そして今日も黒タイツ
高遠忍を目で追うようになってから、すぐに彼女は高遠忍にシロたちを見せる決意をした。
見せたいと思った。
だが同級生の男の子にパンツを見せるわけにはいかない。
見えていたらいいが、見えてなかったら唯の痴女だ。
高月渚は厚めの黒いタイツを履いていくことにした。これならパンツが透けたりしない。
彼を見つめ続けて得た情報は、彼は親しい友人などはいないのか、いつも一人でいて、クラスメイトと談笑している様子などは一度も見たことはなかった。
おかげで彼の声を数回しか聞いたことはない。
それも酷く短い、夏の夜のような声だった。
渚には白兎が見えているので、彼が寂しそうには見えなかった。
白兎はいつも高遠忍の頭の上にいた。
彼はいつも気にも留めず、静かに授業を受け、部活には入っていないので終わるとすぐに帰っていった。
渚には彼が一枚のカラーイラストに見えた。
美しい完成されすぎた絵に他の登場人物はいらないと思った。
でも白兎は小道具としていいと思った。
可愛いものに可愛いものを掛け合わせる、それは無敵である。
単純に彼を見るのが高月渚には楽しかった。
勉強は好きでないため授業中は楽しくない。
部活は中学からやってるバトミントン部に入ったが、一年生のため週五回の部活は走り込みと筋力トレーニングばかりに逆戻りだったので、学校へ行く楽しみといえば高遠忍を見ることになってしまった。
授業中も友達と話していても、つい彼を目で追いかける自分がいるのに高月渚は気づいていた。
毎日彼を見るだけで嬉しくなった。
黒のブレザーにグレーのシャツに黒のネクタイと衣装は制服のため毎日一緒だったが、彼のためにデザインされたように似合うし、えんじ色のダサい体操服姿ですら、彼の美しさを損なうことなどなかった。
彼はひたすら、美しかった。
そして誰よりも遠かった。