天使みたい
頂上には五分ほどでついた。武士の夢佐和山の看板の前に九ちゃんがポツンと立っていて高月渚を認めると、赤い瞳を輝かせ、高月渚に走り寄り、両手を彼女の腰に回し抱き着いた。
「ママー」
「おはよう、ごめんね。待った?」
「ううん、全然。ママ可愛い。天使みたい」
「ありがとう」
「おしゃれしてきてくれたんだね、嬉しいな」
「うん。約束したからね」
「高月渚」
「ごめんなさい」
「さっき言ったこと覚えているだろうな」
「覚えてます、大丈夫」
「ママー」
「何?」
「ママじゃない」
「昨日まではね、今日ママになってもらうもん」
「ならない」
「なるもん、酒呑童子に言ったもん、酒呑童子くれるもんならなんでもって言ったもん、だからママのこともらうもん」
「もらわない、高月渚は渡さない」
「出しゃばりー」
「さっさと行くぞ」
「うん、行こう。九ちゃん」
「うん、ママ手繋ごう」
「うん」
九ちゃんは小さな左手で高月渚の右手を取った。
「こっちだよ」
九ちゃんが空いてる右手で壁に画びょうで張られたポスターを強引に破るような仕草をすると、そこにぽっかりとした丸い穴が開いた。
「行こう、ママ」
「うん」
高月渚はちらりと高遠忍を見た。
彼は何も言わず、平然としていたので、大丈夫なのだろうと思い九ちゃんに手を引かれるまま、丸い穴に恐る恐る右足から踏み込んだ。
辺りは暗く、何も見えなかった。ただ九ちゃんに握りしめられた手の感覚だけがあった。




