ暗算得意だから」
「そういう問題か!?」
絶対にそういう問題ではないと思う。
「それに、あんたの前の変な能力使えば正しいルートも一発でしょ?」
「俺の能力をどういう使い方しようとしてんだお前は」
確かに可能ではあると思うが。いや、そういう問題でもないか。
「ま、それは冗談だけど。とにかく今日はあの山をできる限り減らすんだからきっちり協力してってよね」
「へいへい」
何だか長い一日が始まりそうだ、と考えていた俺だったが、その予想が悪い方向で的中することになろうとは、この時はまだ考えもしていなかった。




