第三話:二人の刑事
修正版、第三話です!!
1
雨が降り注ぐ午後の夕方、とある警察署で一人の警官の処分が下された。
途中の間で色々な事があったが、最終的に下された結果は『クビ』。
あまりにも理不尽すぎる取り決めにその警官の同僚も上官に詰め寄った。しかし、それも無駄で警官は残り少ない警察の生活を送ることになった……筈だった。
完全に追い詰められたと思われた時に、その警官に救世主が現れたのだ。その人物は誰もが予想出来なかった行為をして、その警官を救った。
結果、警官が下された処罰は『巡査へと降格』だった。
これもかなり痛い罰だったが、クビよかはマシだなと実感できた。
その警官は自分を救ってくれた人物に礼を言おうと心に決めていた。だが、それは実行されることはなかった。
その人物は警官の最終的な処罰が決まる前にすでに警察を辞めていたのだ。
それから半年後____
「ゃヵさん! 彩夏さん!!」
耳元で誰かが自分を呼びかける声が聞こえる。どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
彩夏はデスクに突っ伏している状態からゆっくりと上体を起こし、軽く伸びをする。
彼女の名前は、水樹 彩夏。 ここ夜雲町にある警察署で働いている巡査だ。
見た目はかなりの美人で他の婦警達と比べ、一つや二つ勝っている所もあった。
だが、所内の男性警官達は決して彼女に近づこうとはしない。それにはちょっと訳ありの理由があるからだ……
その理由についてはさておき、そんな訳ありの人物に唯一、話しかけることが出来る男性警官がいた。
「ほら、休憩時間も終わったことですし、さっさと調査の続き始めますよ!」
そう、それはさっきから仕切りに彩夏を起こそうとしていたこの警官だった。
その警官に対し、彩夏は気だるそうな声で座っている椅子にもたれ掛かる。
「そんなこと言ったって、これまでの実績とかほとんどアンタ一人で取ってる訳だし今更、いらんでしょ私なんて」
「いや、それなら実績取れるよう頑張りましょうよ……」
「そこんとこはアンタの手柄の一部もぎ取れば大丈夫だから、ヨロシクー夜城」
「なんて人だ……」
呆れながらその警官、夜城 霊は自分のデスクに山積みになっている書類を整理し始める。
彼は一ヶ月前にこの警察署に訪れた私立探偵で過去に何度も世話になっているらしい、そしてこの度、彼に与えられた仕事は彩夏が請け負っている事件の手伝い、そして彩夏の監視役という事になった。
そして、彼らが今回、請け負っている事件というのは____
「しょうがないじゃん、アンタはまだ一ヶ月だけど私なんかもう半年近くこの事件やってるんだから…… そりゃ、やる気も無くなりますわー」
「じゃあ何で引き受けたんですか? 『誘拐事件』そして、『猟奇殺人事件』を?」
そう、ここ最近、この夜雲町で起きている噂の事件『誘拐事件』の調査を彼女達は担当していた。
何故なら、この事件は全くといっていいほど、何にも成果が出ていないからだ。
半年前に彩夏がこの事件を請け負う前にも担当していた警官達がいたのだが、それらは全て例外なく過去に何か事件をやらかした問題児だったのだ。
そして、その内の数人は行方不明となっていて、署内では呪われた部署とも呼ばれていた。
そんな彼らがいた部署に彩夏は自ら頼んで入った。 それから彩夏が入ってから境目に次々と警察を辞めていく者が増え、最終的には彩夏、一人だけとなってしまったのだ。
理由としては、彩夏が入ってきたからというものだが、それ以外にも時折、失踪してしまう同僚の姿を見て辞めてたいという気持ちも募っていたのかもしれない。
そして、『猟奇殺人事件』だが、これは数年前から起きている事件だ。
被害者は皆、この世のものとは思えないような死に方を見せ、殺されていき、とてもテレビでは報道できないものだった。
殺された人達に関連性は全くなく、目撃者もいなく、誰が行っているのかも分からない『誘拐事件』よりも恐ろしい事件なのだ。
だが、この事件は公には公開されず、遺族の方にも詳細は伝えず病気による変死、通り魔にやられたなどとはぐらかしながら、調査していた。
双方の事件に共通している点は『目撃者は一人も出ていないこと』、『被害者も見つかっていないこと(見つかっていたとしても、悲惨な死をとげている)』、『犯人の手がかりも全くないこと』だ。
「別に、他の所入ってもつまんないだけだからよ……」
彩夏はそう短く言い、会話を切った。 その後、無言の時間が続いていたが、突然、彩夏の携帯が鳴り出した。 元同僚からだ。
「はい、もしもし……」
「彩夏か? 俺だ」
「あぁ、先輩ですか……どうしました?」
半年前の同僚を先輩と呼ぶのは最初は違和感があったが、今となってはタメよりもこちらのほうが逆に落ち着くものがあった。
同僚は相変わらずだな。と一言言ってから本題に移った。
「実はな…ここから2km離れた一軒の家で奇妙な事件が起こったんだ」
その言葉に彩夏の目の色が変わる。
彩夏の様子を感じ取ってか、夜城も身を乗り出して話を聞く体制をとった。
「それは、『猟奇殺人』に関することですか?」
「いや、まだそうとは分からないが、俺の見解からだと今回のは『誘拐事件』寄りだな」
「分かりました。 夜城も連れてそちらに向かいます」
そう言って、電話を切る。 そして、お気に入りの赤いコートを羽織って夜城に指示を促がした。
「ほら、行くわよ。 ようやく私達のヤマにも当たりが来たわよ」
「はぁ、今度ばかりは当たっていてもらいたいですね……」
夜城のダルそうな発言に彩夏は手の平に拳をぶつけながら、ニヤリと笑った。
「なーに、そんときは先輩に当たれば問題ないって。 むしろ、盛大に外して責任とってもらうってのもアリよ」
「何、狙ってんですか?」
「勿論、夕食一回奢って貰うつもり。 ちょっと値が高い店のね♪」
「なんて先輩だ……」
さっき目の色を変えたのはその為か……。 夜城は密かにそんなことを思った。
そんなこんなで少々グダグダした後、二人は署から現場に向かった。
2
数十分後、二人は例の現場へとやって来た。
捜査はまだ始まったばかりなのか、現場の警官達の動きは何処かぎこちなかった。
「やれやれ、シャンとしてねぇな……」
彩夏が呆れながら近くにいた警官を睨み付ける。
睨まれた警官は短い悲鳴を上げ、そそくさと彩夏から遠退いた。
部下イビりをしている彩夏を置いといて、夜城は事件現場の辺りの様子を見ていた。
「にしても、凄いですね。 この現場の荒れ具合」
「そうだな……確かにこれは普通の事件じゃ無さそうだな」
二人は事件現場となった民家の中の様子を見て回った。
事件現場の様子は以下のようなものだった。
まずは玄関。 ドアは外から派手にぶち破られており、斧とか鉈などを使っても出来そうにないくらいの巨大な傷があった。
次に一階、廊下には幾つかの足跡があり、壁はドアに付けられたのと同じ巨大な跡があった。
部屋は荒らされいるのとそうではない場所の2パターンあったが、中でもドアからすぐ近くの部屋、リビングの有り様は壮絶なものだった。
二階に関しては、1部屋だけ荒らされた形跡があり、それ以外の場所は然程被害は受けていないようだった。ちなみにその部屋は子供部屋と思われる場所らしい。
その他にも一階のリビング、二階の子供部屋にある窓ガラスは全て破られていた。一階は外から、二階は内側から破った跡が残っていた。
「んじゃ、早速そこら辺にいる木偶共からガイシャについて聞いてきますか」
「彩夏さん……その言い方」
彩夏はそんなツッコミを無視して、近くにいる鑑識の警官から話を聞こうと声をかけた。
「おい、そこのお前」
「?! ヒイィィィ!!」
その警官は彩夏の顔を見るなり一目散にその場から逃げ出した。
「チッ、んだアイツ。 人の顔見るなり逃げ出すたぁ、感じ悪いなぁ……」
彩夏は逃げ出す警官の後ろ姿を見ながらそう悪態をつき、別の警官の所へ向かっていった。
だが、他の警官達もみんな全く同じ反応をして、その場から立ち去った。
「………………」
「………………」
二人はお互いに向き合いながら、何も喋らずにいた。 その沈黙が暫し、流れた後に彩夏は玄関の方へ向かっていった。
「帰るぞ」
「いやいやいやいや、ちょっと待ちましょうよ!!」
夜城は慌てて、彩夏の腕を引っ張り、リビングの方へ連れていった。
「何だよ、夜城。 どうしようもないじゃんか、だぁーれも今回の事件について教えてくれないんだからさ」
「そりゃ、そうですよ!! あんなガン付けられたら誰だって逃げ出しますよ!!」
「して無えってそんなこと!! じゃあ、何でお前は私がガン付けてんのに逃げねぇんだよ?」
「私だって逃げたいですよ!! てか、やっぱりしてるんじゃないですか!!」
そんな風に二人が揉めていると外の方から一人の刑事が声をかけてきた。
「おーい、お前ら。 さっきからそこで何やってんだよ?」
「あっ、沖刑事」
夜城はその声に気づき、割れた窓の方を向いた。
声をかけてきたその刑事は窓から部屋の中に入ってきて、彩夏と夜城の交互を見た。
沖合 将俊、彩夏達と同じく八雲町で働く刑事で階級は警部。
彩夏とは長い付き合いで彩夏が降格される前までは同僚で同じ部署で働くチームだった。
彩夏が署の中で話せる数少ない人の一人だ。
「ってなんだ、先輩じゃないですか」
「あのな……彩夏、前から言っているが俺、お前が敬語を使うのはいまいち慣れないんだよ。 だから普通に喋ってくれ……」
沖のそんな言葉に彩夏は夜城を含めた三人に聞こえる音量で話し出した。
「しゃーねーだろ? こうでもしないとアンタの溺愛者共から何言われるのか分かんないんだよ」
「そんなのいるんですか? あっ、そんなことよりも沖刑事。 聞きたいことがあるんですが」
夜城は話を転換させ、先程聞くことができなかった(彩夏のせい)今、調査している事件について聞いた。
その言葉を聞き、沖は手に持っていたファイルに目を通し、説明をしだした。
「まず、この事件の被害者についてだが……被害者及び通報してきたのはこの家の主人。 事件発生時刻はおおよそ夜の10時~11時。 他にも事件発生の時、彼の友人と一人娘もいたのことだ」
「ふーん、んでガイシャと他の奴等はどうなってんだ?」
「家の主人はかなりの重症を負っていて、友人と娘さんは行方不明らしい」
沖の曖昧な発現に質問してきた本人、彩夏は眉をしかめた。
「らしいって、何だよ。 まるで誰かから聞いたような言いぐさだな」
「この家の主人が病院に搬送される前に言ってたんどと、『アイツと私の娘を見つけてくれ』ってな」
「ということは、まだその友人と娘さんは見つかっていないんですね」
夜城の答えに頷いた沖はもう一度、手元のファイルに目を配らせた。
「そういうことだ。 そして被害者の証言によるとな__」
事件発生の時、被害者こと家の主人は友人と談笑していた。 二階には娘さんが寝支度をしようとしていた時だ。
突如、玄関の扉が壊され、更にリビングの戸も破壊されてそこから2メートル程の巨大な怪物が現れた__
怪物という言葉に彩夏と夜城は違和感を覚えた。 だが、何も口には出さずにそのまま沖の説明を聞き続けた。
初めは何が起きているのか被害者、友人共にさっぱり分からなく、その場で怪物を眺めていたんだ。
その時、その怪物はいきなり被害者を丸太のような太い腕で凪ぎ払った。 それを受け、彼はそのままそこの壁に打ち付けられたんだ。
沖はリビングの壁にある巨大な跡を指差し説明した。
そして床一面に広がっている血の跡にも視線を向けた。
怪物は被害者を凪ぎ払った後、鋭利な爪のようなもので友人の胸を切りつけた。 床にある血痕がその時に出血したものだろう。
そして、怪物は二人を襲った後に二階へと上がり、被害者の娘を捕らえてその娘の部屋の窓から逃走した。
「なるほど。 だから二階にあったあの部屋だけあんなに荒らされていたって訳か……」
彩夏はそう言いながら、壁にある傷跡を調べていた。
「しっかしさぁ、先輩。 この傷跡、本当に人がめり込んで出来たものなのか?」
「あぁ、その跡から被害者の血液が検出されてな…… 間違いないとは思う。 だけど何故そんなことを聞く?」
沖の問いかけに彩夏は顔をしかめながらこう答えた。
「だってよ、たかが人が激突したくらいでこんな大きな跡が出来る訳ないと思うんだよな……」
「でも被害者は怪物と言っていた。 もしかしたら俺達が知り得ないくらいのものすごい力で叩きつけていたらどうなんだ?」
「ばーか、そんな力でブッ飛ばしてたら被害者さん死んでるわ。 良くてもそんな長々と喋るのは無理だと思うぜ」
「私もそう思います。 それに話の内容を聞いて幾つかおかしな点も出てきましたし……」
彩夏の意見に同意した夜城は沖達を玄関前の廊下に連れていった。
「これを見てください」
夜城は廊下の壁に付けられた無惨な傷跡を指差した。
「おかしいとは思いませんか?」
「何がだ?」
「怪物は玄関を壊した後、すぐに二人のいたリビングへやって来たですよね? いつ怪物がこの廊下一帯に傷を作ったのですか?」
「そ、それはこの家から出ていく時にやったって可能性も」
「先輩、さっき自分で言ってたこともう忘れちゃったんですかぁ? 怪物は二階の窓をぶち破ってトンズラしたって言ってたじゃんか」
彩夏は沖を嘲笑いながら、懐から煙草を取りだし火をつけた。
そんな彩夏に沖はムッとしながらも話を続ける。
「……確かに違和感があるな。 じゃあ、これらの傷跡はいつ付けられたんだろうな……」
「この白い粉末は多分、壁の破片だろうからそんなに日にちは経ってはいないよな」
「他にも壊されている物関連でおかしい場所があります」
「何処だ? そこは?」
「一階の窓全部ですよ…… 玄関から侵入して、二階から脱出、しかもすべて外側から……」
そんなことをブツブツと呟きながら夜城は床に座り込んだ。
「沖刑事、被害者は怪物が全部で何匹いたか言っていましたか?」
「一匹だ。 単独犯だと言っていた」
その情報を聞いた瞬間、夜城の体から一気に力が抜けた。 そして仰向けに寝転がった。
「はぁ、決まりましたね……」
「おい、夜城。 さっきから一人で勝手に理解して話進めてんじゃねーよ。 んで結局、何が言いたいのよ」
「つまり今回のこの事件は私達の出る幕ではないってことですよ、彩夏さん」
「「はっ?」」
「順を追って説明しましょう…… まず私達の出る幕がないことについて。 今のやり取りで薄々気づいているかもしれませんが、この事件の内容__矛盾点が多すぎます」
「……言われてみれば」
「そう考えるとこの事件は猟奇殺人に見せかけた単なる誘拐事件になるってことですよ」
「「誘拐?!」」
「犯人は単独犯ではなく複数による犯行__この根拠は一階の窓が説明してくれたようなものですよ」
「「??」」
「一階の窓がすべて外側から破られていたのは、この家のあらゆる入り口から入り、逆に中にいる者達の逃げ道を塞ぐ為に行った行為って訳ですよ」
「犯人が複数いるってことは分かったでも、この事件が猟奇殺人ではないという理由が『矛盾点が生じているから』だけだったらちょっと信憑性が薄いんじゃないか?」
「あぁ、その点ならご心配なく。 ちゃぁんと他にも理由がありますから」
「ふーん。 夜城、言ってみなさい」
「これまでの猟奇殺人の被害者はテレビでは報道出来ないくらいの無惨な姿で発見され、目撃者もいなくて現場には何か重要な物は見つからない…… そう言った奇怪な事件でしたが、今回のはどうですか?」
「__目撃者もいる、壁の傷っていう事件に関連する物も残されている…… 確かにこれまでとは全然違うな」
「まるで小学生が考えたような偽装殺人ですね…… もうこれで私達の出る幕が無いって意味が分かりましたね。 それでは……」
そんな二人の様子を見ながら、夜城は彩夏から車のキーをひったくり、こう言い残して事件現場から立ち去ろうとした。
「おい、待てテメェ。 何さりげにスリ働いてんだ?」
が、すぐさま彩夏に捕まり、再びリビングの方へ戻される。
「あはは、まぁいいじゃないですか」
「ったく、しょうがない奴だな…… それじゃあ、戻るか。 じゃあな、先輩。 後の方はよろしく頼んだぜ~」
沖は現場から立ち去る彩夏達を見送り、引き続き捜査の方に戻った。
3
二人が署へ戻ろうと車で走っている時だった。
夜城の視界にあるものが映った。
「彩夏さん、右手の方を見てくださいよ」
「んー? あぁ、事故ね……」
ちょうどタイミング良く、信号が赤に変わり彩夏は窓を開けて事故現場の様子を窺った。
事故現場は反対車線の方で道路の幅がそこまで広くなかった為、その様子がよく見れた。
車は黒の乗用車でその横腹に衝突の跡が残されていた。
恐らく、道を曲がろうとした際に追突されたのだろう。 ぶつかられた側としては迷惑な話だ。
「こう言っちゃ何だけど、今の私達には関係のない話だ。 あーゆー仕事はサボりついでにパトロールしているクソポリ公にやらしときゃいいんだ。 私らの出る幕じゃねぇ」
「まあ、そうですね…… 私達は自分達の仕事に専念しましょうか」
普段サボってるのはあなたもだろ? と言ってやりたかったが、なるべくトラブルは避けたかったのでその言葉は呑み込むことにした。
話し込んでいたら、いつの間にか信号は青に変わっていた。
「ほら、事故はもういいからさっさと署に戻るわよ」
いつまでも衝突事故を眺めている夜城にそう言い、車を再び走らせた。
「…………」
夜城は今しがた見た事故について考えていた。
別に事故自体はよくあるものだ。 だが、彼の目に映ったのは別の物だった。
(さっきの事故の被害者、刺青があった。 それにあの顔、何処かで見たことがある気が……)
しばらくの間、考えていたがやがて考えても無駄だと思い、さっきの見せかけの『誘拐事件』についての事を考え始めた。
それから数分後、二人は署に着いた。
時計を見てみると、出発してから全然時間が経っていなくまだ2時前だった。
「私達たった30分しか外出していなかったらしいですね」
「はぁー、とんだ骨折り損だったぜ……」
彩夏は不機嫌そうにため息をつきながら軽い伸びをし、車から下車した。
「あなたほとんど何もしてないでしょう……」
「あ~~、くたびれた~っ! 戻ったら昼寝でもすっかな~」
夜城の冷静なツッコミをまたもやスルーし、彩夏は署の中へ入っていった。
「…………やれやれですね」
半分呆れながらも、黙って夜城は先輩刑事の後を追った。
署内は昼過ぎだというのにほとんど人がいなかった。 『これなら昼寝の邪魔する奴はいないな』などとちょっと歓喜している彩夏にふと横から声をかけられた。
「あ、あの……水樹巡査!!」
「ん?」
声をかけてきた人物は女性の警官だった。 この署内で彩夏に話しかけれる人物がいたのかと思うと夜城は驚きを隠せなかった。
「夜城、お前後で署の裏来い……」
考えを看破されたのか彩夏の額がヒクついていた。 その後、話しかけてきた女性警官の方を向いた。
その女性は然して彩夏に臆した様子がなくかなり堂々と……否、ハキハキしていた。
「んで、お前は…………あれ? どっかで見たことがあるような……」
どうやら彩夏とは顔見知りらしい、その女性は彩夏に話しかけられると目を輝かせながら受け答えした。
「はいっ!! この間はお世話になりました!!」
「お世話になった? 彩夏さん、また何かやらかしたんですか?」
夜城が疑りの目で彩夏を見つめる。 それに対し、彩夏は何かを思い出したのか手をポンと打った。
「あぁ、あん時の奴か」
「思い出してくれて何よりです‼」
ちなみにその話というのは……まぁ、また別の機会にでも話そう。
「私に何か用か? すまんがちょっとこれから手が離せない状況になるからな、手短に頼むぞ」
(部屋に戻って昼寝するだけなのに…………)
珍しく不機嫌な雰囲気を出さずに彩夏は普通に話していた。 こんな感じの彩夏を見るのは夜城にとってもかなりレアな部類だった。
「はいっ! あの先程、先輩方の部署に掛け合いたいとおしゃっている二人組の人がいまして__」
(私達の部署?! それって…………)
夜城は言葉を出さなかったもの、その考えは彩夏も同じらしく顔を見合わせてはお互いに頷いた。
お互いにアイコンタクトを取り合っている間にも、その女性は話し続けていた。
「何でも『誘拐事件』に関しての犯人を見たとか何とか__」
「その人達は何処にいますか?!」
「そいつらは何処にいやがる?!」
二人同時に迫られて、流石の女性警官も後ずさりしてしまい、答えるのに少しの間があった。
「えっと、この階の上にある第二会議室で待ってるように言ってます」
「オッケー、でかしたぞ‼ えっと…………」
名前を覚え出せないのか彩夏は頭を掻きながら、唸った。
「姫です‼ 姫路由井、それが私の名前ですっ!!」
「分かったありがとな姫!!」
彩夏はニカッと笑いながら、姫路の頭をグシャグシャと撫でた。 そして急いで夜城と共に上の階へと足を運ばせた。
一人廊下に残った姫路は彩夏に撫でらた場所を押さえながら、その場でピョンと跳ねた。
「…………やった!! 水樹巡査に始めて頭撫でて貰った!! おまけに名前も覚えて貰ったし、後で沖警部に自慢しちゃおーっと♪」
ご機嫌に鼻唄を歌いながら、姫路は外へ出ていった。
姫路の言っていた会議室の前に来た、彩夏と夜城は軽く息をすってドアノブに手をかけた。
「彩夏さん、もしこれもさっきみたいにガセだったらどうします?」
ふと夜城がそんな疑問をしたが、彩夏はニッコリと笑いながらこんなことを言った。
「決まってんだろ? この部屋にいる奴をぶっ飛ばす」
「警察沙汰になりますよ?」
「バァーカ、私達がその警察だ」
「そういやそうでしたね…………」
一本取られたとばかりに頭を抱える夜城を他所に彩夏はドアを開けた。
そこには、制服を着た女子高生と私服姿の男性が座って、彩夏達が来るのを待っていた。
そして7月15日の昼過ぎ、遂に物語の始まりの4人が顔を会わせるときが来たのだった。
第四話:集結 に続く………