第10話 代表曲
新たなサポートベーシストに、かつてみかさと共にプレイしていたプルプルちゃんを迎えたクアトロに、代表曲が誕生する。
帰りのバスの中、僕は泰造に「まさかおカマさんをナンパするとは読めない男だ」とイジられた。初めはノリに乗っかって返したが、僕はそのままふざけている気分にはなれなかった。本気で考えるしかなかった。
「泰造、このままダラダラとクアトロを続けるべきなのかな」
「唐突だけど、唐突じゃない。僕もずっと考えよったばい、それ」
「俺福岡で気づいたっちゃけどさ、派手なのが好きっぽいわ。獏の店員さんもおカマのあおいさんも、派手で着こなしてた。完成された美学を感じたんよね。生き様がそのまま、姿に現れてた」
「そういう生き方がしたかってこと?」
「そうやね。夢見すぎって思われるかも知れんけど、僕、寶井君に勝ちたい。みかささんみたいに……遠くに行って欲しくないんよ。クアトロのライブ演奏の要として、どう思う? いやどう思うっていうか」
「うん、言いたいことわかるよ。ライバルはハイレベルやねぇ。正直な感想をいえば、ライバルにすらなれてないと思うばい。でも、志は高い方が良かよね」
「どがんすれば、バンドのクオリティは上がると思う?」
「永君を……なんとかしなきゃね」
都会の景色をバスの窓越しに眺めながら、泰造は続けた。
「唯音君は、バンドマンになったったいね」
そうだ、僕はもうバンドマンなんだ。こうして生きていくと決めたんだ。だから、理性の奥に芽生えつつある感情を無理やりにでも奮い立たせて、僕は向き合うしかないんだ。
「クリスマスにライブをやろう。そこで寶井君らAlcobalenoと対バンができなかったら、実力不足で永を脱退させる」
「必要な決断やと思うばい。次来る時は、みかささんと肩を並べて対バンしよう。いつもの箱でのクリスマスライブはもう選考が始まっとーやろね。そこでできなくても、必ずクリスマスライブはやろう」
「おうよ、必ずやね。泰造……」
「なんね唯音君?」
「これからもよろしく頼む」
泰造はまた窓の外を眺めた。そして「そんなセリフ、なんかのアニメにあったっけかな?」とすっとぼけていた。
それから僕たちクアトロは、練習とライブの日々を送った。プルプルちゃんの禍々しさが加わり、僕たちは攻撃的なサウンドを手に入れた。その派手な衣装が浮いてしまわないように、僕は短かった髪を伸ばし、ライブではそれをポニーテールにし、前髪を跳ねさせた。そして衣装含め、チャーミングな王子様を演出した。泰造君は歌舞伎の隈出の如く白塗りであった。白塗りは、体に見合わず優しすぎる顔を隠す、一種の仮面であったのだ。
この頃、クアトロは同年代のインディーズ内で広く認知される、いわゆる代表曲ができた。
2010年代以降のヴィジュアル系バンドのような、存在感が強いドラムと、メロディアスなベース、そして痛みやノスタルジーを強調した歌詞が特徴の曲であった。
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無理に忘れようなんて 美しい過去よ
そうあなたは昼下がりの月 見えないくらいが素敵なの
あなたが見てた景色 今はそこにいて
僕は今もまだ この懐かしい街路樹を眺め歩く
傷ついて 彷徨って どこに行けばいい?
イラだって 泣いたって 夜は訪れる
平気だよ 知っている それは僕の真っ赤な嘘
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タイトルは【Peacelessness】。平和ならざる状態を表す言葉で、大事なピースが欠けて、内なる平和が乱れた心境を描いた曲だ。作詞は僕で、作曲はプルプルちゃんだ。僕の寂しい心と、プルプルちゃんの天性の禍々しさが上手く合わさり、誰もが持つ見えない傷が、計算された正確無比な歪さで表現された楽曲である。
みかささんの歌詞やリコさんの歌声では、プルプルちゃんの禍々しさを芸術には昇華できない。でも僕の歌詞なら。泰造君の安定した器用なドラムなら。僕たちクアトロなら、それぞれの個性を唯一無二の形にできた。
僕たちには、きっとこういう曲が必要だったんだ。こういうサウンドを奏で、歌い、パフォーマンスをすることが、僕たちには必要だったんだ。クアトロは、歪つな旅を経て、一つの正解にたどり着いたのだ。こうして、クアトロは過去最高の隆盛を迎えた。
ファンアンケートの結果も上々で、プルプルちゃん人気は僕たちの衣装スタイルに合わさりバンドの知名度をさらに高める起爆剤となっていた。自分たちの手応え以上の成果が、確実に現れているのだ。
もはや妥協はしない。やはり、僕は音域を広げる努力を続ける方が良さそうだ。だが永は、どうだろう。ちゃんとギターの腕が良くなるように努力しているのだろうか。フレーズを作れるよう、毎日感性を磨いているのだろうか。
安定したMCや煽りなどのパフォーマンスを除き、彼のギターにはまるで成長が見られなかった。だとすれば、やはり目下の課題は、永だ。
僕はクリスマスまでに、永ともう一度向き合わなければならないと、そう思った。




