毎日考える
高月渚は毎日高遠忍のことを考えていた。
どうやって彼に話しかけるか。
まず一言目何を言うのか。
何かヒントを得ようと、オタクの姉達の部屋から漫画の一巻ばかりを借りてきては読んだり、DVDを借りてアニメの第一話ばかりを見たりしてみたが、どの出会いも男の子同士だったし、運命的過ぎて少しも参考にはならなさそうだった。
彼女は通学途中も、友人とお弁当を食べる時も、部活中の外周も、グラブルをやっている時も、家族で夕飯を食べる時も、シロ達とお風呂に入っている時も、彼との最初の会話を考え続けた。
渚は彼のキャラクターを掴もうと苦心した。
まず彼はどこから来たのだろう?彼は玄宮園の方角に帰って切ったから電車通学ではない。
自転車通学でもない。徒歩だ。
だとしたら自宅は彦根市内ということになる。
なら中学はどこだったのだろう?渚の中学ではなかった。
市内ということはどこかですれ違っていたこととかあるのだろうか?
それとも高校から彦根なのだろうか?何だろう?親御さんの転勤だろうか?高遠君の両親。
高遠君はお父さん似だろうか、お母さん似だろうか。
どちらにせよ美形なんだろうな。
あの美しい金色の髪は誰譲りなのだろうか?
兄弟は?高遠君に似た弟さん。小さな高遠君。きっと可愛いだろうな。
何故か渚は小さな高遠忍が小さな両手でグラスに入った牛乳を飲むところを想像し、嬉しくなってしまった。
今はクラスで一番大きい彼にもそんな頃があったのだ。
だが小さな彼を想像したりすることはできても、肝心の会話は想像することはできなかった。
渚は彼の言葉を知らなかった。
教科書を読む澄んだ声は知っていても、渚は彼の一人称すら知らなかった。
俺というのか僕というのか、渚はまだ彼のことを知らなさすぎるのだ。