P12 門の向こう
日本は、今回のイージニア帝国に対し派遣する部隊を大規模部隊にする。
まずは、海外派遣で経験を積んだ中央即応集団を中心に、九州の防人である西部方面普通科連隊、北の守りである第七機甲師団、東部方面隊の第一空挺団などの精鋭を中心とした陸自5000名。
F-15J、F-2、F-3などの航空隊と空中給油機などを中心とした空自200名。
国連で議決された翌日、渋谷駐屯地には陸自車両がひっきりなしに出入りする。一番の注目の的は主翼、胴体などに分解されたF-3ステルス戦闘機などの航空機だった。その他にも、最新の10式戦車や機動戦闘車、AAV7も運び込まれている。
渋谷駐屯地の外壁は突貫工事のため映画のセットのような壁だが、数週間以内には防壁が完成する予定だ。
「すごいな……」
同日派遣されることになった第1戦闘団第1小隊長の立川は、渋谷駐屯地に入り込む陸自車両の列で足止めを食らっていた。
「隊長、本当に異世界に侵攻するつもりなんですか?」
運転席に座っている彼の部下の市原陸曹長が疑問を投げかけて来る。
「テロの首謀者逮捕が大義名分だが、やっぱり帝国とやらに報復するつもりだろ?俺たち政治家じゃないし、命令に従うだけだよ」
「そうですよね……ん?」
市原が沿道を見る。そこには、毎度の自称平和団体が『異世界侵略を許すな』やら『侵略の歴史を繰り返すな』などの弾幕を掲げ騒いでいた。
「良い加減にして欲しいな……」
「相手にされてないって自覚ないんでしょうか?」
「さぁ、どうだろうな」
すると、渋谷大量虐殺事件の遺族らしき人物たちが、自称平和団体を強制排除し始めた。立川と市原はその様子を見守る。
「何だ!?お前たちは!邪魔するな!」
「……邪魔をするな?邪魔をしているのはあなた達の方です。ここで何人死んだか分かってるんですか?」
「そんなのしるか!今は自衛隊の侵略を食い止めることが最重要なんだ!」
「1200人です。その中にはついさっきまで隣にいたはずの私の妹や、命がけで他人を守った警察の人や消防の人たち、無抵抗で踏みにじられたご老人の方々もたくさんいます。あなた達はその人たちの命をどう思ってるんですか?」
「知らん!知らんからどけ!」
「正論になってません。どくのはあなた達の方です!」
「調子に乗りやがって!」
平和団体であるはずの一人が、先頭にいた少女に殴りかかる。もちろん、目の前で暴力を見逃すわけもなく、殴りかかった本人は現行犯逮捕。残った団員は機動隊に取り押さえられ、バスに詰め込まれて連行された。
「日本も変わったな……」
「そうですね……あっ、動きましたよ」
再び車列が動き始める。そして、がっちりと外枠を固定された時空の裂け目を通り抜ける。
「どこだここは?」
広がったのは一面の平原だった。空は汚れ一つない澄み切った青、まるで北海道の奥地にある自然のパノラマのようだ。
「第1戦闘団はこちらです」
警務隊の指示に従い、自分の小隊が所属する第1戦闘団の集合地点に向かう。すでにテントが幾つも建っており、対空機銃や有刺鉄線が張られていた。
「第1小隊長、立川2等陸尉であります!」
「同じく第1小隊所属、市原陸曹長であります」
「楽にしたまえ」
須藤1佐は2人を楽にさせる。
「君たちを呼んだのは他でもない、偵察隊を設立しようと思う」
「偵察隊でありますか?」
「OH-1の偵察にも限界があってな、陸路から周囲の情報収集、できれば現地人とのコンタクトを取って欲しい。立川くんには第1偵察隊の隊長を勤めて欲しい。できるか?」
「了解しました。立川2等陸尉、偵察隊の隊長を引き受けます」
「よろしい、下がってよし」
敬礼して指揮官テントを離れる。2人は明日から行われる偵察に備えて、自分たちのテントで休息を取ることにした。