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四重奏カタルシス  作者: 竜矢 崎森
第壱章 四人の探索者
3/23

第二話:対面

1


7月15日 昼 現在位置:?


飛鳥は体の節々に違和感を感じ、目覚めた。

辺りは薄暗く、何とかして見渡そうと目を擦る。


「ここ……は何処? 私、さっきまでお姉ちゃんと一緒に下校していたはずなのに……」


そう発してから飛鳥は初めて今の自分の状態に気がついた。 両手、両足を縛られ、腰に巻き付いている縄が後ろの柱に繋がれている。


(何……これ? 私、一体……)


飛鳥が、一人考えている時、前方から声が聞こえてきた。


「やぁ、目が覚めたかい? 時雨 飛鳥くん?」


声の高さから判断すると、おそらく男性であろうか、飛鳥は暗闇の中、目を凝らしてその姿を見ようとしたが、その人物は顔を包帯で巻き、纏っている服も暗闇とマッチしていたため判別出来なかった。


「あなた、誰?! 私をこんなところに連れてきて、どういうつもり?!」


飛鳥は、覆面の男に向かって怒鳴りかけた、だか、男は声の音を変えずに笑いながら答えた。


「ククク、君に理由を説明する必要があるとは思えないね。 すでに『種』を植え付けているから理性が無くなるのも時間の問題だからね……」


飛鳥は男の言っていることは全く理解できなかったが、彼から滲み出てくる不穏な雰囲気は判別出来た。


「た、種って一体何のことなの? 私に何をしたの?」


男は何も答えず、ブツブツと独り言を呟きながら飛鳥の周りを歩き回った。 ぐるりぐるりと……その姿はもはや不気味と言うより異形だった。


「さて、あとはこの薬を飲めば『溶媒の儀』は完璧かな。 しかしこの姉妹は素晴らしいな、他のサンプルは、皆、適合せずに壊れていったのに……依然と正常だ」


男の言葉に飛鳥はハッと目を見開いた。


「姉妹? 今、あなた何て……」


飛鳥の焦りを察したのか男は不気味に微笑む。


「言葉の通りさ。 君達、姉妹は僕らに誘拐されて君はここに……姉の方は別のところに連れていった」


「あ、あなたの目的って何? もしかしてだけど……あなた、連続誘拐事件の……」


身体は恐ろしさのあまり強張っているはずなのに、唇だけは異様に震える。

様々な事が構築され、ただただ流されていく…… 飛鳥の周りで何かが急速に変化しつつある。

そんな中で目の前の男は声音の一つも変えずに話した。


「ふーん、君達の場所ではそんな風に呼ばれているんだ…… まぁ、おおよそ正解かな?」


「そ、そんなことより……何のためにこんなことをしているの?!」


依然とペースを変えないこの男に飛鳥は段々、苛立ちを覚えてきた。

だが、そう思った矢先___


「言っただろう? 君に、説明、する必要は、ない。 と」


突然、声が冷ややかなものに変わり、飛鳥の心に突き刺さる。

それに追い打ちをかけるように男は更に口を動かす。


「まぁ、心配しなくてもいいさ…… すぐに姉とも会えるさ何処でかは保障出来ないけどね」


最後のはもはや圧力だった。 言葉の重圧。 これから飛鳥に起きることを告げる予兆。

その圧力に押し潰されないよう三度(みたび)、問いかける。


「あ、あなたの目的は何? 一体何のためにこんなことを……」


飛鳥の問いかけに男は笑いながらこう答えた。


「君は選ばれし者なんだ。 他の者には持っていない特別なものを持っている。 そう『あの方』は言っていた。」


今、自分の人生が大きく変わり始めている…… そう飛鳥は察した。 つい先程まで送っていた日常からどんどん遠ざかっていく気がしてならない。


「な、何だか良く分からないけれど、私はただの高校生よ。 人違いなんじゃあ……」


そう答えたが、男は全く聞く耳を持たないようで手に何か小さな物を握りしめながら飛鳥に歩み寄っていった。


「さぁね、だが『あの方』の言うことは絶対だ。 さて、そろそろ儀式を始めよう……」


ひたりひたりと近づいてくる恐怖に飛鳥は今まで押し殺していた言葉を口にした。


「……れか……、誰かぁ助けて!!」




2


7月15日 昼 現在位置:山道


時はほん

の少し遡り……一人の男が山道を歩いていた。


「くっそ、せっかく半年ぶりの帰省だってのに…… ついてないぜ。 全く……」


俺の名は(きりが)(みね)深夜(しんや)、22歳。 隣町の大学に通っているごく普通の大学生…… だった。

生まれはここ夜雲で、幼い頃からずっと住んでいるかなり思い入れがある町だ。


さて、なぜ俺がこんな山奥にいるのには理由がある。 というかないと変だ……

今からおよそ2時間後前に隣町から夜雲へ続く山道で俺のペットのシオンが突然、車から飛び降りてしまったのだ。 ちなみにシオンってのは大学に通い始めた頃に雨の中、道端で拾った野良猫だ。

もう4年目と長い付き合いのはずなんだが…… アイツは隙を見ては脱走する癖がある。 俺がどんなに必死に探しても捕まえられたことは一度もない。 だが、ご飯の時間になると必ず俺の元に帰ってくるどうしようもない猫なのだ。

だが、それはあくまで町中のこと、こんな山奥ではそうはいくまい…… ってな訳でこうして2時間以上山奥をさまよい続けている。


「もう昼飯の時間も過ぎてるし…… 弱ったなぁ……」


なんて弱音を吐いていたら突然、目の前の草むらが大きく揺れた。

まさかと思い、息を殺しながらゆっくりと近づいて行く。 するとそこには……

全身が真っ黒で緑色の首輪をつけていて、そして右耳が少しだけ欠けているネコがいた。 シオンだ。

俺はそっと手を伸ばし、シオンを捕らえようとする。 だが、気配に気づいたのかシオンは一目散で逃げ出した。


「くっそ、ようやく見つけたんだ。 そう簡単に逃がすかよ!」


そう叫び、全速力でシオンを追いかける。

本来この場合だとかえって逃がしてしまう逆効果になりがちだが、超体育会系の俺だと少し違う。

徐々にシオンとの距離は縮んでいく、そして……


「おっしゃぁ! 捕獲完了ゥゥゥ!!」


喜びのあまり俺はシオンを抱えたまま地面に倒れこんだ。

しばらくして、俺は上半身を起こし、シオンに手招きをした。 それを見たシオンは俺の肩に乗っかかり、外出時の定位置についた。

俺としてはこの位置だと逃げられやすい場所なので正直勘弁して欲しい。


「さってと、これで面倒事も解決したことだし帰るか」


そうシオンに話しかけると、それに賛成するように小さく鳴いた。

そうして、来た道を戻ろうとした時__


「ん? 何だ今の?」


木々が生い茂る山の奥地から何かが聞こえてきた。 一瞬、野鳥の鳴き声かと思ったがすぐにその音は別の物へと脳内で変換された。 これは__


「悲鳴?」


こんな山奥で悲鳴なんて何か一大事でも起きてない限り発する訳がない。 そう思い、俺は声の聞こえた先へと駆け足で向かって行った。




走って数十秒もしないうちに目的の場所へと辿り着いた。 深夜の目の前には古びた山小屋があった。


「ここか…… もしかして誰かが遭難でもしたのかな? こんな真っ昼間なのに……」


そう呟きながら、小屋へと向かおうとした時__

ついうっかり木の根に引っ掛かり転んでしまった。


「いってぇぇぇ!!」


唐突に起きた事故なので何も出来ずにモロに地面に激突した。 シオンも驚いて近くの枝へと避難した。

見事に地面とお友だちになっている状態で深夜はふと、何か目の前に落ちているものがあることに気づいた。


「これは、ボタン? しかもこのマークって__」


そう言おうとした瞬間だった。

突然、小屋から黒ずくめの人物が飛び出した。 その人物は深夜の姿を捉えると更に山の奥地へと逃げていった。


「あっ、ちょっとアンタ!」


引き留めようとしたが、立ち上がったときにはその姿は何処にも見当たらなかった。


「な、何だったんだ?」


深夜は首を傾げ、シオンを見たが同じように可愛らしく首を横に倒しただけだった。 取り合えず先程、拾ったボタンをポケットに仕舞い、服に付いた土をほろった。

そして無造作に開けられたドアの方をじっと凝視した。




男が飛鳥に触れようとしたその時、小屋の外からこんな状況に似合わない、すっ頓狂な声が聞こえてきた。


「いってぇぇぇ!!」


その叫び声に男は軽く舌打ちをした。


「ちっ、誰か来たか」


その後、飛鳥から離れ、別れ惜しそうに飛鳥を見つめながらこう言い残し、小屋の外へと飛び出していった。


「また、会いに来るよ。 飛鳥くん……」


飛鳥はその姿が消えても尚、睨み続けていた。

虚勢でもこうしていないと、また自分の前に襲いかかってきそうだからだ。 男が消えて数秒後だろうか、暗闇の中に取り残された飛鳥を外の光が覆い、飛鳥は目を瞑った。

瞑った目を恐る恐る開けてみると、扉の前に一人の青年とその肩に居座る黒猫の姿が目に入った。


青年は、茶色のコートを羽織り、青褐色のズボンという地味な服装をして、まるで魔法使いを連想させるような格好だった。

だが、それでも警戒は解かなかった。 恐る恐るその青年に尋ねる。


「あなたは誰?」


すると青年は縛られている状態の飛鳥に気付き、答えた。


「俺か? 俺の名は霧ヶ峰 深夜。 君と同じ夜雲市に住んでいる大学生だよ」


飛鳥は先程の男とは違う、と思い安堵の息をついた。 そして、いつもの調子に戻ろうのと息を吸った。


「私の名前は……」


「名前は……?」


謎の沈黙に深夜は、首をかしげなから復唱した。すると、飛鳥は、大きな声で答えた。


「私の名前は、時雨 飛鳥! 来月で16才になる美少女女子高校生! つまり、人類さいきょーって奴だねっ!」


ついさっきまでの恐怖は何処へいったのかと思うくらいの元気っぷりだった。

その様子に深夜は、少し引き、こんなことを思った。


(あぁ、この子たぶんアホの子だ……)


そう思いながらも、深夜は飛鳥の両手に繋がれている縄をほどき、尋ねた。


「ところであす……君はどうしてこんな所にいるんだい?」


「飛鳥でいいよ。 でもどうしてか分からないんだよね~ 気がついたら何か縛られていたし、変な男に……」


不意に飛鳥は言葉を止めた。 そして深夜に詰め寄った。


「ねぇ、そう言えばさっき真っ黒な格好をした変な人見なかった? 顔に包帯を巻いた……」


「あぁ、その人なら慌てて山奥へと逃げていったけど…… その人がどうかしたのか?」


深夜の言葉を聞き、飛鳥はその場にへたりこんだ。 その際にスカートの下がチラッと見えた気がしたけど深夜はさして気にしてはいなかった。


「よかったぁ~ その人がどうやら飛鳥をここに連れ込んだらしくてね~」


その言葉で深夜は始めて飛鳥の言おうとしていることが分かった。


「ちょっ、それって誘拐じゃないか!」


「やっと気づいた?」


「『やっと気づいた?』じゃねぇよ! 何でお前そんなに平然と保ってられるんだ?!」


深夜のツッコミに誇らしげな顔をしながら飛鳥は答えた。


「プロフェッショナルですから」


「何のだよ……」


冷ややかなツッコミを受けながらも、飛鳥は話を続けた。


「それでね、そのさっきの人が何かヤバそうなことを言ってたんだよ。 儀式だとか選ばれし者だとか……」


「取り合えずヤバい奴だということは分かった。 他には何か言ってなかったのか?」


それに飛鳥はブツブツと先程の会話を思い出していた。


「えっと、種……だとか、連続誘拐事件……姉妹__」


「あっ?!」


突然、大声を出した飛鳥に深夜は飛び上がりひっくり返ってしまった。 が、そんなことなど微塵も気にしていない飛鳥は深夜の服の袖を思いっきり引っ張った。


「ね、ねぇ! 話なら後でするから、今は早く警察の所へ行こうよ! じゃないと……お姉ちゃんが!」


「わ、分かった、一回落ち着け!」


軽いパニック状態に陥っている飛鳥を一旦宥めて再度、事件の成り行きを説明してもらった。




「つまりまとめると、君とお姉さんはさっきの包帯男に誘拐された。 そしてそいつは今、この地域で噂になっている連続誘拐事件の犯人だと……」


「うん……」


「そしてそいつは君を選ばれし者と言い、謎の薬を飲ませた…… 体に異常は?」


nothing(ナッシング)


「………………、それから君が襲われる直前に俺が現れ、犯人は逃げた……」


「やらしいことされると思った」


「ねぇよ……」


「そして今も何処か別の所で君のお姉さんが同じ目にあってるかもしれない…………と」


是的(シィデェ)」 ※中国語です


「お前、何人?!」


Japanese(ジャパニーズ)


「もうええわ!」


あまりのボケの多さに捌ききれず、遂に匙を投げた。 少しの間、息を切らしていたが直ぐに平常の状態に戻った。そして両手に手袋をはめた。


「今ので今回の件が誘拐事件に結び付くことは大体分かった。 でも、警察の元に行くのなら証拠は少しでも多い方がいいだろう? だから少しだけここの探索をさせてくれ」


そう言い、深夜は小屋の中を探索し始めた。 その間、飛鳥は退屈そうに横になっているシオンと遊んでいた。

そして数分後、部屋の片隅に転がっているものに気づき、拾い上げた。


「これは…、小瓶? 中に何か黒い液体が入っているが…」


その小瓶に飛鳥は、見覚えがあった。


「あっ、それってさっきの人が言っていた儀式のための薬だとか」


「儀式? まぁ、とりあえずこれも持っておくか」


聞き慣れない言葉に怪訝な顔を見せていたが、この瓶もボタンの入っているポケットの中に入れた。 そして改めて部屋を見回したが、他にこれといったものはなかった。


「取り合えずこんなところかな……? よし、それじゃあ車の所まで戻るか」


そう言い、シオンを肩に乗せて小屋の外へと走っていった。 それを見て飛鳥も慌てながら後に続いた。


「ちょ、待って! 私を置いていかないでぇ!」


走りながら再度、小屋の方を飛鳥は振り返った。 日はまだ出ていてはいたが、それが持つ禍々しい雰囲気は包み隠すことは出来そうになかった。

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