第一話:ハジマリ
登場人物紹介
時雨飛鳥
年齢~15才
性別~女
身長~152cm
体重~42kg
髪の色~黒
職業~学生
家族~母親 (32) 姉 (16) 父親 (他界)
好きなもの~ ゲーム、寝ること、動物(かわいい系)
嫌いなもの~ 頭を使うこと、運動(歩くことも)、早起き
概要 ~どこにでもいる普通の高校生、ちょっとアホッぽく、若干の天然も入っている。
いつも、白い小さなリボンを着けているのが特徴。 昔からの幼馴染みがいる。
本作の主人公の一人
第一話:ハジマリ
7月15日 朝 夜雲高校
1
飛鳥と弥生が通っている学校は夜雲市の中で最大の学校、夜雲高校。
ここには市内のほとんどの高校生が在籍しており、人数は800人を越えている。
最大と言っても、実は他の高校はこの市にはないのである。 ちなみに一応、進学校である。
飛鳥は生徒玄関で弥生と別れ、自分のクラスへと向かった。
クラスは全部で8組あり、飛鳥はC組だった。
「おっはよー!」
いつものように教室のドアを思いっきり開ける。 いつもより早く登校してきたため教室の中は人がいつもより少なかった。
それでもいつものように挨拶を返してくれる友達がいた。
「おはよー、飛鳥ちゃん」
彼女の名前は篠筑 大奈、飛鳥のクラスメートであり、一番の親友である。
性格は活発的な飛鳥とは対照で、のほほんとして穏やかである。 おまけに超が付くほど優しい。
特徴は左側の頭部をサイドテールにまとめた髪型。 そして何よりもその性格によりクラスの男子の中では天使として崇められているほどだ。
聞いた話では彼女に話しかけられると10円、話しかけると100円を支払わなければならないという制度もあるらしい。 誰に払うのかは知らないが……
「あれ? 大ちゃんもう登校してたの?」
大ちゃん、幼い頃に私が付けたあだ名だ。 漢字を全く読めなかった時に何度かそう呼んでしまったが、その時本人は大層気に入り、今じゃすっかり私たちの中では定着している。
「うん、今日はたまたま早く起きたからその分だけ早く登校しないと損かな~って思ったから」
にぱー。 と擬音が付いてもいいくらいの笑みで答えた。 それに飛鳥は、たはーっと額に手を添えて大奈を誉めた。
「さっすが大ちゃん、私なんか絶対二度寝するよー。 そして__」
「いつものように遅刻ギリギリ……ですよね?」
飛鳥の言おうとした言葉を後ろの方で誰かが代わりに答えた。
「あっ、委員長」
振り向くとそこには飛鳥達のクラスの委員長、岸本 博がいた。
先程の言葉に飛鳥は一瞬ムッとしたが、すぐに、にへらーとした表情になった。
「ヒロシ君は今日はちょーっと遅かったね」
嫌味っ気の混じった言葉を聞かされながらもヒロシは理由を説明した。
「ええ、ちょっと寝坊をしてしまいまして……」
「えっ、委員長が寝坊ってちょっと意外……」
大奈が驚いている横で飛鳥はクックックと笑っていた。
「もしや、明日から夏休みだからって気を抜いていたんじゃないの?」
「そんな、あなたじゃないんですから……」
「にゃんだとぉぉ!」
逆に呆れられてしまい、悔しさを隠すため飛鳥はすぐさま攻撃態勢に入る。 が、大奈が振り上げた手をそっと止める。
「ほ、ほら飛鳥ちゃん……落ち着いて」
「うっ……」
そう困り果てた顔をしていたらチャイムがなってひとまず終戦となった。
ヒロシも眼鏡を押し上げ、表情を少し曇らせた。
「でも、確かにあなたの言う通り気の緩みかもしれませんね……」
「なっ…… わ、分かれば良いのよ…… あはは」
冗談をマジで受け取ってしまったらしくこれでは弄るに弄れなかった。 このままじゃあ気分が悪くなるだけだと思い、ヒロシに宣言した。
「そ、それじゃあ私も次の学期から気を付けるから今回はこれで無しにしよう! うん、異論は認めん!」
その言葉にヒロシは確かに頷き、問題は解決した。
なんてことをやっていたら、本鈴がなってしまい席に戻ることを余儀なくされた。
そしてすぐに教師が教室に入ってきた。
「起立、礼」
ヒロシの号令の後、HRは何事もなく終わり、授業に移った。 飛鳥は明日から始まる夏休みのことで頭がいっぱいになり、授業なんてほとんど聞いちゃいなかった。
そんな時間もあっという間に過ぎ去り、下校の時間となった。
飛鳥は帰りの支度をしている大奈に呼び掛けた。
「大ちゃーん、一緒にかーえろっ!」
その誘いに大奈は両手を合わせて謝罪した。
「ごめん! 今日、家の用事のせいで早く帰らなくちゃいけないの」
その言葉に飛鳥はちょっと残念な顔をしたが、すぐに表情を戻し__
「分かったよ~ それじゃあお姉ちゃんと一緒に帰るね」
にこやかな顔で教室を後にした。
2
弥生の学年はまだHRの最中のようで、飛鳥は暇を持て余していた。
するとそんな飛鳥の視界に二人の人物が目に入った。 一人は我がクラスの委員長のヒロシ。 そしてもう一人は……
「あれ? 鬼原先生、もう戻ってきたんだ」
鬼原 義純、飛鳥達のクラスの担任だ。
高い背と鼻にちょこんと乗っかった小さな眼鏡が特徴だ。 顔も容姿も良く、生徒達の中では校内一のイケメン教師と呼ばれている。 おまけに生徒からの信頼も高く、優しく、更に授業の教え方も上手でもう何と言うか『最強』だった。
そんな彼は数日前から突然、学校を休むことになってしまったのだ。 理由は詳しくは分からなかったが、複雑な事情とのことだった。
鬼原と話を終えたのか、ヒロシは満足そうにノートを抱えながら、飛鳥の方へ近づいていった。
すれ違う直前、ヒロシの襟を掴んで話の内容を聞いた。
「ヒロシ、先生と何話していたの?」
「はい。 鬼原先生が不在だったためここ数日で出てきた曖昧な所を教えて貰っていたのです」
「はーっ、相変わらず真面目よね~」
言い忘れていたが、ヒロシは学年成績常にトップの超秀才ちゃんだ。 本人曰く、アイツが上位にいるのは鬼原先生のお陰だと言う。
「そういやさ、鬼原先生はどして学校を休んでたのかとか聞いた?」
その質問にヒロシはまた眼鏡を吊り上げながら頭を振った。
「いいえ、特には…… まぁ、先生が言うからには大したことがなさそうだったので大丈夫でしょう」
それでは。 とヒロシは飛鳥の横を通りすぎていった。
ヒロシを目で見送った後、チラッと鬼原を一瞥した。 すると目が合い、鬼原は薄く笑いながら廊下の曲がり角を曲がっていた。
その時の笑みは何故か印象深かった。
しばらく廊下で待機していると、クラスメートと一緒に歩いている弥生の姿が目に入った。
弥生も飛鳥に気づき、クラスメートに別れを告げて飛鳥の方へ歩いていった。
「ごめん飛鳥、待った?」
まるで彼氏にでも呼び掛けるような口調で話してきた弥生に飛鳥は元気に答えた。
「ううん、全然だよ~。 それよりも早く帰ろ帰ろっ!」
そう言い、飛鳥は弥生の手をしっかりと握って猛ダッシュし始めた。
「ちょっ、まって飛鳥! 早いってばぁ~!」
飛鳥に手を掴まれ、弥生は生徒玄関まで引きずられる形になった。 が、ふと引っ張られながらも弥生は足を止め、後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「いや、何だか誰かに見られている気がしてね……」
その深刻そうな顔つきに思わず飛鳥も後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
それでも弥生は誰もいない廊下をじっと見続けていた。 だが、それも数秒のことで弥生はいきなり走り出した。
「えっ、ちょっとお姉ちゃん?!」
「わはは、そーれお返しじゃ~」
「えっ、ちょっ…… い~~~やぁぁぁ!」
逆の立場となった飛鳥は悲鳴を上げながら引きずられていった。
だが、しかし__ その後ろ姿は確かに『誰か』に見られていた…




