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第2話 みかささんとそのバンド

 鳴海高校へ入学した唯音は、不安に押しつぶされそうになる。そして、みかさのバンドのライブを観にライブハウスへと足を運ぶ。

 3月、僕らは中学校を卒業した。この年は桜の開花が例年よりも早く、卒業シーズンに日本各地で満開となっていた。新入生が少し可哀想だと思いながらも、眺めた桜はやはり美しい。だが、次第にザワザワしだした。もう義務教育に守ってはもらえない。明日からの自分の選択が、自分の人生を変えてしまうのである。

「アニメの見すぎかな。こういう転換点のすべてに、特別な意味がある気がしちゃうなあ」

 乾いた笑いが出た。そして不安がるのをやめた。考えたところで何を変わりはしないのである。

 友人らと写真を撮りあって、別れを惜しむ。もう一生会わない人もいるだろう。次に会えば、嫌な人間になっている友達もいるだろう。どうしてか、またしてもそんな、なんとも形容しがたい否定的な捉え方をしてしまう。

「おい唯音! せっかくの門出になに暗い顔しよっとか!」

「相変わらず元気やね永」

「どうせもう会わん子らもおるし、片っ端からLINEで遊びに誘うしかないやっか。その為に交換しまくってて忙しかとぞこっちわ!」

 永はこの別れを機会だと捉えているらしい。捉え方ひとつで事実は全く異なるものになる。事実を芸術に昇華するセンスがなければ、これから生きていくことはできないのである。


 数日間の休みを経て、僕は鳴海高校へ入学した。周囲にはやはり、不良や中年といった人らが多く、今までとは異なる環境になったことをすぐに感じた。自分が浮いているような感覚がある。バンドマンになると決めたとき以上に、周囲の学生と道を分かつ決断をしたのだという実感が、肌にべったりまとわりつくようだった。こればかりは、ただ不快であった。お前はもう普通じゃないのだと指をさされて嘲笑されているようで、社会から爪弾きにされた気分だった。だが、何者かになるのならば、誰もが通るべき孤独という名の試練なのだろう。

 間もなく始まった学校生活は、ただ高卒という称号を得るための労役のようなものだった。拘束時間が長すぎる。夜から始まるせいもあってか、酷く陰鬱な環境だった。

 授業中に音楽を鳴らすバカ、数ヵ月後には妊娠を理由に退学するヤンキー、えらく真面目で情熱的な中年男性。とにかく息が詰まる環境だった。現状における唯一の楽しみは、永やみかささん、泰造と借しスタジオで演奏をすることだけであった。

「オリ曲作ってみて分かったけど、やっぱプロの曲って凄いねみかささん。カッコ良さも技術も、全部がずば抜けたセンスを感じるよ」

「当たり前じゃん唯音君。そもそも複雑なのに不快に感じさせない音、なぜか口ずさみたくなるメロディ、ふと思いだしてイイナって思える歌詞。全部、日常に溶け込めるほど優れてるってことやん」

「それもバンド活動をせんかったら、気づかんかったことかもって思うと身震いするよ。歳とってネットで偉そうに批評する勘違い野郎になるとこやった」

「そんな奴にだけはなりたくなかね。でも、批評されるのは、たとえそれがアンチの戯言であったとしても、されない奴より有名な証。このまま、真摯に音楽と向きあって、そこまで行きたかね」

 そう言って、みかささんはスタジオを後にした。

 みかささんは別のバンドでも活動していて、小さな箱でステージに立つ予定もあるらしかった。

「センターで歌ってるのが……みかささん……!? めっちゃ可愛いやん!」

 みかささんのパッチリお目目は、その潤んだ瞳に映るライトが輝き、麗しかった。またいつもより更に大人びていて、チークで少し赤らめた頬や、グロスで血色が良い唇は、とても同い年の女の子には思えないほどであった。

 そのライブでみかささんは、アコースティックギターを使った弾き語りをしていた。どうやらバンドのアコースティックライブであるらしく、普段はセンターではなく、左側で演奏をしているのだそう。僕は密かに「センターでも良いとに」とも思ったが、ライブ終わりの、汗をかいて更に色気を放つみかさを前にしたら、そんなことも照れて言えなくなってしまった。


 帰宅してから、ふと思う。バンメンも総じて可愛かった。

 中でも、髪から楽器まで紫尽くしのベーシスト、プルプルちゃんは、ニーハイに眼帯、ツインテールにリスカ跡という強キャラであった。リスカは汗でにじんでいたから、恐らくメイクだろう。安心したような、拍子抜けなような、不思議な気分である。

 ギター兼ボーカルのリコは、黒髪が美しい女の子で、絶壁のみかささんと異なり発育の良さがある。いやそんなことより、やはり歌がうまい。今回はハモリメインであったがいつもはメインボーカルなだけあって、ピッチや声量の調節が神がかっていた。

 当たり前を当たり前にこなすというのは簡単なことではないし、ましてや人前ともなれば、それは本来のポテンシャルを少しばかり下回って出力された実力であると捉えるべきであり、それはつまり、彼女らが僕らクアトロの面々とは比べ物にならない実力者であることを意味していた。

「みかささんが僕たちのバンメンである内に……成果を出さないと……!」

 僕は焦りと興奮、不安という、青春の渦の中にいた。

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