P6 同時刻 米国
日本の渋谷で大量殺人事件が起こったのと同時に、他国も異世界軍による攻撃を受けていた。
アメリカ合衆国、ニューヨーク市マンハッタン島のミッドタウンに存在する交差点、タイムズスクエアは世界の交差点と呼ばれた頃の輝きを失いつつあった。
高層ビルにはニューヨーク市警のパトカーがあり得ない高さでめり込み、元が人だったのか分からないほど原型を残していない肉片が散らばっていた。
「ふん、異世界人はどれほど強いのかと思えば、奇怪な乗り物に乗ってくる程度のものではないか」
黒いローブに身を包んだ髭面の老人、サミエルは、同盟国のイージニア帝国から異世界遠征要請を受けたエンゼルバッツ王国の大魔法使いである。タイムズスクエアに現れたサミエルは、持ち前の風魔法でニューヨーク市民を虐殺、駆けつけてきたNYPDの警告を無視、応援に来たSWATもろとも逆に返り討ちにした。
「ワシ一人でこの世界征服できるんじゃないか?」
彼は異世界で10人しかいない大魔法使い。故に、楽観的な見方をする彼は、この世界、否、アメリカ合衆国軍を見くびり過ぎていた。
「Do you hear this voice?(この声が聞こえるか?)This is USarmy(こちらはアメリカ合衆国陸軍だ)……Fuck you son of a bitch!!(ふざけんじゃねぇよこん畜生め!)」
サミエルが理解できないニュアンスの音声が聞こえてくると、地を何かが揺るがす。遠くの空からイボイノシシと呼ばれる対地攻撃機A-10が30mmガトリング砲をサミエルに撃ち込んだ。
「ぐぉおおおお!?」
サミエルは風の魔法を最大限に発揮し、間一髪で銃弾を受け止める。早々に撤退しようと考えるが。世界の警察アメリカ合衆国がそう簡単に逃がしてくれるはずがない。
「な、なんじゃあれは?」
キュラキュラと音をたてて迫ってきたのは、アメリカ軍の主力MBTであるM1A2エイブラムス戦車である。エイブラムスは砲塔を回転させ、サミエルに向けて120mm滑腔砲から劣化ウラン弾を発射する。
「このぉ!舐めるなぁ!」
エイブラムスから発射された劣化ウラン弾を受け止めたサミエルは、随伴してきた第75レンジャー連隊の銃撃を耐えながら、反撃しようと杖を振りかぶる。
しかし、その行動は無意味に終わる。上空に待機していたAC-130の対地攻撃により、サミエルは粉々に砕かれた。
事件終結後、時空の裂け目ができたマンハッタンは米陸軍により封鎖。ホワイトハウスは声明を発表。合衆国に侵攻した愚か者に相応の手段を取ると。