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一歩踏み出すために ~「君の名は」読書の感想から~

作者: 仲間 梓

 新海監督の最新作「君の名は」を読んで少し思ったことを述べていく。なんだか小学生の夏休みの宿題だった読書感想文みたいだな、と今思った。仲間梓、夏休みの宿題『読書感想文』とでもしておこう。

 先に述べておくと、この読書感想文中では「君の名は」に対して批判はしない。あらすじは述べないし、ネタバレも一切しない。しかも読書中に感じたことを述べるわけではない。読書後、思い至った一つの考え方について、ありのままに描いていくだけ。感想に関しては、Amazonのレビューで分かり易く述べられているので、そちらを参考にされたし。



***



 アニメーション映画の原作(原作?)として、角川書店から発行されている小説「君の名は」。暑さ厳しいこの季節に、クーラーもかけず、実家の絨毯に寝転がって一気に読んだ。

 「ふぅ」と一息ついて、汗をぬぐう。文庫本を大切にしまいしまいして、再度一息、直後に絨毯をドンと叩いた。

 ……唇が震える。脳が震える。手が震える。血が騒ぐ。この感動を誰かに伝えたい、けど今はみんな会社に行ってて話せる人がいないからとりあえず絨毯を叩く、叩く叩く叩く。ついでにごろごろ転がって内から溢れ出る感情を逃がした。そして、映画のホームページを見て、「これあのシーンか!」と理解して再び悶絶する。今こうやって書いてみると、なんて私は気持ち悪いことをしているのだと思った。そりゃぁ、帰ってきた妹が目を真ん丸にして「何事!?」というわけだ。


 とにかく、そうしていると少し落ち着いてきた。それでも作品の読了感は抜けたわけではなく、私の頭はまだ作品に縛り付けられて動けないままだ。「こんな感覚、久しぶりだな」と「昔はよくこんな感じになってたな」と考えて、立ち上がる。

 この感じは好きだ。自分が面白い作品と出逢えたから、作者が面白い作品を作ってくれたからこんな感情になれるわけで、感謝……圧倒的感謝(文章大丈夫か?)。


「こりゃ、明日も作品のことだけしか考えられないかもしれんな」


「なに馬鹿なこと言ってるの? ってああ、元からだったか、ごめん」


「おいこら」


 妹に冷たくあしらわれるのも、今年で二十年目だからもう慣れた。

 その日の夜は、キャラクターのその後を考えただけで、過ごしてしまった。楽しかった。ただ胸が躍り、いつまでも起きていられるような気がした。さすがに力尽きて、寝たけど。


―― 一晩で、熱は冷めた。


 物語が楽しくなくなったとかそういうわけじゃない。ただ冷静に分析できる状態まで、脳がクールダウンしただけだ。そうやって考えてみると、どうしても思ってしまうことがあった。実際には読み終わった時から感じていたことだけれど、今まで無意識のうちにそう考えるのを遠ざけていたのかもしれない。


「あと十年早く、この作品を読めていれば、もっと感動できた」


 ということ。IFは考え始めると止まらない。


 主人公と同い年だったら? 

 もっと境遇を共有できれば?

 無知の知とはいえ、小説の知識が、もっと少なかったら?

 ファンタジーに対してミステリーで考えてしまう自分の脳が許せない。幼いころにもっとファンタジーを読んでいれば?


 そんな考えが入り混じって、色で色を塗りつぶすように頭の中がこんがらがっていく。でもその中で、最も気になっているのは一つだけだ。


 私が、もっと若ければ……。


 『味覚の趣向が齢を取るごとに変わるように、作品の趣向も齢と共に変わっていく』


 と、どこかの本で読んだことがある(ソースが曖昧)。

 これにはまったくもって同感だ。幼少期や中学生のころは英雄願望を満たしてくれるような軽快な作品だったり、自己認識欲求を満たしてくれるような恋愛作品を求めるのに対して、高校以降は人の死や欲望などの重いテーマを好んで読む傾向になりやすい。これは私自身も体感しており、そして現在地上波で放映されているドラマのジャンルに、コメディがほぼないところからも説明できる。

 昔は見て「面白い」と感じた作品もしばらくたって再度見ると「面白い?」と疑問符がついてしまう。のも、人間の経験という『老い』がそうさせてしまうのかもしれない。

 人は変わる生き物だ。変わらない人などいない。

 ただ変わってしまったせいで、否応なしに齢を取ってしまったせいで、もっと感動できたはずなのに、薄くなってしまうなんて……間違っている。


 私が言いたいのは、「齢を取るのが間違っている」というわけではない。「年齢と共に感情が失せて行って、感動しなくなる」というわけでもない。

 ただただ、私が述べたいのは「明日の自分は自分ではない」ということだ。

 今日感動できたことが、明日は感動できなくなるかもしれない。今日綺麗に映ったことが、明日は汚く映ってしまうかもしれない。考え方も十六歳と二十六歳では大きく異なってくる。老いは今この瞬間にも、刻一刻と進んでいく。


 もし、何かをしたくて、でも勇気がなくて動き出せない人がいるならば、今がその動く時だ。

 未来の自分が過去の自分の考えを引き継いでも、それは思い出の中にある偽物にすぎない。今のあなたが考えたことは、今のあなたじゃないと描くことは出来ない。

 だから、自分の気づいてしまった深い森の中から、一歩を踏み出してほしい。他の人に笑われたって、惨めな思いをしたって、それが今の精一杯なら、それでいいんだ。

 踏み出したその先には、必ず明るい未来が待っている(舞っている)はずだから。


***


 これ、読書感想文か? まあいいか。もともと作文はあまり得意な方ではないのよ。


 今回のエッセイは、新海誠監督作品「君の名は」の内容とは一切関係ない。

 ただこの小説を読み終わり、冷静になった際に、伝えたい想いがどばっと決壊してしまったので、思わず書き記してしまっただけ。

 さて、この辺で筆を置くことにしよう。

 毎日やろうと決めていた2時間チャレンジもサボってしまったし……急いで書かなくちゃ。


 それではまたどこかで。


 P.S.

 以降の文章は、私が「君の名は」を知った経緯について書いてある。

 このエッセイの前置きにするつもりだったが、妙に長くうざったらしくなってしまった為、削除するつもりだった。でも、備忘録の意味も込めて残しておくことにした。もしかしたらほんの少しのネタバレもあるかもしれないので、読むときは注意されたし。





***




 その作品と出逢ったのは、記憶があまり鮮明ではないが、恐らく今年の6月頃だったと思う。

 いつも通り撮り貯めていたアニメを消化していたとき、軽快な音楽と共にその作品のCMが始まった。ただのCMかと思って流し見していた……はずだった。気が付けばのめり込んでた。キャラクターに、音楽に、背景に、色遣いに、息遣いに、キャラクターの涙に、アニメーションに……。

 たった15秒のCMに心が震えた。「絶対に面白い」と直感で思った。

 隣で見ていた妹が「新海監督、また面白そうな作品作ったんだね!」と熱の籠った声で言った。私よりもはるかに多くの本を読み、知識が深い彼女が「面白そう」な予感を、すなわち私と同じ予感を感じ取ったのだ。この作品は期待通りの、否、それ以上の心の躍動を私にもたらせてくれると確信した瞬間だった。

 

 ここまで熱を入れて語っておきながら、そこから2か月くらい、その作品のことをすっかり忘れてしまっていた。もうこの時期には文庫本が発行されていたにも関わらず、記憶の重箱の隅に仕舞っていたため、本屋に行っても目に入らなかったのだろう。だが、改めて物語と『出逢う』時がやってくる。

 ――人生に必要な人には必ず出逢えるように、人生に必要な物語には必ず出逢えるようになっているんだ。


 職場が長期休暇に入った直後。私は実家がある埼玉に戻る前に、本屋に立ち寄ることにした。いつも通り、コミックの新刊を眺めた後に、ラノベの新刊棚へ。そこで目に入ったのがあの作品だった。

(正確にはAnother Side: Earth bound というサブタイトルが付いていて、それは本編とは別の特別篇だったのだけど、当時の私は「あ、あの作品だ!」と完全に思い込み、レジに走ってしまい、半分ほど読み進めて少し後悔することになる。後日改めて本編を買った)

 

 実家に戻り、本編を読み進めていく。読んでいるときはただただ面白いとしか感じられなかった。定期的に入れ替わる二人、変わっていく人間関係、深まる感情、そして喪失と挑戦。すべてを忘却させられ、それでもなお、再び逢い見えることが出来た二人に、心が震えた。

 やっぱり私と妹の直感は正しかった。いや、もっとそれ以上に、大きな流れを感じた。

 本当に面白い作品は一発で読者を取り込めるだけの予感を秘めており、多くの人が取り込まれる作品ほど傑作になるのだ、と実感した。

 そして読んでいる中で、ずっと思っていたのは「早くアニメを見せてくれ!!」ということだった。もちろんだが、決して小説が悪いわけではない。これでも充分感動できるし、十分面白い。ただ、この作品はアニメで描かれるのが最も相応しいと感じただけだ(後書きで新海監督も同じことを言っていて、ああやっぱりそうなんだと少し嬉しく思った)。


 さて、このような経緯で私は「君の名は」の小説を読んだわけである。


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