表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

最終話

 歪さが増したクアトロはクリスマスライブにてAlcobarenoアルコバレーノとの対バンを勝ち取るため奔走する。

 プルプルちゃんがクアトロに正式加入し、迎えた12月。僕たちは、クリスマスライブで寶井君らArcobalenoアルコバレーノとの対バンの席を勝ちとるべく、箱でのライブを重ねた。オーナーから課せられた「12月中にチケット100枚売ったら、クリスマスに対バンさせてやる」というノルマは明確な目標となった。

 特に精を出していたのはプルプルちゃんだった。練習のあいだは喫煙すらしなくなり、少し痩せたようにも見えた。全身全霊で取りくむ姿は、みかささんを想起させる。こうやって、みかささんの前でも練習し、出来損ないだった彼女を最高のシンガーに育てあげたんだ。歳もそんなに離れてはいないのに、姉御のようにバンドを支えてくれている。

 努力を続けるのはプルプルちゃんだけではない。泰造は最近、洋楽のドラマーから影響を受けたらしく、安定感と高クオリティな即興性を手に入れていた。なんでも、チャドなんとかという、アメリカのドラマーらしい。彼のグループ感は凄まじいものがあると力説していたが、洋楽に疎い僕にはよく分からなかった。だが彼のドラムプレイがアマチュアの下手なそれとは異なり、本物であることは僕の耳でもわかる。

 サポートギターとして新たに参加してくれた高島慎太郎君は、アイドルのような顔立ちの子だ。演奏もそれなりに上手く、永の抜けた穴を容易に埋めてくれた。

 しかし僕たちは、チケットノルマを達成できなかった。あと7枚、手が届かなかった。


 僕たちは対バンこそできなかったが、93枚のチケットを売り切り、クリスマスイブに、ほとんどArcobalenoアルコバレーノの前座のような形でライブを行った。

 盛り上がりは悪くはない。演奏、3つの楽曲の選曲、パフォーマンス。その全てが僕たちの今持ちうる全力であり、嘘偽りない本気のステージだった。

 新曲の【暁】は激しいサウンドと祈るような歌詞がバンドの自己紹介となり、2曲目の【ダーティクリスマス】は、みかささんが書き上げみんなでりつづけてきた、バンドの定番曲だ。

 僕は盛り上がる客席を眺め、少しづつ前に進んでいる実感を覚えながらも、どこか満たされない気持ちになった。

 プルプルちゃんへ目をやる。楽しそうだ。だが、どうしてそんなに楽しそうにれるのか分からない。

 泰造は、真顔で黙々と正確なドラミングを続ける。どうしてそんなに集中できるんだ。

 僕は何故だかずっと冷静だった。理由は分からない。

 2曲を終え、いつもなら永がMCで客の盛り上がりを最高潮にさせるタイミングで、静かになった。慎太郎君はアルペジオで、しんみりとイントロを始める。

 そして僕は何故だかスタンドマイクを握りしめ、客席を眺めた。

「失った痛みはまだ消えないけれど、その痛みがいつか、自分を前へ進めてくれる力だったって、そう思える日が来ると、そう信じているから……この曲を、この言葉を、ここにいる皆へ送ります。Peacelesnesピースレスネス

 そうしてラスト、3曲目には代表曲が始まる。

 さっきの言葉が、どういう意味なのか、僕はまだ気づいてはいなかった。なぜ泣いているファンがいるのかさえ分からない。そして2番のBメロを歌い出したとき、なぜだが僕の頬を一縷の涙が伝った。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 泣かないで これで良かったろう?

 独りでも 旅は続くものだよ

 いつか光り輝く それまでは

 涙ながすなんて もうしない 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 意味は分からないが、それが感動ではないことは、うすうす気づいていた。

 これは暗いAパートと対比して、未来は希望に変わることを描いただけの歌詞だったはずだ。だが今は、このライブで抱いたメンバーとの違和感を解消する選択への、宣言のように感じられた。


 ライブが終わり、一足先に僕たちのクリスマスは終わった。灯りと熱気が消えたステージを独り眺める。文化祭の頃となにも変わらない手作りのステージに、このままでいいのかという思いが浮かんだ。

 寶井君はきっと、何もかもが桁違いのステージを作り上げる。どうすれば追いつける、どうすればライバルになれる、どうすれば───。

「あれ、まだ居たの唯音君」

「プルプルちゃんもまだ帰らないの?」

「うん。余韻に浸ってたくて。心地いいじゃない? もしかして唯音君も?」

「心地いいかは……わかりません。でもまだ、終わりたくなくて」

「詩的ね、君」

 プルプルちゃんはヤニ臭かった。その臭いがたまに傷だと思いながらも、そういうことは口に出すべきではない。

 プルプルちゃんは僕にハグをして、「先帰るね、バーイ」と言って去っていった。

 それから僕はまたステージを眺め、しばらくそうしていた。


 あとで聞いたが、Arcobalenoアルコバレーノは200枚のチケットを余裕で売り切り、箱を満席にさせていた。そればかりか、外に出待ちファンまでできていたらしい。

 寶井君は、高みを目指すために、Jesusジーザス'sclineクラインを切った。僕だって、永を切ったじゃないか。もはや───。

 僕は寶井君に勝ちたいという思いで、視野狭窄を起こしていた。

 本作を面白いと思っていただけましたら、いいねやコメントの方、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ