vsラミエル② 特訓の成果 成長の証
2日というのは案外あっという間に過ぎるもので、決闘の日までは長いとは感じなかった。俺は約束通り、朝の4時にきちんと公園に到着していた。
「来たか」
ガブリエルは満足そうな笑みを浮かべる。
「そりゃ、俺だって約束をすっぽかすほど馬鹿じゃねーよ」
今日は大事な日だ。きちんと早めに寝て睡眠を取り、この決闘に備えてきた。体の火傷もこの間よりは引いているし、自分の能力についてもこの2日間で把握できた。少なくともラミエルと戦えるくらいの力は持ち合わせているはずだ。
「お久しぶりです。今日は操様の全てを見せていただきますね」
そのラミエルはというと、いつもと変わらない様子で俺に挨拶した。ただ、今の言葉から察するに彼女も手を抜く気はないのだろう。この2日間ラミエルがどんな修行をしたのかは知らないが、格段に強くなっているのは間違いない。
(正直、俺としては前のラミエルとガブリエルの戦いですらついていけるレベルじゃなかったんだが……。ここまで来た以上はやるしかないな)
この17年運動らしい運動をしてこなかった俺が天使であるラミエルに勝つことができる可能性は0だ。それは天使の能力を得た今も変わらない。
(俺がこの決闘ですることは1つ、負けないことだ)
勝たなくてもいい。彼女たちに負けさえしなければ、それでいい。
「ところで、私がいなくなってムラムラしてませんか?」
「なぜそうなる!」
反射的にツッコミを返すと、ラミエルがふふふ、と笑い始めた。
「操様はその方がいいです。あんまり考えすぎないでください。ありのままのあなたの実力を私たちは見たいので」
そこで俺はラミエルが今どうしてそういう質問をしてきたのか、その意味を理解した。彼女なりに俺の緊張を解こうとしてくれたのだろう。それがあの質問だというのは気に食わないが。
「……夫婦漫才は済んだか?」
『誰が夫婦だよ(ですか)!』
呆れたようにこちらを見てきたガブリエルに対し、俺たちは同時にツッコミを入れる。
「違うのか? なら、そろそろ始めるとしよう。ルールはお前が決めていいぞ」
審判のガブリエルが俺を指名してくる。
「……いいのか?」
意外な展開に思わず聞き返してしまう。
「まあ、お前に多少有利なルールにする方が対戦としては公平だろう。能力としてはこちらに一日の長もあるわけだしな。条件として拳を交える戦いさえしてくれるのであれば問題はない」
要は自分の能力を使わない戦いをするのはダメだが、その範囲内であればこちらでルールを決めていいということらしい。そういう条件なら俺にもまだ勝ち目はあるかもしれない。俺は自分の能力も考え、こんな条件を出した。
「分かった。それじゃ、ルールは先に一撃与えた方が勝ちだ。能力だろうとパンチだろうと、どちらかが攻撃を食らった時点で試合終了。どうだ?」
「ふむ。単純明快で分かりやすい条件だ。ラミエルもそれで構わないな?」
「いいですよ。私はどんな条件でも負けるつもりはありませんから」
ラミエルの了承も得ることができた。これでもう迷うことなど何もない。あとは自分の全力を出すだけだ。
「では、試合開始だ」
ガブリエルが試合開始の合図をする。
「それじゃ、いきなりですけどゲームオーバーです操様!」
ラミエルの手から見慣れた雷がほとばしる。だが、俺はその雷に右手をかざした。
「いったい何を……」
「そう簡単に決着がついたら面白くねーだろ?」
ラミエルの放った雷は俺の目の前で四方八方に分かれて霧散していった。
「……その様子だと、自分の能力をしっかり把握しているようですね。にしても、いったいその能力は何なんですか?」
何が起きたか分からないといったように俺の方を見るラミエル。それはそうだろう。この能力を持っている俺ですら最初何が起きたのか分からなかったのだから。
「よく知らないけどな。俺の幼なじみ曰く、避雷針のような能力なんじゃないかってさ」
俺の能力の1つは自分の周りに見えない雷のようなものを発生させ、あらゆる特殊攻撃を別の場所に受け流すことができる、というものらしい。防御用のスパークを使うことができるイメージだ。もちろん直接殴ってくる攻撃には無力なこと、目で追えない攻撃には対処できないことなど弱点も数多く存在するが、少なくともラミエルと戦う場合においてこれ以上の能力はないだろう。彼女の遠距離攻撃は俺の能力の前では無力だ。
「よくそこまで自分の能力を解明しましたね?」
「まあ、知り合いに協力してもらったからな。実際何回か自分の方に水鉄砲を撃ってもらって、ようやくそういう能力だっていうのが分かったよ」
俺はため息をつきながら答える。
「何でそんなに憂鬱そうなんですか?」
「……いろいろあったんだよ」
俺がこんなに残念そうにしているのは来週の休み2日間が咲良とのゲーム時間に潰れるのが既に確定してしまっているからである。そうは言っても成田の方に頼むと余計な貸しを作ることになってしまうし、それならまだ休みを潰してでも咲良に頼む方がはるかにデメリットは少ない。彼女はひたすら水鉄砲を撃ち続ける作業に相当文句を言っていたが、これでどうにかなるのなら安いものだ。
「それともう1つ、俺の能力はこれだけじゃないぜ」
そう、そしてもう1つ。俺の得た能力はまだある。どちらかと言えばこっちの方が強すぎるくらいだ。
「なら、出し惜しみはなしですよ。操様に近距離攻撃しか通用しないのは分かりましたからね。こちらも今度は近距離戦をさせてもらいます」
そう言ってラミエルが使ったのはこの間の雷分身だった。
「お、おいおいこの間より早くないか雷分身が出てくるの?」
「修行の成果と、あとは試合開始前に力を溜めておいたのとです。そして、今回は2人ではありませんよ」
あれよあれよという間にラミエルの両脇に分身が現れた。つまり、この場には3人のラミエルが存在することになる。
「……マジかよ」
3人に増えたということは本人不在のまま俺に双方向からの攻撃が可能となったということだ。
「では、今度こそ終わりです!」
ラミエルの掛け声とともに、分身が俺に迫って来た。
(こうなったら使うしかないか……第2の能力)
俺はそう覚悟を決めるのだった。