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君は新世界を思い描く  作者: 志黙アサニ
3/3

老師の思惑

 昼間であっても薄暗い、貧民地区の路地・・・。そこを、

 数人の歩兵が走っている。どれも身なりはボロボロで、何かに追われているような必死な様子だ。そんな彼らが、

 ビルに遮られた袋小路に差し掛かると、後ろ両脇にある建物が倒壊し、一番後ろにいた一人がその下敷きとなる・・・。それで退路まで塞がれ、歩兵らが完全に閉じ込められたところで、

 頭上にあるビル窓から、滑り気のある液体が彼らのいる一帯にバラ蒔かれる。それを被った彼らが、その感触と臭いから液体の正体に気づく間に今度は、火の付いたマッチ棒が投げ入れられ、

 逃げ場のない閉鎖空間一帯が炎に包まれる。その場にいた歩兵達もその身体を焼かれて、絶叫と悶え声が響いた。

 別の場所でも、今度は小型の戦車隊が同様に、路地内にビル倒壊により閉じ込められ、その上火までかけられている。ただ小車両らは全く動じてないようで、車内の兵士らは熱くないのか、そこから飛び出してくる様子もない・・・。そうなると、

 またもビルが破壊され、その瓦礫が戦車隊の上に覆い被さる。殺せないにしても、せめて無力化しようというつもりか・・・。何にせよ、

 路地へ逃げ込んだサモン隊はどこもそんな感じで、貧民区の各所で痛い目に遭っている・・・。中には瓦礫に埋められる前に砲撃でビル壁を壊し、そこから建物内へ脱した者達もいたが、

 その建物が丸ごと倒壊して、結局彼らはそれの下敷きになった・・・。押し潰した瓦礫の上には・・・、

 サングラスの、荒蒼海あらうみ率いるアイアス隊がいる・・・。

「アイアスを着た奴、四、五人ほど一緒に来てくれ・・・」そこに現れたルウペ少年・・・。そうAI×AS(アイアス)スーツの民兵達を見渡すと、

「どういうことだ?」と戸惑いこれを受けた黒眼鏡の男。それに対し、

「取り逃がした総統を追うんだと・・・」少年と一緒に来ていた扇動屋が答えくれる。

 一方の少年は、民兵らが言ったとおりに四人ほど集まってくるのを確認し、身体を他所に向けて早々にこの場を去る様子を見せると、

「残りは貧民区に隠れて待機・・・」振り返りもせずに、そう指示・・・。

 自分の足元にある、瓦礫に埋もれた敵士官の手を見ながら、

「こうやって、迷い込んだ軍隊を虐めててもいいが・・・」と続け、

「間違っても・・・」

政府()を制圧しようなんて考えるなよ・・・」荒蒼海へそう釘を刺した。

 生意気にも命令してきた子供は、大した説明も無しに四人を連れて行ってしまうようだが、有無を言わさずと言わんばかりのその背を見ながら、

(馬鹿な!)荒蒼海は不満を持っている・・・。

(あそこはもう裸同然、こんな国家転覆のチャンスを、みすみす逃すつもりなのか?)そういう思いで、少年を睨み付けている。その視線を、

「荒蒼海・・・」と遮った扇動屋、

「何も言わず従ってくれ・・・」その心中を察して、その不満を宥めようと軽く頭を下げる。そんな彼も〝軍師気取り〟について行く様子で、その行く背を見送りながら・・・、

(できるものか・・・)ボロい背広の荒蒼海はそう思った・・・。


 薄暗い路地を抜けると・・・、

 歩道に挟まれた二車線の道路・・・、その向こうには、フェンスが置かれた建設現場らしき場所が見える。フェンスは一部倒されていて、そこから見える向こうには、整地された拓けた土地・・・。そしてそこには、

 防塁が築かれている。溝を掘りその分の土をその後ろに盛ったような簡素な作りの物で、土山の後ろにしゃがみ隠れていた兵士達が立ち上がり、こちらの頭上にいる敵に牽制してくれている。

 兵舎長率いるアルフを含めた歩兵隊は、路地を抜けてもなおビルに隠れた敵から執拗な攻撃を受けており、

 そんな味方らしき防塁を見つけて、そちらへ逃げ込もうと必死の様子で走っている・・・。

 防塁の真ん中には盛り土も堀もない平らな入口らしきところがあり、歩兵達はそこから防塁の間を抜けてその向こうへ、

 執拗にレーザーサイトがアルフの後頭部を狙うが、長身の装甲車がその射線に割って入ることで、防塁の入口が塞がり、こうして、

歩兵達は安全地帯にたどり着いた。息を切らす彼らを、遠くから見る・・・、

 サモン司令の補佐役、小型車両の開かれた操縦室から地上に降りていく階段の途中、足をかけた状態で、

「続々と敗残兵が集まってきているようですが・・・」

「これから司令は、どうするつもりでしょうか?」と前で座る小太りの士官に、サモン隊の今後の行動について尋ねる。

「大型車両を捨て、路地の襲撃で削られて・・・」

「この隊も六割程度の戦力しか残っていません」その残された車両もどれもボロボロで、無数の銃痕や火に撒かれた煤の痕といった、路地で受けた傷が所々に見えている・・・。そんな戦車隊の真ん中で話す二人、

 補佐役は、隊の消耗した状況を話してから、

「それでもやはり、都市守備隊としての役目を果たすべく・・・」

「最後の砦、政府《城》の防衛にまわるつもりなのですか?」再度上司へ、より具体的にその方針を聞く。

「いや・・・」

「案外、やれるかもしれんぞ・・・」笑みを浮かべるサモン司令。

「どうせ攻め来るのはアイアス兵だ。さっきの戦闘で対処法もわかってる・・・」

「そんな敵なら、こんな寡兵でも戦える方法はある」車両側面に降ろされた階段に座る彼にとっては、戦力不足も新兵器も大した問題ではないらしい。それで、

「なら、やはり政府へ?」確認する部下を他所に、

「だとしても・・・」司令官は続ける・・・。

「気が進まんな・・・」怠惰な体型の彼は両肘を後ろの階段にもたれさせ、

「正直なところ・・・」

「これ以上、手勢を消耗させたくない」と戦意を無くしたように項垂れている。

「ならば・・・」

「外の味方との合流を?」そんなところに代替案を示す補佐役。それに対し、

「あるいは・・・」顔を上げて笑みを見せるサモン、

「どこぞへ、亡命するか?」話したその考えに、

 部下は戸惑いを見せ・・・、その場を静寂が包む・・・。そんな中、

「「こちら、大陽国臨時政府・・・」」サモンの後ろで開いた操縦室から、通信音が聞こえる・・・。操縦席前のディスプレイが内蔵された机、その画面の脇に置かれた携帯端末からそれは発されている様子で、

「「都市にいる全部隊に命じる・・・」」

「「与えられたあらゆる職務を放棄し、都市外の味方との合流を図れ!」」相当に権限のあるところからの指示のようだ・・・。

「「我々はこの都市を一時放棄し、陽京ようけい外の軍隊を集結させてから、これを取り戻す方針である」」

「「できるだけ戦力を温存するため、政府を守る必要もない。全ての兵士は何を置いても直ちに西にある近隣の基地へ集結せよ」」

「「繰り返す・・・」」補佐役の手に持つ通信機器にも着ているようで、一通り聞き終えると、

「・・・だそうです」座る上司へ目をやる。

「妙だな・・・」下を向いた彼は、

「怠けた政府にしては、やけに動きが早い」上の対応の早さに違和感を覚えている。そして、

(まるで・・・)

(政府の守備に回ってほしくないような早さだ・・・)遠くの彼の地を意識するかのように空を見上げ、考えるうち、

(スェル老か・・・)ルウペの教育係の老人が思い浮かぶ。

(また何か・・・)

(企んでいるようだ・・・)という心中で立ち上がり、

 操縦室へ入っていった・・・。

 

 多角形厚板型の政府・・・。それを囲む堀に面する上階の窓越しに、

 向かい合い座る人影が見える。

 本棚や大画面テレビ、ソファーなどがあるその部屋の中央で 白い背広に銀色の刺繍を付けた偉そうな二人が、円形の机を挟んで座っているようだ。一方は上着のボタンを留めず胸元を開けてシャツがズボンからはみ出したルーズな身なり、もう一方はボタンもしっかり全部留めてきっちりとした感じで、

 二人が挟む机の上には、無数のマスに分けられた盤上に多様な駒が置かれた、ボードゲームらしきものがある。ルーズな身なりの男がそれに手を伸ばして駒を動かすと、

「静かになったな・・・」とガラス窓のほうを見る。そこから向こうに見える街のほうでは、黒い煙が幾つも上がっているが・・・、

「・・・のようですね」一緒にそれを見ていた、対座するきっちりとした男が応える。

「反乱があったという話ですが・・・」

「鎮圧されたのでしょうか?」そう推察しながらこちらも駒を動かす。

「おい、そこの・・・」ルーズな上に人相も悪い男は、座ったまま後ろへ声をかけ、

「何か情報は入ってきてないのか?」と大扉の前にいた、メイド姿の女性に尋ねる。

「その・・・」彼女が言い辛そうな様子で、

「いつものつまらないこと故、報告しませんでしたが・・・」

「貧民達による反乱は、滞りなく鎮められたそうです」そう事実とは異なる内容を報告する。聞いて、

「当然だ・・・」納得しただらしない白背広、

「貧民区にいるような落ち溢れで無能な虫けらが、完全武装の軍隊に守られた政府や我ら高官の立場を揺るがすものになるはずがない」と高をくくりながらまた盤上へ手を伸ばし、

「それよりもだ。甘ちゃん君・・・」そう、前にいる人の良さそうな白背広に向けて話しかける。

「別のことで、この立場が揺るぎかねない・・・」悪そうな高官がそう駒を動かすと、

 〝甘ちゃん〟の高官は盤上を見つめながら、

「スェル老ですか?」そう察する・・・。

「我々は夫人派でした。彼女の娘、エピティ様が後継者に選ばれると踏んで、彼女らが有利なように、そしてかの老官や長子殿が不利になるようにとロビー活動をしてきましたが・・・」

「姫様があのようなこととなり、今や敵対していたあの老人が次期総統の後見人として、政府で幅を利かせる状況になりつつあります・・・」

「そんな状況で、我々夫人派がどのように扱われるのか・・・」

「ということですね」そうして悪人面の心配事を推察したところで、やっと駒を動かす。

「ああ・・・」とすぐさま肯定した、向かい合う高官・・・。

「今からでも親睦のある政府高官に口添えしてもらって・・・」考え込む様子から、ふと後ろへ目を向けると、

 さっきのメイドがいない・・・。

「おい!メイド・・・」誰もいない大扉前へ声をかけてから、

「どこだ!」と彼が部屋を飛び出すと・・・、

 無数の弾丸が彼の頭や胸、その急所の尽くを貫く。

 崩れ去るその前では、

「まだ人がいたとは・・・」と、ボロ着の内にアイアスを着た荒蒼海。加えて貧民兵達が銃器を構えている。伏した亡骸を前にサングラスの男は、

「召使いにも高官仲間にも見捨てられたか?」と掌を前にやり、民兵らに部屋へ入るよう促す。これに従って、開いた大扉から次々と入っていく彼ら・・・、

 部屋の中にいた人影に気づき、咄嗟に銃口をそちらへ向ける。が、

「みんな待て!」その中の一人が手を横に伸ばして仲間達を制止する。

「高官先生だ・・・」この人の良さそうなきっちりとした高官を知っているようだ・・・。その様子に、

「誰だ?」サングラスの荒蒼海が近くの民兵に尋ねると、

「よく貧民地区に来て・・・」

「炊き出しをやったり、学校みたいのことをやってくれる御方です」そういう人物のようだ・・・。

「十分な教育を受けた後には、職業斡旋も・・・」と続ける彼の話を聞き流しながら、

「それはそれは・・・」

「道理で民衆に慕われているわけだ・・・」なにやら皮肉っぽい口調で、民兵達が高官先生へ親しそうに寄っていくのを見ている。そしてその心中では、

(そして現政権が倒れれば・・・)

(大層支持された指導者やら政治家になることだろうな・・・)と先の事を考えながら、ズボンの脇にあるポケットに手を入れる・・・。彼がその中で手をゴソゴソ動かすと、

 高官へ寄った民兵らの間を何かが駆け抜け、

 慕われた男の脳天を撃ち抜く。民兵達がそれの飛んできた方を見ると、

 銃口から煙を上げる自動小銃を構えた仲間・・・、その撃った本人も驚いている様子で、この頭髪をうねらせた、天然パーマの若い男は、

「えっ」と手元に目をやって初めて、それが自分の銃から発射されたのだと気づく・・・。

「いや、身体が勝手に・・・」注目する仲間達に、〝天パ〟の彼はそう弁明しているが・・・、そんな民兵らの混乱を他所に、

 少し距離を置いたところから見ている荒蒼海は、

(そんなものはいらない・・・)と考えている・・・。

(我らの傀儡となる〝愚かな民衆の国〟にはな・・・)怪しげな心の内で、ポケットから手を出した彼、

「善人面してても、所詮は民衆を虐げてきた政府高官の一味・・・」

「何かしら恨みを買っていたのだろう」奇怪な高官殺害には、適当な理由をつけて、

「そんなことより・・・」

「政府の制圧を急ぐぞ」親指で背を指し、民兵らを急かす・・・。

 しぶしぶ動き出した彼らは、開いた大扉の前にいる荒蒼海のほうへ集まってきて、

 それを見届け振り返った彼と共に、扉から出て行く・・・。そして部屋には、

 高官の亡骸と、それを撃ってしまった若い民兵が取り残される・・・。

「おい、何してる!」それに荒蒼海の声が呼びかける。放心状態の若者はこれでやっと我に返り、

「さっさといくぞ」と民兵を率いる彼の声に、

「はい!」応えて駆けだす・・・。

 部屋から廊下に出たところで彼は、進行方向にある何かに気づく。

 前を行く荒蒼海、そのズボン脇のポケットへに伸びる手・・・。それは廊下の隅に飾られた不格好な青銅鎧の物陰から伸びているようだが・・・、

(何だ?)と、うねる髪質の民兵が瞬きする間に、

 荒蒼海の腰辺りに見えていたはずのそれが、消えている・・・。

(気のせいだったか?)それはさておいて天パの若者は、

 廊下の先を行く、仲間達を追った・・・。


 紫色で幅広のカーペットが、白金のカーテンに囲われた背もたれ付きの座布団まで続く大部屋・・・。老スェルが総統と謁見していた部屋のようだが・・・、

 そこに、荒蒼海率いる貧民兵達が入ってくる・・・。

「大体制圧できたか・・・」と部屋内を見渡す、ボロい背広とサングラスの彼・・・、

「まだ隠れ潜んでる奴がいるかもしれん・・・」

「分かれて探るぞ・・・」民兵達の先頭で振り返り、彼らの後ろへ向かって指さす。

「あんた達は他所を頼む。俺は・・・」

「ここらを探っておく・・・」命令が飛ぶと、貧民達はさっさと部屋の外へ・・・。これを見届けた彼は、紫絨毯の上を進んで・・・、玉座のように置かれたクッション椅子に近づくと・・・、

 絨毯の上に敷かれたそこに、腰を下ろす。潜伏した敵など探す様子もなく、ライフルを握りながら肘掛けにもたれる、リラックスした様子で、

「楽勝ではないか・・・」もう勝ったつもりでいるようだ・・・。そして、

 玉座から謁見の間を見渡す、〝王者の景色〟を堪能しながら思うのは、

(それはそうだ・・・)

(例の罠で、軍隊を失った奴らに何が出来る?)

(あのガキは何が恐ろしかったというのだ)少年軍師に〝城攻め〟を止められたこと・・・。彼が眺める景色は、これを眺めているということは、禁止したそれが問題なく成されたことを示しているはずだが・・・。

(所詮は臆病者ということか・・・)その自問に、適当な自答をつけたアイアスを着込んだ背広・・・、その体が異様なほど深くクッション椅子にめり込んでいる・・・。その異変に気づかぬまま、

(いざというときには二の足を踏んで何も出来ない・・・)と考えてる内に、まるで液体のような柔らかなそれに取り込まれ、

 誰もいない謁見の間だけが残った・・・。


 頭上から明かりに照らされると、荒蒼海は暗い部屋の中で座っている・・・。

(ここは?)ふと立ち上がる、サングラスの男・・・。退いて、

 またも、後ろにあった四脚椅子に腰掛ける。

(身体が勝手に座った!?)

(これは!)自分の行動に驚きながらも、その現象に心当たりがあるようで、

(アイアスの制御装置!)

(馬鹿な!あれは俺のポケットの中にあるはず・・・)目に見えて動揺を見せながら、自分の腰辺りに目を向ける。そんなところに、

「あの民衆に慕われた高官・・・」男の掠れた声が、明かりの届かない暗がりから近づいてくる・・・。

「民兵が意に反して彼を殺したとき・・・」

「お前がズボンポケットに手を突っ込んで、何かを弄くっているのを見かけてな・・・」戦闘スーツに制御装置が存在すると知っていれば明らかにそれを操作しているのだとわかる、その瞬間・・・。それを観ていたという声の主・・・。明かりでやっと顔が見えるところまで来ると・・・、

「それを、隙を見て盗み・・・」

「こうして使わせてもらっている・・・」現れたのは、スェル老・・・。顔の前まで持ってきたその手には、話にあった〝アイアス制御装置〟らしき機器が握られている。

 機器のこちら側(荒蒼海側)には、カメラらしきレンズが光り・・・、

「さて・・・」

「このリモコンが、こちらにあるということは・・・」

「わかるな?」確認する老人の手元にあるデジタル画面には、椅子に座ったサングラス男が映し出されている。加えて画面には、

「対象の行動を選択してください」と表示され、行間を空けて示された選択肢としては・・・、

「(1)指定攻撃、(2)無差別攻撃、(3)自決」と物騒なものが横書きで縦に並んでいる。その中から、画面下のキーパットで選ぶようで・・・、数字や矢印が記されたそれに指をかけて、

「いつでもお前達を殺せるということだ」スェルは、画面に映る自らの手に運命を握られた男を見ながら、

「このように自決でも・・・」(3)のボタンの上に、指を置く。

 押してもないのに、〝対象〟の武器を持つ手が動いて、ライフルの銃口を荒蒼海は自らの顎に突きつける。今にも〝自決〟しそうな姿勢にさせられたまま、

「外で今やらせているように、同士討ちさせることも出来る」他のアイアス着用者の運命について、教えられると、

(だったらなぜ、俺だけは・・・)長い銃身で顎を押し上げられて仰け反った体勢の彼に、ある疑問が・・・。

「(さっさと殺さない)か?」リモコンをずらして見えた、老いた口がその心中を察して、

「・・・情報だ」疑問に答えるとともに暗闇の中にある鋭い目が、こちらを見下ろす。

「お前を寄こした黒幕・・・、かの経済大国についてのそれがほしい・・・」自決体勢にした男の前で、リモコンという引き金を手にした、どう見ても強迫している危うい老人・・・。空いているほうの手を上げて、後ろへ合図すると、

「だからこそお前だけは・・・」

「外のバトルロイヤルから逃れさせて、ここに・・・」部屋が明るくなり、その全体が見えるようになる・・・。不気味なほどに何もない真っ白な空間・・・。灰色背広の老人の奥に、もう一人、執事っぽい格好で凛々しい眉の人物がいるが、それ以外は何もない、使用目的もわからない部屋だ・・・。そんなところに連れ込んだスェルは、

「この拷問部屋に招き入れたのだ・・・」哀れな男にそう話した・・・。




 自由郷を西に、郊外へ出て行く道路がある・・・。荒地の中を走るそれを辿っていくと・・・、

 灰色の世界には良く映える、緑に満ちた山々が見えてくる・・・。

 麓まで行くと道路は途切れて、そこから舗装された石畳が、山間のほうに続いている。テカる岩石を敷き詰めた道は、山々の間を縫うように蛇行し・・・、向かう先には・・・、

 四方を山に囲まれた小山・・・。その中腹までは石階段が続き・・・、登りきったところには、

 森林と、塀で隔てて設けられた、拓けた土地がある。その地面には、土地を真ん中で割るように石畳が敷かれており、それが続く先には・・・、

 金色の瓦を載せた白い建物・・・。四つの柱に支えられた屋根のある、その戸のない入口の前に、

 二人の人影が見える・・・。

「なぜ、誰もいない?」ムゥア総統が建物周辺を見渡して、少し距離置いた後ろで、

「政府より・・・」自動小銃を肩に掛けた青年歩兵、サオスが考えながら話している・・・。

「「残存兵力は、近くの駐屯地へ集まれ」とありましたので・・・」

「警備兵共々、そちらに向かったのでは?」彼は前でキョロキョロしている総統へそう進言するが、

「あちらかもしれん」太った男は自ら解を見いだし、

 サオスとすれ違って、

「総統様?」戸惑う彼を他所に、

 石階段のほうへ歩いていく・・・。


「ここは・・・」森林の中に来たサオス・・・、

「さっきのと同じもの・・・」山の中腹にあった建物に似たそれを見つける。こちらの瓦屋根は地味な灰色だが、斜面を降りていった先にいる総統によると、

「あっちのは、ダミーで・・・」

「こっちが本物の・・・」

「〝陽沈陵〟。歴代総統達の眠る場所だ・・・」森に隠されたここが、指導者達の墓所だという・・・。

 そんなことを話しながら、斜面を降りた彼・・・、

「アイツにも話してたから、勘違いして・・・」入口辺りに敷かれた石畳を踏み締めると、

「やっぱり!」

「誰かいるぞ!」開かれた入口から降りていく階段の先に、灯りが見える。

(灯り・・・)それを後から来て、サオスが確認すると、

(妙だ・・・)何か腑に落ちないことがあるようだ。総統のほうは階段を下りてどんどん先に行くようだが・・・。

(みんな避難したのに残ってるのも、そうだけど・・・)

(葬儀の最終地点で合流するって話なのに・・・)

(何でそんな奥の・・・)

(わかり辛いところに・・・)そんな疑問を持ちながらも、しっかりと護衛すべき人物について行く若い歩兵・・・。

 主と共に階段を下りたところは、突き当たりになっていて・・・、そこから右方向に石の通路が続いている。山の内部に作られているというのに、天井電灯のおかげでやけに明るいその路は、曲がっていくようで・・・、二人が進んでいくと、

 通路の壁際に、両開きの大扉が見えてくる・・・。その上には太陽を模した紋章もあり、

(あれは初代の・・・)サオスが反応するが、

 その部屋は通過し・・・、しばらく行くと・・・、

 またも紋章付きの大扉がある。さっきの太陽とは違い、小さめで周りに光輪らしき輪が見える。これにも反応した若い歩兵・・・、

(こっちは先々代のか・・・)そう見たその扉は、

(開いている・・・)。


 ガラスケースの中に、総統に似た太った男が横たわっている。寝ているのか死んでいるのかもわからない、彼の寝台周辺には、床より少し高いくらいの段差があり、そんな低いところにある平面の上には、金色の燭台や酒杯、武器立てに置かれた宝剣などの高価そうな品々が、供え物のように置かれている。そんな金品が備えられた正方形、その角の延長、四カ所それぞれには、どこかで見たような青銅鎧が飾られ、それから間隔を空けての壁沿いには、寝台周りと同様に供物らしき金品が並んでいる。それらは整然と並べられているようだが・・・、一部荒らされて、金品、宝剣、金盾などが無造作に転がるそこには、

 総統夫人がいる。金品を物色している様子の彼女・・・。その背から、

「お前・・・」総統の声がして、振り返ると、

「何をしている?」彼が若い護衛を伴い、後ろに来ている。

 それを見て、頬に汗を見せる夫人は、

(こいつ!生きてたの!?)

(敵の落とし穴に嵌って、生死不明って聞いてたのに・・・)その首や腕に墓所《\ここ》で盗んだような装飾品を身につけている。その手に金品がたっぷり入った布袋まで持っていて、これに夫は、

「これは・・・、先々代の副葬品・・・」とそれらの品々に反応する。死者と共に保管されていたそれを、彼女が持っていることについて、

「なぜそんな代物を持って・・・」問いただそうとすると、彼女は、

「は、反乱軍に・・・」

「荒らされる前に、どこかに避難させようと・・・」そんな言い訳・・・。その途中で、何かに気づくと・・・、その様子から、

 遅れて反応したサオスは総統の手を引き、

 その場から飛び退く。次の瞬間には、

 そこに、無数の銃弾が駆け抜け、

 夫人は鎧の後ろに、サオスらは寝台の物陰に避難する。銃撃が飛んできたほうを見ると、

 ルウペと扇動屋に率いられたアイアス兵らが自動小銃を構えている。

「状況から察するに・・・」扇動屋が口を開いて、

「反乱のドサクサに紛れて、夫人が墓荒らししてたところに・・・」

「総統が心配して駆けつけたといったところか・・・。なるほど、」

「二人の行動原理がわかっていれば、予想できる状況だな」銃撃で荒らされる前の状況について分析・・・。

「そういうことだ・・・」隣のルウペが肯定しながら、開いた手で前を指し、

 応じて数人のアイアス兵らが攻撃を再開する・・・。

 それをガラスケースに覆われた寝台で凌ぐばかりだったサオスが、携帯していたアサルトライフルで反撃・・・。これを避けるため、民兵らは散って、遮蔽物の裏へ・・・。扇動屋もルウペを抱えて、鎧の後ろに隠れたが、

「小型車を操縦してた奴か?」

「若い、下っ端のように見えたが・・・」少年を降ろしながら、反撃してきた歩兵を気にしている。そして眼前を掠めた弾丸に怯んでから、

「兵士よ!」彼へ呼びかける・・・。

「なぜそんな奴のために戦う?」

「其奴は屑だ」その忠誠心を揺さぶるつもりのようだ・・・。

「悪徳業者を引き入れ、この土地を汚染せしめた男の息子で、その犠牲の上に築かれた富で私腹を肥やす、許せん男だ」

「だからこそその不満から、革命が起こり・・・」

「こうして追い詰められている・・・」〝兵士〟が背にする透明な棺に無数の銃弾が浴びせられる・・・。鎧や副葬品、入口扉などに隠れたアイアス兵らによる銃撃のようだが・・・、四人の強者が代わる代わる絶え間なく撃ちかけてくるそれに、さっきまで応戦していた総統の護衛は反撃もできない程に圧倒されている。防弾ガラスの箱の裏から厳しそうに敵方を覗くばかりの彼へ、扇動は続く・・・。

「民衆を蔑ろにした当然の報いということだ。なのにお前は・・・」

「なぜ?そんな罪人を匿うのだ」

「今や人望どころか、権力すらも失いつつある男を・・・」絶対不利の状況と、主を貶める言葉の中で、サオスは反撃を止め、諦めたかのように力が抜ける・・・。

「今からでも遅くはない・・・」そこに追い打ちをかける扇動屋・・・、

「其奴を差し出せ・・・。そうすれば」

「お前には、一切危害を加えないと約そう・・・」大人しく聞いている護衛の隣で、総統は不安そうに見ていたが・・・、

「ご安心を・・・」サオスは顔を上げて、

「俺は、裏切りません・・・」強い意志が現れた眉と目で前を見つめる。

「外の人間にはわからないでしょうが・・・、俺達は・・・」

「この国に大恩があります」

 これに総統は、(大恩?)と問いたそうな顔をしてるが、聞くまでもなく、

「奴らが悪徳と言う、御父君の政策のおかげで、下々の俺達だって救われたんです」

「あの政策で経済発展しないで、この国がちっぽけなままだったら・・・」

「他の後進国のように、あの大国の経済力にたちまちに飲み込まれて、今頃は・・・」

「自由市民とは名ばかりの、金持ち共の奴隷に成り下がっていたかもしれないのに・・・」アサルトライフルを強く握り絞め、その忠誠心の源について話してくれる。そして、

「だから・・・」

「恩人のご子息であるあなた様を見殺しになんて・・・」

「決してしない!」と遮蔽物から身を乗り出し、銃器を乱射する。

 透明な蓋の棺の後ろに戻ってきた彼は、隣の総統へ、

「暫しご辛抱を・・・」

「既にあなたが無事なことは上官に伝え、味方がこちらへ向かっているはずです」

「ここで耐えていれば、いずれは・・・」と声をかけながら、また隙を見て応戦する。

 たった一人での抵抗だが、それは的確に複数人の民兵達を怯ませ、遮蔽物から出さないようにしているので、彼らはなかなか攻勢に出られない。その様子と〝援軍が来る〟という話に、

「急がなきゃな・・・」と鎧に隠れたルウペ。隣で聞いていた扇動屋は、

「危険回避ばかりで、へっぴり腰のAIでは、銃弾飛び交う中を突っ込むなんて大胆はできなかろう・・・」そう最新兵器を評してから、

「俺が前に出る・・・」目元を陰らせて立ち上がる・・・。

 味方の銃撃と同時に、青銅鎧の裏から飛び出した彼は・・・、

 サオスが怯んでいる内にそちらへ近づき、棺に背をつけた彼らを通り越して、

 遮蔽物の裏へ回り込んだ。この髑髏顔の男は、

 腿辺りに付いたポケットに手を突っ込んだ状態で、総統へ迫り、

 そこから楕円形の何かを取り出して、光る刃が飛び出したそのポケットナイフで、彼に襲いかかった。

 寸前でサオスが割って入り、これを自動小銃で受け止める。

 小さなナイフは火器の銃身を断ち切り、手頃な見た目からは想像できない切れ味を見せて、扇動屋は「どうだ」と言わんばかりの顔・・・。が、

 打撃音と共にその顔は歪み、彼は脇腹を抑えながら退く。目の前の、

 若き歩兵が膝を蹴り上げた様子に、

(此奴・・・)

(忠誠心でバフでもかかって・・・)と驚いていると、

「銀カブ!」ルウペが呼びかけ、

義母上ははうえを狙え」と棺の隣に飾られた鎧を指し示す。

 〝銀カブ〟と呼ばれた扇動屋は、

「なるほど・・・」と鎧の後ろに隠れた彼女を確認してから、

 そちらへ跳ぶ。それには総統も慌てて遮蔽物から飛び出し、

 銃弾が飛び交う中を、凶刃迫る夫人の下へと駆けていく。

「総統様!」それをサオスは引き留めようとするが届かず、

 近くに飾られた宝剣を持って、後に続いた・・・。

 怯える彼女へは、当然一番先に向かったナイフ男が真っ先に到達する様子だが、

 標的に肉迫したところで、突然足を止めて振り返り、

 こちらに恐ろしげな笑みを向けてくる。総統を誘い出した扇動屋が真の標的を迎え撃たんとする、そんな状況に、

 宝剣を振り上げて放り投げようとするサオスだが・・・、

「駄目だ」

「あの方が射線に入って・・・」護衛対象が邪魔で、奥の敵が狙えない・・・。そうしているうちに、

 夫人を助けようとする勢いのまま、危険な男に近づかざるを得ない総統・・・。目の前までまんまとやってきたそれに扇動屋は、

 ポケットナイフを横凪に振る。が、

 狙っていた男の上半身は巧いタイミングで沈み込み、斬撃は空を切る。足元を見ると、総統は転倒しており、その膝裏の真横には巧いこと布地だけを貫いて、宝剣が地面に突き刺さっている。

(これで、転かせたのか・・・)とそれを見ていた扇動屋。顔を上げた先では、

 サオスがそれを投げつけた様子・・・。おかげで、

 獲物を仕留め損ねたナイフ持ちは、

「だから・・・」と得物を反し、

「どうした!」両手で握ったそれを、足元の男を突き刺さんと振り上げた・・・。

 突然、頭上の高さまで上げたその肘関節が、砕けたように血肉が吹き出す。それを、

(味方の流れ弾!?)見上げて驚いていると、

 今度は足元、左足首と右膝関節が何かに貫かれる。

(違う!)

(確実にこっちを狙って・・・)崩れ去り膝を付いた彼が、横へ向くと・・・、

 遮蔽物から出てきたアイアス兵達がこちらにライフル銃を向けている。

彼らに囲まれた飾り鎧にはルウペが隠れていて、周りの物騒な様子には見向きもせずに、

「〝オモチャ〟を奪ったか・・・」と真向かいにある部屋の入口のほうを見ている。その開かれた金属の扉からは、

「鬼畜爺・・・」ルウペの声とともに、老紳士スェルが入ってくる。

「総統!」彼はその場で声を上げて、

「止めを・・・」立ち上がろうとする総統の目を、その前で四肢から血を流す扇動屋へと向けさせる。とにかく立ち上がろうとする太った男は・・・、

 巧く立ち上がれないことに気づき、足元に目をやると、ズボンの布地だけを貫いた宝剣を見留める。サオスが投げて足を拘束したそれを、

 引き抜いて立ち上がる彼は、前で項垂れる男の方を向き、

 刃の一部が宝石のような刀剣を両手で振り上げて、

 彼へと斬り下ろす。それは・・・、

 その左肩から腹部にかけてを切り裂き、

 胴体に深々と刀身が入った。

 使い手の非力さ故か、両断できず腹部の中途半端なところで止まった刃・・・。その谷のような切り口から溢れ出る赤い液体に、総統は驚いて宝剣の柄から手を離し、退く。そこに、

「お見事にございます・・・」と近づいてくるスェル。

「おそらくは、そ奴が反乱の首謀者・・・」腹に宝剣の刃が入り絶命した男を示してから、

「これにて、この国家の危機は決着とみてよいでしょう・・・」と前で硬直する総統へ、自らの推測を伝える。そんな老臣の後ろ、

 古代鎧の物陰から見知った少年が現れる・・・。

「ルウペ!?」驚く総統。その視線の先にあるものを察した、少年の教育係は、

「脅されて仕方なく反乱に協力した・・・」

「ということで、よろしいですか?」とそちらへ振り返り、彼に問う。ルウペは、

「ああ」それに見向きもせずに返事した・・・。



 〝政府《城》〟からは、次々と民兵らの死体が運び出され、血塗れのそれらは、建物から階段を降りたところに停車する、トラックの屋根なし荷台に無造作に投げ込まれる・・・。

 反乱鎮圧後、政府内は彼らの血が所々に散らばる、燦燦たる有様を見せるが・・・、それも一日経つと・・・、

 真っ白な壁と床、血染み一つない絨毯が敷かれた、真っ新な廊下になっている。両開きの扉の向こう、総統とスェルの向かい合う謁見の間も、何事もなかったかのように整った様子だ。

「本当に良いのか?」座布団の上、夫人を傍らに置いた総統が、紫カーペットの上で跪く臣下に確認している。

「はい・・・」その老臣、スェルは応えて、

「〝脅されて〟とはいえ、反乱に加担したのには違いがありません。でしたら、法に則り、罪人として・・・」

「〝矯正収容所〟に送るべきかと・・・」低い姿勢のまま小さく頷く。どうやらルウペの処遇について話しているようだ。その老臣の考えについて、

「しかし、あそこの指導は・・・」総統は気の進まない様子で、

「少々手荒・・・いや、厳しすぎると聞くぞ?」としつこく確認・・・。その隣で擦り寄るのを止めた夫人は、明らかに動揺した様子で、

(そんな生易しいもんじゃない。あそこは・・・)

(囚人を虐待する、拷問という快楽を、変質な金持ち共に提供する、非人道的な娯楽施設・・・。大抵の囚人は拷問の末に死に、生還したとしても精神のイカれた愛国者になって出てくる)少年が送られようとしているところの恐ろしさを知っている。それ故に、

(そんなところにあのガキを送るなんて・・・)

(正気じゃない)目を向ける老人の思惑が、全く理解できないでいる・・・。

「良い機会ではないですか・・・」総統からの再度の確認に応える彼は、

「先日奥様が仰った通り、今のあの方では国の統治者として相応しくない。少々厳しくとも・・・」

「罪人たちを〝愛国者〟に改めてきたかの施設で、いっそ再教育してもらえば・・・」

「少しは後継者らしくなるでしょう」と、表向きはそんな意図だが、

(狂わせるだけだ・・・)夫人は納得できていない。一方、

「そうだな・・・」総統のほうは納得して、

「残念ながら今のところは、アレしか候補がいないし・・・」

「それが良いかもしれんな・・・」顎に触り考えるようなそぶりで肯定する。すると、

「では・・・」スェルは立ち上がり、

「そのつもりで推し進めますので・・・」と胸に手のひらをつける御辞儀をして、

 戸惑う政敵を尻目にその場を去っていく・・・。


 閉じていく焦げ茶色の大扉・・・。そこから出てきた様子のスェルが、

 O字型の道路を見下ろしながら・・・、長い階段を降りていく・・・。向かう先、

 階段を降り切ったところに面した道路には、箱形のワゴン車が停まっている。黒っぽい緑色で、人が何人も収容できるような長い荷台部・・・、

 その後ろにある両開きの扉を開けると、

 左右にある長椅子の右側奥に、ルウペが座っている・・・。

 地面からタイヤ半分ほどの高さがある荷台の入り口から、その車内へ上がる老教育係・・・、

 教え子の斜め前に座り、片手を軽く掲げると、

 合図を受けて要人を乗せた車両が発進・・・。そうなってから、

「あの大国の使者・・・」掠れた声で老臣が切り出す・・・。

「やはり民主化した政府を傀儡にするつもりだったようで・・・。あのまま革命が成されていれば・・・」

「この国の労働力も資源も、かの国の強欲な商売人共にその私腹を肥やすため、搾り尽くされていたでしょうな」老教育係は物申したげに上目に見てくる・・・。

「ふ~ん」と適当に応じるルウペ。長椅子の端で壁にもたれる彼へ、

「ところで・・・」老紳士は話題を変える様子で続け、

「〝レアなの〟とは、何でしょうか?」どこかで聞いた単語について問う。

 だらけていた少年は驚き、体を起こして斜め前を見る。その(何で知っている)と言わんばかりの顔に、老臣は答えて、

「ああ、これですか?これも・・・」

「例の使者からの情報です」と情報源を明かす。そこから続けて、

「彼の〝記憶〟によれば・・・」

「私が後見人の立場で国を牛耳ると、希少な何かが危ういそうで・・・」

「それを嫌って、反乱に加担したとか・・・」話したそれは、

 貧民区で扇動屋と話した内容・・・。その場には確かに情報源の男もいたが、

(妙に詳しい・・・)その余りの詳しさに、少年は不気味さまで覚えている。

(〝使者の記憶によれば〟とか言ってたか・・・)気になるその使者だが・・・、

 何本もの管と繋がったヘルメットを被らされ、椅子に縛り付けられている。口元には涎まで垂らしているが、どのような方法で情報が聞き出されたのか・・・。想像するだに怖ろしいが、それを見ずとも、

 冷酷な教育係の聞き出し方を察して、教え子は冷や汗をかいている・・・。そこへ、

「思いまするに・・・」

「〝レアなの〟とは、我が政敵達では?」鬼畜な老紳士は下から覗き込むように確認してくる。

 俯いて考えるそぶりを見せる彼は、

「〝希少〟かどうかは知りませんが・・・」

「私が殺すとするなら、あの辺りでしょう・・・」その答えに行き着いた理由を話しつつ、城襲撃で犠牲になった高官先生らを思い浮かべ・・・、

政敵あれらを私から守らんとして、国を滅ぼしかけたということでよろしいか?」再度教え子へ確認する。また向こうにもたれている少年は、

「だったら?」ぼんやりとした目だけをこちらへ向けて聞き返す。その続けざま、

「だったら・・・」灰色スーツの老人は切り返す・・・。

「相談して下さればよかった・・・」

「「惜しむ才能がある」と仰ってくれていれば、それが憎き政敵であっても見逃して差し上げました・・・」残念そうに床を見つめる老紳士は、話が分かるようで、


「そして、今からでもそのように・・・」

「あなたにとっての〝宝〟には手を出さないことにしましょう・・・」ルウペ少年が、虐殺まがいのことをしてまで望んだことを簡単に叶えてくれるようだ・・・。そんな老師はこちらを見て、

「ですから」

「安心して、総統に・・・」父親が我が子を温かく見守るような眼で、そう続けるが、

「できるわけない・・・」壁の方を向いた教え子が割って入ってくる・・・。

「あんたが」

「〝長年の悲願〟を諦めるなんて・・・」そんな意味深な台詞に、

(長年の悲願!?)スェル老人は心中で動じ、

「私の何を、ご存じで?」顔に汗を浮かべて問う。すると、

「あんたは・・・」

「〝改革派〟の生き残り・・・」ぼんやりした小僧は、自分の過去について語る・・・。

「外の進んだ敵と張り合うために、今に続く政府を打倒しようとして、挙句・・・皆殺しにされた連中の同志・・・。で」

「その時に邪魔をした〝保守派〟を恨んで、それらへの復讐を目論んでる・・・」反逆の過去と秘めたる怨念について、好き放題に言われる老紳士。俯き気味に薄く目を開いて、只々怪しい雰囲気を漂わせていたが・・・、

「長い時間をかけてここまで上り詰めたのも、全部そのため・・・。それをたかが出世の道具でしかない俺のために諦めてくれるなんて・・・」知った風な小僧がそう続けると、

「「できるわけない」ですね・・・」復讐者は割って入る。

「地獄に追いやられ、忘れられるほどの時を経て舞い戻り、数多の雪辱を耐えた末に遂に得るだろう、〝粛清〟の機会・・・。君主気取りの小僧のお遊びに付き合って、見逃すなど有り得ない・・・」言葉に遠慮のなくなった老臣は、担ぐ神輿が才を惜しむのも構わず〝長年の悲願〟を果たすつもりのようだ・・・。

 教え子に見向きもしなくなった彼は、

「しかし、そうなると・・・」

「担がれては頂けないのでしょう?」神輿の宝を葬り去る以上望み薄な、その要求について尋ねる。そして、

「それどころか」

「事あるごとに、邪魔してきそうですね・・・」薄く開いた目を、使えない〝出世の道具〟へ向ける。続いての、

「生かして置く限り・・・」殺意を含んだ言葉だが、

「さあ、どうだろな・・・」もたれる向こうを向いた小僧は、気の抜けた返事をする・・・。

「気が変わるかも・・・」

「《《あそこ》》に行けば・・・」何もない壁を見つめるそれが、言葉で何かを指し示すと、

「矯正収容所ですか・・・」教え子の言わんとすることを察した、斜め前の老紳士。顔に汗を浮かべた様子で、

「別にそれを意図して、施設に送り込むのではないのですが・・・」としてから、

「傀儡が要らぬ意志を持って思い通りにならないなら・・・」

「いっそ〝再教育〟を以って・・・」

「廃人にでもするしかないのかもしれまんね・・・」薄目になって肩を落とす。神輿を説得に来たのであろう彼は、それを諦めたかやる気を無くしたようで、

「正直・・・」

「望み薄ですが・・・」と付け足して、人差し指と中指を手前へ払うハンドサインを見せると・・・、

 彼らの乗る護送車は道路を曲がり、その進み行く先には高い塀に囲まれた施設が見えてくる・・・。悪名高き矯正収容所が・・・。


 コンクリートの塀の間に、格子状の大門・・・。近くにはガラス越しに中が見える小部屋が設けられ、警備員だろうかその辺りに何人かの人影が見える・・・。門から間隔を開けたところには、広い歩道に沿った道路があり、そのアスファルトで敷き固めた道の脇に、

 先の護送車が停まっている。車両の裏側、歩道側に視点を移すと、護送車から降りてきた様子の二人・・・、

 冷酷な教育係と厄介な教え子が立っている・・・。

「それでは、お気をつけて・・・」そう御辞儀をしたスェル。悪い噂があるという場所に自分を送り込んだ張本人を、ルウペは苦々しい顔で横目に見る。

そんな「誰にせいで・・・」と言わんばかりの顔ながらも、彼が収容所のほうへ進み出すと、

「あなた様の警護を仰せつかりました・・・」そちら側から声がかかり・・・、

「サオス特衛士であります」近衛関係の役に昇進した様子の《《忠犬》》が、ハキハキと自己紹介しながら現れる。先の警備員らしき人影が彼だったようだ・・・。

「御身は命を懸けても・・・」と彼は続けるが、

 ルウペ少年のしかめっ面・・・。その表情に、

(あからさまに嫌そうな顔!)驚くサオスは言わずもがな、自分が嫌われていることを理解した・・・。

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