第十七話:信じる者
どっしゃーい、5日で出来たどーい(^-^)v
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午後6時09分 現在位置:路地裏
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
一心不乱に走っている内に辺りはすっかり暗くなっていた。
(でも、この程度の暗さなら十分に見える!)
この時、翠雨は自分の9日間の逃走で積んだ経験を始めて活かせたと感じた。 だが、それは本人にとってはあまり快いものではなかった。
しばらく歩き続けた後、翠雨はため息をつき、空を見上げる。 __そしてあの日のことをふと思い出した。
(私は絶対に生き延びてみせる! 『今回こそは!』)
7月14日 午後10時40分 現在位置:翠雨宅
眠気に耐えつつも私は自分の部屋で本を読んでいた。
この本は前にお父さんが買ってくれたものだ。 お父さんは昔から続編物の本を好み、読み続けている。
私も半年前にその魅力を知ってしまい、今やすっかり虜になっている。
「今日はここまでにしよう」
そう言って、本にしおりを挟み、元の場所に戻す。 すると、下の方から二人の人物の笑い声が聞こえてきた。
(あっ、兼一も来てるんだ)
木吉兼一、お父さんとは昔からの付き合いで私がこの世で一番大好きな人だ。
幼い頃、お母さんが居なくなってからずっと私達親子を支えてくれた人でもある。
高鳴る感情を抑えながら階段を下っていく、だがその時、玄関の方から轟音が聞こえてきた。
「えっ、何?」
慌てて下の階の様子を見ようと除いてみたら何かが私の横を通りすぎた。 それを目で追いかけるとそこには__
「お、お父さん?!」
お父さんこと図盛 八社慈が血まみれの状態で壁に押し込まれていた。 お父さんは私の方を見ると大声で叫んだ。
「翠雨、に、逃げろ!」
「え?」
その時の私は何が何だか全く理解できなかった。 そしてそのまま立ち往生していると、今度は兼一の悲鳴が家中に響き渡り、大人数がリビングに入ってくるのが分かった。
逃げなきゃと頭の中ではそう思っていても体は自由に動かなかった。 そして私は呆気なく見つかり捕らえられた。
私達を襲ってきた連中は皆、同じような暗い緑色のような服装をしていてまるで軍隊を連想させるような格好だった。
私は男達に乱暴に腕を捕まれ、家の外へと出された。 家の目の前には無数の黒いトラックが停まっており、ここら一帯を取り囲んでいた。
車まで引っ張られていくのに対して、必死の抵抗をしたが小学生の腕力で大人に敵うはずもなく為す術がなかった。
何故こんな目に遭うのか分からなかった。 私はただ普通に生活していたはずなのにそれが何の前触れもなく打ち砕かれた。
「うぅぅ、あぅぅぅ……」
私はこの運命の理不尽さに涙を流した。 勝手に出てくる嗚咽が止まらなかった。 私は有らん限りの力を振り絞って大声で叫んだ。
「兼一……助けて____兼一ィィィ!!」
その時だ。 二人の男が家から飛び出していくのが見えた。
一人は仮面を被った妙な人物でもう一人は__
「け、兼一!!」
そう兼一だった。 すでに彼の体は満身創痍だったが、まだその目は死んでいなかった。
兼一は先程の仮面の男の服を掴むとそのまま家の壁へとめり込ませた。 そして空かさず私を捕らえていた男達に体当たりをして私から引き剥がした。
それから彼はいつもと何ら変わらない笑みを浮かべながら優しく私に囁いた。
「怖くなかったかい?」
私は顔を涙で濡らしながら頷いた。 それを見た兼一は一瞬だけ表情を緩めた。そして私を抱えてその場から逃げ出した。
逃げてから10分くらい経った後だろうか、兼一は追っての気配がないか確かめた後、路地裏に入って座り込んだ。
私は辺りを警戒しながら彼に尋ねた。
「あ、あの人たちは?」
「分からない……だけどまずは警察にこのことを連絡しよう」
そう言って兼一は携帯を取り出し、警察の方へ電話をかけた。
私はただ彼を見守っていた。
「…………はい、分かりました。 お願いします」
通話を終えた兼一は安堵のため息をつき、地面にへたりこんだ。
「このまま、どうなるんだろ私達……」
「多分、警察が来た後、さっきの件について詳しく聞かれるだろうな…… それからは……分からない」
兼一は顔を暗くしながら呟き、ため息をつく。 しばらく沈黙が続いていた時、唐突に翠雨が話し出した。
「でも私、あまり警察のことが好きじゃないんだ」
「へぇ、何で?」
「この前、お父さんと町を歩いていた時、すごく意地悪そうなお巡りさんが歩く人を見ては睨み付けているのを見たの……」
翠雨の理由に思わず兼一は笑いを抑えきれなかった。 翠雨はそれを見てちょっと不機嫌になった。
「ゴメンゴメン。 でもね翠雨ちゃん、あんまり目先だけで人を判別したり、その人のとっている行動を決めつけちゃならないよ」
「…………、でも前に聞いたことがあるよ。 第一印象がいい奴ほどロクな奴はいない、その逆も同じだって」
「誰から聞いた? そんな言葉?」
「お父さん」
「あの人間不審が……」
頭を抑えながら兼一はさっきよりも疲れたかのようにため息をついた。 そして、翠雨に視線をむける。
「翠雨ちゃん、確かにあのバカが言うように人は簡単に信用しちゃいけない。 でも、中には見ず知らずの人でも必死になって助けてくれる優しい人もいることは忘れないで」
「そんな人なんていないと思うけど……」
翠雨の不服そうな顔に兼一はクスクス笑いながら言った。
「それは自分が信じるかどうかだよ。 案外そういうのは裏切らないらしいからね、分かった?」
翠雨が半場納得がいかない顔をしながら頷いてた時、表通りの方から足音が聞こえてきた。 私達はとっさに身構えたが、その足音の正体は二人の警官だった。
「大丈夫ですか?」
「うわっ、こりゃ重症だな……」
二人の警官は兼一の姿を見ると慌てふためいていたが、すぐに私達を保護して車まで連れていってくれた。
その車はどうやら覆面パトカーのようで運転席には帽子を深くかぶっている警官がいた。
私はようやく安全な場所に行けると嬉々していたが、二人の警官に支えられている兼一の表情は違った。
「なぁ、一つ聞いていいか? 運転手さんよ__」
「……………………」
兼一の呼び掛けにに運転手は何の反応も示さなかった、それでも兼一は言葉を続けた。
「アンタさ、さっき襲ってきた連中の一人じゃないのか?」
そう言いきった瞬間、兼一は支えられていた警官に殴り飛ばされた。 そしてもう一人の警官に頭を蹴られて意識を失った。
私はこの一連の流れで瞬時に理解した。
(この人達はさっきの奴等の仲間! ……逃げなきゃ!)
私は倒れている兼一を後にし、その場から逃げ出した。
さっきの状況とは違い、今はもう一人だった。 追っ手の声はまだ聞こえている。 私は追っ手から遠ざかろうと必死に走り続けた。
(信じてたのに……あんな警察でも最後までは!)
それから9日間、私は逃げ続けた。 誰にも見つからないように……
(もう誰を信用したらいいのか分からない! でもこのままずっと一人ってのは嫌だ……)
もう私の知っている味方はもういない。 警察もまともに信用ならない。 辺り一面、四面楚歌そんな状況だった。
追い詰められて心が折れそうにだった……そんな時__一匹のネコが翠雨に擦り寄ってきた。
(ネコ? どうしてこんな雨の日に……?)
そう思いながらネコを抱き抱えてみる。 暖かかった。
ネコの暖かさを感じていた時、一人の青年が現れた。
「あっ、すみません。 ウチのネコがとんだ迷惑を……」
私は一瞬、その声に驚き、その場から走り去ろうとした。 が、その青年の顔を見たとき逃げ出そうという気持ちが無くなった。
(こ、この人は!!)
まだ残っていたのだ。 私が信頼できる最後の仲間が……
~そして現在~
(でも、そんな彼ももういない……)
私は地面に座り込み、小さくうずくまった。 それを待っていたかのように誰かが私に近づいてきた。
(もう逃げることにも疲れた。 やっぱり『今回』も同じ結果になるのね……)
取りあえず最後に追っ手の顔を見ようと思い、顔を上げてみた。
「!!」
その追っ手は何と、九日前に襲ってきた連中だった。 人数は三人でそのうちの一人が大きな袋を抱えていた。
(ゲームオーバーね……)
私は静かに目を閉じた。 男達の魔の手が伸びてきているのが、はっきりと感じられる。
全てを彼らに身を委ねようとした時だった。
「アンタ達、そんなトコで何やってんの!」
聞き覚えのある女の人の声がした。 声のした方向を向いてみるとそこには__先程の婦警が銃を構えて立っていた。
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(やっと追い付いたと思ったらこの状況は何だろうか……)
彩夏は目の前の不審な男達に銃を向けながらそんなことを思っていた。
男達の格好は軍隊を連想させるもので見るからにただならない雰囲気を醸し出していた。
「アンタ達、何者? まさか、六合連会の奴等じゃないでしょうね……」
彩夏の問いかけに男達は互いに顔を合わせ頷き合った。 そして三人一斉に彩夏の元に駆け出した。
「ッ?!」
突っ込んでくる男達を避けようと横に飛ぼうとしたが、路地裏は道の幅が狭くて、その場に立ち止まってしまう。 それがいけなかった。
連中の一人が彩夏の腹部を目掛けて蹴りを入れたのだ。
「うっ!」
その蹴りには手加減という言葉が一切含まれていなかった本気のものだった。
彩夏の体は吹き飛ばされ、勢いよく地面に叩きつけられた。 吐き気に耐えつつ、何とか起き上がった彩夏だったがその体はもう既にフラフラだった。
(たった一発喰らっただけなのにこの力は何?)
何とか体制を建て直そうと起き上がろうとする。 だが、連中の攻撃はそれだけで終わりではなかった。
今度はまた別の男が踞っている彩夏の背を蹴りつけてもう一度地面に叩きつけた。
あまりの痛みに叫びそうになったが、それを抑え、蹴りつけてきた男に吼えた。
「この……ナメんじゃないわよ!」
素早く立ち上がって、その男の頭目掛けて踵落としを喰らわした。 渾身の手応えに心の中でガッツポーズをしたが、すぐにその男は立ち上がった。
(何よコイツら、ゾンビか何か? 全く痛みを感じてなさそうなんですけど)
そんなことを思っている間にも連中の攻撃は続いた。 何とか紙一重で避け続けていたが、あることに気づいた。
翠雨が全く逃げる素振りを見せずに座り込んでいたのだ。
「何してるの! 早く逃げるのよ!!」
彩夏がそう叫んでも依然として翠雨は動かない。 その様子を見て、歯噛みしていると背後から足音がした。
(しまった! 新手か?!)
慌てて身構えたが、近づいて来た人物は彩夏の想像の斜め上を行っていた人物だった。
「あらら、婦警さん随分と苦労してますねぇ」
「アンタ達何しに来たのよ」
彩夏は半目で園崎組のしたっぱと思われる二人組の男に問いかける。 するとそれにニヤつきながら答える。
「輝夜の姉さんが一人じゃ心配だと思って俺達をよこしたのさ」
「ふーん、園崎組ってのは敵対している警察にも優しいモンなんだね」
「まあな、おっとお喋りはそこまでだな」
そうこう話しているうちに一気に距離を詰められていた。 しかもいつの間に持ったのか構成員全員が武器を持っていた。
彩夏達も身構え戦闘体型をとる。
「こっちも向こう側も三人でタメ…… さっきよりは有利にな__」
「「ぐはっっ!!」」
攻撃を避けながら少し余裕のある態度を取っていた彩夏だったが、横に並んでいたしたっぱ達は呆気なく倒されていた。
そして、またさっきのように3対1の攻防が始まった。
「…………前言撤回」
何しに来たんだ……と言ってやりたかったが、そんな余裕はもうない。
さすがにずっと攻撃を避け続けるには無理があり、腕や頬などに掠り傷が増えていく。 そんな不利な状況が続いたある時だった。
「しまっ……!」
遂に避けきれずに額に鈍器が降り下ろされた。 そこからは防御することも出来ずに彩夏は三人組に容赦なくリンチにあった。
廃材、パイプレンチ、バールが急所ではない箇所に当てられる。
(コイツら、わざと外している……!)
それでも痛いものは痛い。 最早、為す術が無かった。 それから数分間、リンチは止まらず彩夏はボロボロにされ、倒れていた
構成員達は倒れている彩夏を一蹴し、翠雨を連れて何処かへ行こうと歩き始めた。 が、後方からの呼び声によってそれは阻まれた。
「…………ちなさ……い」
後ろを振り返るとそこには今しがたリンチに遭い、ボロ雑巾みたいになった彩夏の姿があった。
満身創痍、立っているのもやっとな彼女の着る赤いコートは所々破れ、土埃にまみれていた。 それでも彩夏は力を振り絞り、叫んだ。
「その子から離れなさいって言ってるでしょうが!!」
勿論、言うことも聞くはずもなく構成員は指を鳴らしながらこちらに近づいて来た。
「ちょっ……、もう止めとけって婦警さん!」
したっぱの一人が彩夏に呼び掛ける。 それでも彼女は何も答えずに一歩前に進みだした。
「これ以上やってもただ傷が増えていくだけだ! アイツら今度は容赦なく殴りかかってくるぞ! いや、殺すかもしれない……」
「…………」
「アンタ、そのガキと初対面なんだって?! しかも俺達を嫌っている。 何でそんな奴の為に命張ろうとしてんだよ! そんなのバ__」
「ええ…………そう……よ。 バカのすることだ……わ」
彩夏の声は微かだがハッキリと聞こえていた。 そしてまた一歩踏み出す。
「でもね……、飛鳥ちゃんが教えてくれたのよ。 あの子の事……どれだけ苦しい思いをしたのか、深夜さんがそれを聞いてどんなに怒ったのかを」
「?!」
独り言とも言えるような彩夏の語りに翠雨はハッと顔を上げる。
「アンタ達には分からないとは思うけど、私……いや、私達には彼女を守るのに十分な理由がある……」
「な、なんだよ! それは!」
「それは、もうこれ以上苦しませないように……まだあなたには希望が残っていると教えて上げるために……」
その回答にしたっぱは呆れた顔をした。
「そんなしょうもない理由でこんなちっぽけなガキ護ろうとすんのか?!」
「何言ってんのよ…………」
彩夏はそう言い、拳を強く握りしめた。
「ちっぽけだからこそ、護らないといけないんだろうが!」
「!!」
彩夏の言葉が翠雨の中の何かを動かした。 しかし、そう言葉を発した後に彩夏は地面に膝を付き、倒れた。
その瞬間、構成員達に隙が生まれて翠雨はそれを見計らって彩夏の元へと走った。
構成員達は逃げた後を追おうとしたが、遠くから近づいてくるパトカーのサイレンに気づいて方向を変え、闇の中へと消えていった。
(逃げた?! 私を捕らえる絶好の機会なのに…… 一体、何故……?!)
走り去っていく構成員達の後ろ姿を見ながら、翠雨は違和感について考えていたが、ふとその頭に手が置かれた。
「よかった。 怪我は……なかった?」
優しく語りかけてくれる彩夏を見ていたら翠雨の中から込み上げてくるものがあった。
(自分なんかよりも私の心配をしていてくれる…… この見ず知らずの私に。 兼一、私……間違っていたよ)
彩夏の好意を無下に振り払った先程の自分に翠雨は激しく後悔した。 そして__
「ごめんなさい……ごめんなさい…………」
大粒の涙を流しながら、何度も謝り続けた。 何度も…………何度も。
彩夏は笑顔で泣き続ける少女の頭を撫でていた。 そして____
(ちょっと待った、何かがおかしい……)
薄れ行く意識の中で彩夏は何かに気づいた。 それは翠雨が予感したものと同じものかもしれない…… だが、そこで彩夏の意識は途切れてしまった。
第2章 エピローグへと続く……
はい、ご無沙汰! 竜矢 崎森こと竜崎です!
修正に力を入れると言いましたが『あれは嘘だ』(°o°C=(_ _;
身勝手ながら、次の章と交互に出していけたらな~と考えています。
後、なるべく予定を断言する方針を辞めにしてきます…… 様々な予定が次から次に入り来るもんで……
さて、話は変わり遂に第2章の終わりまで来ました!
この次の第3章が終われば全体の3割が完結します。 まだまだ続けるのでヨロシクだぜ( ・`д・´)
では次回、第2章エピローグ
謎の構成員達から翠雨を守った彩夏、だが翠雨の中には腑に落ちないことがあった。
その悪い予感は更に物語を加速させる……
そして、夜城は衝撃の事実を知らされる。
飛鳥「今回まるまる出番なかったぞーい!(`Δ´) 主人公なのに(一応)」
果たして、次の話には主人公(笑)は出てくるのか?
次回『狂気の前奏曲』お楽しみに!