指
僕はいつしか、ソファで眠っている彼女の左手に手を伸ばしていました。
ソファの肘掛に右手で頬づえをついて、左手の薬指で彼女の人差し
指の爪から、手の甲まで、ゆっくりとゆびをはわし、そこから今度は、
中指の爪に向かってさすっていきましました。そして、同じように中指の先から、また手の甲へ、次に薬指、小指へと、その単調な動作を繰り返していました。
その時、自分が何を考えていたのかは覚えてはいません。何も考
えていなかったのかもしれません。でも、僕のむねにあったのは彼女のことだけだったと思います。
その日は雨が振っているようでしたが、とても静かな夜でした。
僕は、静寂の中で、彼女の小さな愛らしい指を見つめ、触れていました。
僕の指が、彼女の薬指を触れている時、不意にその彼女の指が動き
僕の指をしっかりと握り締めてきました。
僕は彼女の顔を見ました。
「どおいう意味があるの?」
寝起きなのに彼女はとてもまじめな顔で、僕にそう尋ねてきました。
僕は何もいわず、ただ、笑みを浮かべて、彼女の手を握り返しました。
その時、僕は決心がつきました。
彼女も、その時すべてを理解したようでした。
彼女の顔にいつもの笑顔が戻り、「ほんとに!?」というと、起き上がり、ソファから下りると僕に抱きついてきました。
僕は照れくさくなって、そっぽをむきました。
彼女はまた「ほんとに?」と尋ねてきました。
僕は、そっぽを向いたまま、一度だけ頷きました。