戸惑い、そして知るべきこと
ぐぬぬ……
「いてて……」
バスが何かに衝突した直後、体を丸くしていたからだろうか、体のあちこちをぶつけたが大きな外相には至らなかった。顔を上げてみると、さっきまで先ほどまで暁に染まった風景から一転し、闇がこの景色を覆っていた。
バス内部を確認してみると、あまりの光景に孝は小さな悲鳴を上げてしまった。
バスの前半分がまるで一斗缶を潰したようにグチャグチャになってしまっていたのである。
「だ……誰か、無事な方はいらっしゃいませんか?」
誰も答えなかった。乗客の外傷はそれぞれで前の方に座っていた客は見ていられないほどだった。程なくして孝はこの闇の正体を知る。バスが浮遊し始めた。
孝は確認のため外を見た。
「手?」
そう、巨大な手である。この巨大な手の持ち主が、暁を遮断し、闇を作っていたのである。バスを持ち上げた巨大なるものはバスの内部を観察し始めた。そこで、孝がやりはじめたことと言えば、
「……」
死んだ振りとか言うものである。熊に対して有効とか、有効でないとか言うそれは、この状況を悪化させた。興味を失った巨大なるものはバスをそのまま落としてしまったのである。
乗客の一部は窓から放り出され、着地後は前方部分だけでなく後方部分さえもひしゃげた一斗缶のようになってしまったのであった。
「……」
孝の意識は今だ健在であった。必死に丸くなって体のあちこちを強打しても絶えうるだけの体制を取っていたと孝は思っていた。今見ればこれがバスであったことなど誰が思おうか、いや思わないと自信を持って言えるこの物体から孝は抜け出した。近くに巨大な影があったのだが、孝には気づいていないらしい。
あたりは草原と森。広葉樹が葉を伸ばしている。人影はなし、人工物もなし。ただし、巨大な影あり。
巨大な影を追っていくと、影よりは小さいのだがあまりに大きな人がいた。
2メートルなんてそんなものではなく、少し大きめの一軒家程度の大きさを持つ人がそこにいた。
この巨人にバスは衝突したようだ。
大きさこそ違えども人は人。もしかしたら言葉が通じるかもしれない、通じなくともジェスチャーで何とかなるかもしれない。そんな願望を持った孝であるが、やはり怖い。大きさが違いすぎて足も震えてくるし、声をかけるなどもってのほかだ。
しかし、この人工物の無さから言ってこの巨人の協力なくして、家に帰ることなど出来はしないだろう。打ち上げのことなどとうに忘れてしまった。
勇気を振り絞って、孝は巨人に声をかけることにした。
「す、すみませーん」
巨人は全くもって反応しない。震えた声では巨人に届きすらしないのだ。
「す、……」
孝の嗅覚は焦げ臭い匂いを感じ取った。もちろん、バスからである。すでに火の手が上がっている。燃料に引火してしまえば、爆発することは必至だろう。しかし、よくもこんなにも持ちこたえたとバスを称えたい孝であった。
少し経つとバスは爆発した。離れていた孝には何の被害も無かったがバスの中の人でもし生存者がいたとしたら、と思うと孝はブルーな雰囲気な包まれた。
被害者と言えば巨人である。傍で大きな音がしたものだから、驚いて尻餅をついてしまっていた。そして巨人は視界の中に孝を見つけ、じっと観察した。
「あ、あの……ここはどこでしょうか?」
チャンスと思った孝は意を決して、話しかけてみた。なんとなくカズマが後押ししてくれているような気がした。
「お前、誰」
「あ、僕は、櫻井孝って言います。」
「ああ?」
巨人にとって孝の声はあまりにも小さすぎた。
「櫻井孝!」
「サクライ?お前か?俺の脚にあんなものをぶつけて来たのは」
孝は首を大きく横に振った。巨人の言葉は非常に遅く、そして簡潔である。
「そうか」
巨人はこの場を去ることにしたらしい。孝に背を向けて歩き始めた。孝の静止の言葉など聞こえるはずも無く、巨人は歩き去ってしまった。
孝は巨人が去ると、座り込んでしまった。どうやら恐怖感を無理に押さえ込んでいたらしい。
同時に孝の視野も徐々に広がっていった。
「ありえない……どこなんだここは」




