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白い蛇が誰にも見えていないことを悟った彼女は、ふとこの蛇は何を食べて生きているのだろうと思った。
自分はエサなどやっていない。
自分が寝てる間にどこかへ行って食料を調達しているのであろうかとも考えたが、この蛇は何の匂いもしないし、体温も重さも感じさせないのだ。
おかげで暑かった夏も快適に過ごせたし、彼女に危害を加えるようなこともなかった。
そう。この白い蛇は恐ろしいほど邪魔にならなかった。
まるで彼女の筋肉のように稼働するのだ。
彼女の体にピタッと一致する、まるで影のように。最初から、生まれた時から彼女の体の一部分を担っていたかのように。
白蛇は彼女の太腿で何かを充電しているように時を待つかの如く静かだった。
幼い高月渚は考えた。
お父さんにもお母さんにも内緒で秘密のペットを飼っていると思えばいいのでは、と。
ずっとペットが欲しいと思っていた。
お姉ちゃん達が飼いたいといっても母親が「どうせすぐ飽きちゃうし、生き物なんだから飽きたら捨てるとか、そんなことできないのよ、無責任なことしちゃ絶対ダメ」といって飼うのを許さなかったので、渚も飼いたいとは言わなかった。
それに渚はどっちかっていうと、白クマだとか狐とかペンギンとかおおよそ田舎とはいえ、彦根の一軒家で飼えないものばかりを飼ってみたがっていた。
白い蛇は彼らに比べたら小型だが、なんというか子供ながらにレアな感じはした。
色々考えた結果彼女は白い蛇に「シロちゃん」と名付けた。
命名と友愛を示すため、彼女は深めの白い小皿に水を入れてシロの顔の前に差し出した。
シロは顔を背けた。
いらないということかと彼女は理解した。
しょうがないから自分で飲んだ。
お肉なら食べるだろうかと、冷蔵庫から魚肉ソーセージを取り出し上げようとしたが、これも拒絶された。
仕方がないので、自分で食べた。
十年以上たった今もシロは何も食べないし、何の会話もしない。
ただいつも、彼女の太腿を定位置にして相変わらず、ただ音もたてず、柳のように静かに傍にいる。