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7.もう一つの世界



 ――翌日。

 私たちは昨晩自宅で調べてきたパラレルワールド関連の著書の情報を共有して、放課後に図書室へ向かった。

 入口に設置されている端末で関連する書籍を検索。

 慣れとは怖いもの。

 さすがに毎日反転文字を眺めていたら、少しずつ読めるようになっていたので検索も割とスムーズに。

 彼と分担して棚ごとに本を取りに行き、テーブルの上に次々と積んでいく。

 三十数冊とそこそこ数は見つかったが、女性の司書にも相談して関連著書をパソコンで検索してもらった。

 しかし、ヒットしたのは自分たちが調べた本と同じ。

 それでもしつこく聞いていたせいか、彼女の目の色が変わった。


「ねぇ、そんなに熱心に調べてるけど、パラレルワールドに興味があるの?」

「あっ、はい。知ってたら教えて欲しいんです。パラレルワールドについて。ネット検索してもなかなかヒットしなくて」

「ごめんなさい。専門分野に関しては知識が薄くて。本の内容を確認しないとわからないの」

「本じゃなくてもいいんです」

「えっ」

「例えば、誰かからパラレルワールドについて聞いたことがあるとか小さなことでも構いません。一つでも情報が欲しいんです。パラレルワールドへの行き方とか、そこと繋がってる世界の話とか、行き来ができるかどうか知りたいんです。だからっ……」


 ドミノ倒しのように押し寄せてくる気持ちに歯止めがきかず、前のめりになって聞いていると……。


「おい! 堀内。やめろ」


 後ろから来た桐島くんに肩を掴まれた。

 振り返ると、彼は首を横に振る。


「桐島くん……」

「こいつ、興味がある分野を熱心に調べるタイプで。自分たちで調べるので気にしないでください」

「でも、一人でも多く調べる人がいてくれた方が……」

「なんでもないっス。ありがとうございました」

「えっ、ちょっと!! 桐島くん、まだ話は終わってな……」

「失礼しました。……ほら、堀内。行くぞ」

「えっえっ……、ちょっと、桐島くん!!」


 話は終わってないのに、強制的に本を積み重ねている席に連れて行かれる私。

 納得がいかぬまま、しぶしぶと椅子に座りながら仏頂面で聞く。


「どうして引き止めたの? 司書さんがせっかく興味を示してくれたのに。もしかしたら、パラレルワールド関して何か知っていたかもしれないし……」

「佐神の反応を忘れたの? 若干引いてただろ」

「忘れてはないけど……」

「この世界の人たちは、ここがパラレルワールドだということを知らない。それに、もう一つの世界が存在することさえ。お前だってここに来る前はもう一つの世界があるなんて言われても信用しなかっただろ?」


 確かに自分も佐神先生の授業を聞いていた時に他人事だと思っていたから、急に興味を示されても戸惑うかもしれない。


「むやみに話して混乱を招くのはどうかなと思って。パラレルワールドなんて非現実的だからまともに取り合ってもらえないだろうし」

「確かにそうかもしれないね。みんなの反応を見てると余計にそう思う」

「この件は信用できる人だけに話そう。話を撒き散らしても懐疑的な目で見られるのがオチだし」

「うん、わかった」


 それを聞いてから、より一層広い宇宙の中で私と桐島くんと萌歌の三人だけが取り残されたような気になった。

 もしかしたら、この世界に同じ経験をしている人がいるかもしれないけど、3週間経っても有力な情報が得られないということは稀な出来事だったに違いない。

 そう考えていたら、一気に孤独感に襲われて目頭がカッと熱くなった。


「大丈夫?」


 桐島くんは異変に気づいたのか、正面から覗き込むようにそう聞く。

 私はうつむいたまま重い口を開いた。


「……ん、平気」

「俺たちがここに連れてこられたのはきっと意味があると思う。だから、それを一緒に探していこう」


 ここに連れてこられた意味……か。

 気持ちに余裕がなかったせいでそこまで考えられなかったなぁ。

 パラレルワールドが元の世界と並行しているということは、この世界で実在していたもう一人の自分もいるということだよね。

 そのもう一人の自分はいま何をしているのかな。

 私と引き換えに元の世界へ行ってしまったのかな。

 同じく見たことのない世界に戸惑ってるはずだよね。

 真実の蓋が一つ開かれる度に、新たな疑問が浮かび上がってくるよ。


 それから私たちは山積みの本を上から読み始めた。

 スピードアップを図る為にスマホで写真を撮りながら。

 集中するあまり、お互い無言のままページを開いていく。

 もちろん探し求めている情報はなかなか見つからない。

 参考になりそうな箇所はノートへ書き写していく。


 キーンコーンカーンコーン……。


 下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、私と彼は五冊ずつ本を借りた。

 もちろん宿題にする為に。



 ――そして、帰り道。

 夕日に包まれながら歩いていると、彼はスラックスのポケットからスマホを取り出して言った。


「お前とLINE交換したいんだけど」


 そう言われた瞬間、胸がドキッとして仰天した目を彼に向ける。


「えっ!! 私と?」

「借りた本の中で少しでも有力な情報があったら共有したいから」

「あ、あははは……。そうだよね。情報共有しなきゃ……だよね」


 それがあまりにも動揺していたせいか、彼は細い目のまま見下ろす。


「まさか、俺がお前の番号を知りたがっているとでも思った?」

「ちっ、違うよ……。そんな風に思ってないし……」


 あの桐島くんとLINE交換するなんて思いもしなかった。

 最初は周りの噂ばかり気にして怖い人だと思っていた分、縁のない人だと思っていたけど……。

 実際は優しいし力になってくれる。

 いままでの私は、彼のどこを見ていたんだろう。



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