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馴れ初めを聞かれても困る  作者: 青木りよこ
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今、何時?

しばらく二人は無言でいた。

何も話さなくても良かった。もう彼女の望みは叶っていた。

心も身体も満たされ切っていた彼女に、突如ある疑問が降ってきた。


「ねえ、高遠君、今、何時?」


高遠忍はポケットから黒いガラケーを取り出し「六時四十分」とこともなげにさらっと言った。


「六時四十分?ごめんね、私、帰らなきゃ、家ね、ごはん七時なの。お母さん、友達に電話かけちゃう」


高月渚は立ち上がり、足元の鞄を手に持ち、来た道に走り出そうとしたが、高遠忍は彼女の腕を掴み、白い細長い御札のような紙を取り出し、何かを引き寄せるように空へ投げた。

すると次の瞬間、何もなかった空間に首のない黒い馬が現れた。


「これに乗ってくれ、山を下りていたら間に合わないだろう」

「いいの?」

「ああ」

「ありがとう、ねえ、どうしたらいいの?」

「どうしたらって、またがったらいいだろう、馬なんだから」


そういわれても、馬は彼女の身長ではまたがることなどできそうもなかった。

彼女が逡巡していると、彼は察したのか、「悪い、あんたじゃ自力で乗れないな」と言い「持ち上げていいか?」と聞き、彼女が

「お願い」と言うと彼女の細い腰に手を添え、子供を寝かしつけるように優しく、首なし馬に乗せた。


「ありがとう、高遠君」

「嫌、気を付けてな」

「うん、また明日ね」

「ああ」


首なし馬は優雅にひとっ跳びで高月渚の家の庭に降り立つと、彼女は感動と高揚の余り、首なし馬に抱き着き「ありがとう、また改めてお礼に行くね」と言った。

彼女が離れると首なし馬はすぐに青い空に消えていった。

彼女は大慌てで玄関のドアを開け、見慣れた我が家に飛び込んだ。

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