ラミエルとガブリエル
「……あの、ガブリエル」
一方、ガブリエルに呼び出されていたラミエルもまた、ガブリエルに対して疑問を投げかけていた。
「何だ? 明日は早いのだし質問なら手短にしてくれ」
次の日天使操との決闘を控えていたラミエルの体調を気にしての発言である。
「それじゃ、1つだけ。ガブリエルは操様のことをどう思いました?」
「ああ、あの人間のことか。あいつは結構骨のあるやつだとは思う。この私と戦って3度も対峙できるやつは天使以外にはいないと思っていたがな。お前の助けを含めても、あいつは運もあるし、強いやつだと思うよ。そうでなければ、こんな茶番などしようとも思わなかった」
茶番というのは明日の決闘のことを指している。普段のガブリエルであればまずしないような行動だった。
「あいつなら、私が抱えている事情を話して協力してもらってもいい。そう感じたのは事実だったがな。苛立ちもあった。熱心に向かって来ようとするあいつに、私は久しぶりに何かを感じたのだろうな」
だから本気で操を殺そうとしたのだ、とガブリエルは笑った。
「だが、お前に止めてもらってよかったように思う。私も無益な殺生は好まないのでな。お前に止めてもらって冷静になることができたよ。そうでなければ、今頃あの公園は血の海だ」
「ちょっと物騒じゃないですか!?」
「はは、冗談だよ。私ならもっとスマートにやるさ」
どこまでが本当なのか分からないのもまたガブリエルの怖いところである。
「まあ、先ほどの発言を差し引くにしても、操様を認めてもらえているのは良かったです」
ラミエルはなぜだか誇らしげだった。それは、自分自身の行動を褒めてもらえたことだけではない。自分が見つけ、認めた人間である操をガブリエルが認めてくれたというその一点が彼女に自信を持たせたのである。
「……だが、1つだけ気になることがある。お前は、あのことについてはどう考えているのだ? まさか、あの人間にすべて任せるつもりではないのだろう?」
「そうですね。そこについてはまだ話していません。あくまで天使が天界から家出をしていて、それを探してほしいということしか」
「だろうな。その行方不明の理由を話してしまうのでは、あまりに馬鹿馬鹿しすぎてな」
ガブリエルもため息をつく。どうやら天使たちが天界から家出をしたのは他にも何か事情があるようだった。
「本当に、どうしたものですかね……」
「逃げていても解決はしない。時期を見てどうにかするしかないだろう。私もその好機を狙っているわけだが、なかなか難しいものだ」
ガブリエルは頭を抱える。
「しかし、どうしてお前は天界から逃げなかったのだ? 他の天使たちは探しに行くという名目で全員人間界に逃げてきたというのに、先ほどのお前の話ではお前が人間界に来たのは最後だったと聞いたが」
実はラミエルが人間界に来たのは最後だ。他の天使は2人で、天界にいるのが耐え切れなくなり、4大天使を探すという名目で天界から逃げてしまった。天使全員を探すように指令が下っているのはラミエルだけなのである。
「何でしょうね。責任を感じたところはあるのかもしれません。今回のルシフェル様の件を含めても、半分は私に責任があるのでしょうから」
「ルシフェル……か。今回の元凶はあいつだからな。まあ、お前もいろいろ考えているのだろうが、一人で抱え込みすぎないようにな。あいつに悩まされているのはお前だけではないのだから」
「はい。でも、ガブリエルと合流できたのは良かったです。もっと時間がかかるかと思っていましたが、思いのほか早くて助かりました」
6人の天使を探さないといけない以上、早い段階で一人の天使を見つけることができたのは不幸中の幸いと言ってもいい。これも操のおかげなのだろうが、今度はラミエルは口には出さなかった。
「まあ、私は頭を使う体力馬鹿だからな。天使の誰かと会うなら私が一番早いだろうさ。他の天使は実力行使だけでは認めてはくれないだろうからな」
ガブリエルは仲間のことを思い浮かべて憂鬱そうな顔をする。この先ラミエルが選んだ道がとても困難であることを案じているのだ。
「だとしても、私は他の天使も含めて全員と分かりあって見せますよ。それが、操様を巻き込んでしまった私の唯一の恩返しです」
ラミエルはもう腹はくくっている、とガブリエルに自らの覚悟を伝える。
「……お前は本当に強いな」
「えっ?」
「実は私も一度、お前と同じことを考えたことがあったのだ。だが、私一人の力で全員を呼び戻すことはできなかった。だからこそ、お前のやり方は無理だと反発していたのだがな」
「そうだったんですか!?」
初めて聞く話だ。まさかガブリエルが同じことを考えていたとは。
「私は1度の挑戦ですっかり諦めてしまった。もうあいつらと笑って暮らすことは無理だと、そう心のどこかで結論付けてしまっていたのだ」
しかし、ガブリエルはそうではなかったのだな、とラミエルの方を見る。
「私は諦めたがお前は諦めなかった、そこがお前と私の最大の違いなのだろうな。私はお前を信じてみることにした。お前が他の天使を仲間にできるように、最大限の努力はさせてもらうつもりだよ」
だからこそ先ほどガブリエルは今の人間界の調査結果までラミエルに話したのだ。ガブリエルが消息をつかむことができたもう1人の天使の存在を伝える、という名目も兼ねて。
「にしても、まさかあの子まで叛逆を起こすなんて……」
「ああ、私も驚きだったよ。あいつが動くのはよほどのことだろうからな。お前より前に天界に降りてきていたのは知っていたが、まさか任務を放り出すとはな」
そこで一呼吸置くガブリエル。
「天使サリエル。あいつと接触するなら操の能力については様子を見た方がいい。下手に能力を持ったばっかりに油断してやられてしまったのでは元も子もないからな」
「そうです。何せあの子の操る能力は死。およそ天使には不釣り合いな能力ですからね」
そんな物騒な会話をしているうちに夜は更けていく。
「操がどれほど自分の操れるかによって、今後の方針を決めていくとしよう」
「そうですね……っと、そろそろ寝ましょうか。明日も早い、ですもんね」
「そうだった。早いところ休むとしよう」
部屋の明かりが消え、静寂だけが辺りを支配する。次に日が昇るときが、彼女たちの決闘の時である。それまで、今はしばしの休息を。




