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第3話 超絶美男子

 高校生活にも慣れてきた頃、唯音は永が通う高校に超絶美男子がいることを知る。

 10年に一度の猛暑日が、毎年のように訪れる。夏といえども、小学生の頃は、けして30℃は超えていなかったような気がするが、この頃は35℃を超えるのが当たり前になっている。

世末涼子よもすえりょうこさんで、MajiでKutaばる5秒前です。どうぞ」

 クラスの中におかしな奴が居る。そう気づいたのは、そんな独り言が聞こえてきたからだ。

 このくらい気が触れている奴がいても、もはや驚きはしない。ここは最底辺の学校なのである。男の容姿が色黒のドレッドヘアで、見るからに胡散臭い、頭の悪そうな人間であることにも、今さら驚くことはない。 それよりも、こういう見た目の人は、レゲェでもしているのだろうか。僕は少し興味が湧いた。

 しかし、声をかけるのは、難しい。話が通じるのか。いきなり殴りかかってきたりしないだろうか。やっぱりやめた。


 それから、つまらない日々が続いた。暑い。イライラする。チョーキングをしたら弦が切れて、指を切った。イライラする。ヘッドフォンから流れる音の様に上手く弾けず、音がビビっていて情けない。また、イライラする。

 地道な作業を続けて、難しかったフレーズが引けるようになると、途端に嬉しくなる。新しいフレーズが浮かんで弾いてみる。天才かと思う。続けて弾けば、気がつく頃には日が落ちている。学校へ行かなくてはいけない。

 夕陽が沈む頃に始まる学業は、憂鬱で退屈。だがその日は違った。

 ドレッドヘアの友達が、何気なく声をかけてきた。男は色白のアフロだ。ドレッド同様に、とにかくデカかった。

「暑いねぇ松本くん。今年は10年に一度の暑さらしいよ」

「毎年じゃないですかね、それ」

「えそーなん? でも10年に一度が毎年って、それってもう何年に何度なん?」

「さてねえ」

 そんな会話だったが、見かけによらず話ができる人であることが分かって、少し肩の荷が降りた。

「おい陽介、早く行こうぜ」

 ドレッドヘアは、図太い声でアフロを誘い、校舎の中へ消えていった。僕は見逃さなかった。アフロが僕に手を振るのを見て、ドレッドヘアが一瞬だけ頭をペコッと下げた姿をである。案外、まともな人なのかもしれない。

 そう思っていたら下校時、ドレッドヘアが声をかけてきた。

「これ食うっすか?」「あポテチ苦手です」「え、そうすか」

 それだけだった。だが帰ってから、妙にその出来事を思い出した。そしてなぜか、クスクスと笑えてきた。それだけで、なんだか楽しい一日に感じられた。



 夏の暑さは10月になっても和らぐことはなく、日本から四季は消え失せたと誰もが口を揃えて言いだした。

 永もまた、オシャレな秋服が着られないことに文句を言っていた。確かに永はオシャレである。僕が母親に出される服を着るだけの普通の学生であるのに対し、真面目に着こなしについて考える男だ。理由はやはり、モテる為だろう。ここまでして彼女の一人もできないのが、不思議に思えてくる。

「彼女できとらんと?」

「できとらんねぇ」

「原因は分からんと?」

「強いて言えば……クラスに一人えげつねぇのがおる」

 そのえげつねえ一人というのは、男も色を覚えそうになるほどの美男子のことらしい。

「唯音よりもこまかばってん、肌が白く艶やかで、とにかく顔がよか。とにかく顔が良くて、気さくで、居るだけでその場が明るくなる。俺も一緒に居るとなんか楽しくなる。これは恋か?」

「その人がカリスマなだけやと思うぞ」

「そうよな、別に差別じゃないが俺はちんぽこに興味はなか。やっぱりあん男が、特別な人間ったい」

「何て名前なん」

寶井たからいひいでやったかな。ムズい名前やった」

 寶井栄たからいひいでは美術学科の生徒ながら、音楽の趣味が合うからと、永とも話をしてくれることがあるらし。バンド活動はしたことがないが、知り合いのバンドにサポートメンバーとして加入したこともあるというから、それなりに腕もあるのだろう。

 なにより、あの女好きな永が、極度なまでの女好きな永が、美しさを感じてしまうほどの容姿なのだ。きっと、華があるに違いない。

 会ってみたくなった。だが寶井くんはどうも人見知りらしく、交流の輪を積極的に広げようとはしなかった。

 代わりに、寶井くんの子供の頃からの友人だという小田弘樹くんと会えることになった。彼は陽キャそのもので、誰にも分け隔てなく接することができる人だった。

 永と違い、彼はモテる。それはなぜか。それはエロいからだ。童貞臭が凄まじい永と違い、彼は爽やかで明るい変態だ。ただガッつく変態の永とは違うのである。

 そのせいか、永は小田くんを敵対視していた。

「小田くんはバンドをしてるんやろ? 人気あるん?」

「どうやろう、永くんのバンドは最近始めたんやろう? 先輩として少しは人気も勝るかな」

「見せてみ、おたくらのバンドの実力とやらを」

「週末にやるから見に来てよ! サポートギターは栄だから、是非是非唯音くんも来てよ!」

 そういう運びで、僕たちは週末にライブを見に行くこととなった。寶井栄がどんな人なのか知ることができる。僕はワクワクしていた。

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