お腹
白い蛇が高月渚の前に現れたのは彼女が五歳になったばかりの四月の雨の日の朝だった。
白い蛇は何の前触れもなく、ある日の朝彼女の太腿に蔦が絡まるように巻き付いていた。
当然彼女は驚いた。わけがわからなかった。
蛇は体温こそないが、揺らめくように蠢き、彼女に昨日までとの違いと、不思議な生命を感じさせるには十分だった。
幼い高月渚は、しばらく蛇を見つめた。そうこうするうちに母親が彼女を起こしに来た。
彼女はネグリジェをたくし上げ、白い腹と白い太腿を母親に見せた。
「お母さん、へびー」彼女の母親は最初娘が何て言ったのかわからなかった。
「何か言った?」
「へびー」
彼女は相変わらず母親に白い腹と太腿を見せたまま、今度はさっきより大きな声で言った。
だが彼女が望んだ返事は得られなかった。
母親は「どうしたの?お腹出して。虫にでも喰われたの?」と言って、彼女の白いお腹を触った。
幼い高月渚は母親に見えてないことをすぐに悟った。
階段を下り台所へ飛び込むと、休日だったので父親が冷蔵庫から豆乳を出しコップに注いでいた。
彼女は父親にも同様にネグリジェをたくし上げて、白い腹と太腿を見せた。
だが何の成果も上げられなかった。
父親はいきなりおはようも言わず、腹を見せてきた末娘に
「お腹がどうかしたのか?」と気の利かない一言を返し、豆乳を飲み
「顔洗っておいで、今洗面所あいてるよ」と言った。
高月渚はおとなしく洗面所に向かった。
基本的に彼女はおとなしい子供だったので言う通りにした。