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天使よ俺を巻き込むなっ!  作者: 小麦
水の天使ガブリエル
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天使の願い(エンジェル・ウィッシュ)

「天使を……探す?」

 ラミエルの言葉をそのまま復唱する。それはつまりラミエルの手助けをする、ということになるのだろうか。

「先ほども言った通り、現状天使を探しているのは私だけです。私の仲間たちはどこで何をしているのか正直分かっていませんからね。ですが、自分1人で1月探してみたものの、手掛かりはまるで0。挙句の果てには居候を頼んだ相手が先に天使、しかも3大天使のガブリエルと遭遇してしまうこの状況。これをポンコツと言わずして何と言いますか!」

「いや、ここで熱弁されてもだな……」

 そんなことを言われても、俺のせいでもないので何とも言えない。しかも、ガブリエルと遭遇することができたのはラミエルが俺の家に移動してきたせいなので、俺が発見したというわけでもなく、むしろラミエルのファインプレーなのだが。

「一応私も天使の力の観測ができたおかげであなたのことを助け出すことはできましたし、肉眼でガブリエルを確認することはできました。ですが、この調子で私1人だけであと5人もいる天使を全員探すのは正直無理です。というか、さっきの出来事で心が折れました」

「早っ! 今までの頑張りはどこに行ったんだよ!」

「そんなもの遥か昔に忘れてしまいましたよははは」

 潔いのかそれとも自分の実力を過信していたのか知らないが、こうもあっさり手のひらを返されるとかえって清々しい。昨日までのとげのある態度が嘘のようだ。いや、とげはまだあるのだが。

「というわけで、全部操様のせいなので責任取って一緒に天使を探してください。事情を聞いてしまった今、断られると今度こそ雷が直撃します」

「結局雷を当てたいだけかお前は!」

 しかし、素直に協力を求められるのは嬉しいものだ。成田の場合は他に天使を発見したという話も聞かなかったし、俺も咲良から話を聞いたおかげで他の天使の存在に気付けた。偶然に偶然が重なったとはいえ、ラミエルに接触しないままに知らず知らず行動を起こしていたのが良かったのだろう。でなければ、こうやって彼女が協力を求めてくることも、こうして彼女と話すこともなかったのだから。

「……まあ、分かったよ。少なくとも友好的な関係を築いてくれるなら、俺も協力は惜しまないつもりだし」

「そう言ってくれると思ってました」

「言わなくても言わせるつもりだったんだろお前の場合」

「はは、ばれました?」

 ラミエルも笑顔を見せる。少なくとも、俺に対してはそれなりに心を開いてくれたのだろう。ならば、俺も彼女の要望にできる限り応えてやらねば。あ、でもこれだけは約束しておいてもらわないといけないな。

「協力してやるのはいいけど、雷の烙印(パルスタンプ)押すのだけはやめてくれよ?」

「基本は押さないと約束します。対等なパートナーとして行動するのに従属の証は邪魔なだけですからね」

「基本はってどういうことだよ」

 引っ掛かりを覚える言葉だ。

「だから、私の寝込みを襲ったりとかしなければ……」

「やらねーっつってんだろ!」

 どんだけ信用がないんだよ。

「冗談ですよ。あなたがそういう人じゃないことくらいは今までの対応で何となく分かってますから」

 彼女なりのジョークだったらしい。笑えん。

「……まあいいや。それで、具体的に俺は何をすればいいんだ?」

「そうですね。それじゃ、ちょっとだけ死にかけてください」

 ラミエルは笑顔でそう俺にお願いしてきたのだった。



「よーひねくれ少年……って何だその傷? 全身に火傷の跡とか何やったんだよ?」

 次の日、登校途中に俺を見かけて声をかけてきた成田は、俺の体の火傷を見て若干引き気味に聞いてきた。しかし、ある程度の距離を取りながら目すら合わせない辺りがよほど他人の目を気にしているらしい。朝から不愉快な奴だ。

「安心しろ。お前には全く関係のないことだから」

「にしたって、その火傷はどう考えてもおかしくねーか?」

「ま、いろいろあったんだよ。お前には分からないだろうし、説明する気もないけどな」

「……? まあいいけど。つーか、お前あの女とうまくやれてるのか?」

 成田の疑問はもっともだろう。そもそも俺に丸投げしてきたくらいだからな。俺に厄介ごとを押し付けた手前、多少は気にしているのだろう。

「ま、お前よりはな」

「言ったなこいつ。ま、そういうことならいいわ。お前にあげたラノベ分は働いてくれそうだしな。んじゃ、そういうことで」

 成田は聞きたいことだけ聞いてさっさと去っていった。こいつ、本当に俺と一緒にいるところを見られたくねーんだな。俺は何でこいつと関わりを持ってるんだろう。人生の中で七不思議にカウントできるレベルだな。

「あ、操じゃん。おはよ」

「咲良か。おはよう」

 成田と入れ替わりに話しかけてきたのは咲良だった。こいつはきちんと俺の横に並んでから話しかけてきたのでやっぱりいい奴だ。

「何かその様子だとあの後いろいろあったみたいね。昨日の今日でそれとかさすがに引くわー」

「仕方ねーだろ。でも、お前のおかげでいろいろ助かったわ。今度何か乙女ゲー買ってきてやるよ」

 その発言に咲良は目を輝かせた。

「えっ、マジ? んじゃ、今週のわくメモの限定版ワングレでお願い。あれの特典店舗によって違うみたいではしごすんのどうしようか悩んでたところだったの」

「ああ、新作出るんだっけわくメモ。ワングレなら俺も行くからちょうどいいや。任せろ」

 今の会話はワンダーグレイトという店でわくわくメモリアルというゲームを買ってきてくれ、という会話なのだが、知らない人が聞いたらおそらく意味不明なことだろう。

「サンキュ。でもあんたにそこまで感謝されるのも珍しいね。そんなに役に立ったのあたしの情報?」

「ああ。お前のおかげで死なずに済んだからな」

 さすがに水に殺されかけたとは言わなかったが、この体の傷を見ればある程度は納得してくれることだろう。ある意味説明を省けるのでこちらとしても楽だ。

「昨日何があったのかは知らないけど、その傷見るに何だかとんでもないことに巻き込まれてたみたいね。ま、無事で何より。そんじゃ、また情報聞いたら連絡する」

 咲良はわくメモ忘れんなよー! というセリフを残して去っていった。

(さて、今日の授業は適当に流さないとな。帰ってからが本番だ)

 俺は手のひらに新しくできた紫色のあざを見て、昨日のラミエルとのやり取りを思い出しながら決意を固めるのだった。



「死にかける? いや、若い身空で人生を捨てるのはちょっと……」

 ラミエルの言葉に俺は慌てて数歩後ずさる。

「いや、何の勘違いですか。別に死ぬとは言ってないですよ。死にかけるだけです」

「どう違うんだよ! 結局俺大怪我するんじゃねーか!」

 痛いのは嫌だ、と駄々をこねる俺。

「じゃあ、私に協力するって言ってくれたさっきの言葉は嘘だったんですね? じゃあ、今から死んでもらいますか」

「結局死ぬんじゃねーかやっぱり嫌だよ!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺を見て、ラミエルは床を強く叩いた。

「ああもう! このままだといつまで経っても平行線なのでちょっとだけ話を聞いてください! あなたには今から天使になってもらいたいんです」

「……はい?」

 その言葉の意味が分からない俺は、当然のように首を傾げるのだった。

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