白蛇
朝起きて高月渚が一番に確認するのは自分の太腿に巻き付いた白い蛇が今日もいるかである。
今日もいた。
良かった。
いなかったらどうしようかと思った。
別にいなくなったらいなくなったで、彼女の生活に何ら支障はないのではあるが、この白い蛇とはかれこれ十年の付き合いなのである。
いなくなったら寂しいだろうな。
それにいなくなったら、彼に話しかけられない。
高月渚はある決意を固めている。
同じクラスの高遠忍に話しかける。
入学式で彼を見た時から、話してみたいと思っていた。
あの信号が赤になる前に渡れたら、マスターモードの初見でフルコン取れたら、無料ガチャでSRが来たら、この石垣を曲がって最初に見たのが綺麗なお姉さんだったら、今日の夕飯がハンバーグだったら、この三か月、日常のあらゆる因果を彼に結び付けて明日こそ話しかけると決意を固め、眠りにつくのが、もはや彼女の習慣になっていた。
高月渚はベッドから起き上がりもせず、ネグリジェの裾がたくしあがり、だらしなく露わになった太腿に巻き付く白い蛇を確認し、目覚まし時計を止めた。
そしてやっと起き上がり、聞こえてるかどうかさえ定かではない白い蛇に朝の挨拶をする。
「おはよう、シロちゃん」
傍から見たら自分の太腿に話しかける危ない女の子だろうが、ここは彼女の自室であり、人間は彼女しかいない。
そう、人間は。