ざまぁ編 ~夜の帰り道~
桂さんと別れてから、僕と伏見さんは一緒に歩道を歩いていた。
無意識にこの方向に歩いてるけど……。僕の家はこっちだからいいんだけど、伏見さんの家はどこなんだ?
「伏見さん」
「……」
「……伏見さん?」
「ひゃ! あ、な、なに?」
「ああ、驚かしてすいません。伏見さんの家はどこらへんですか? 僕の家はこっち方向なんですけど」
「あ、ご、ごめんごめん! えっと、ウチはもう少し行ったらバス停があるから、そこでバスに乗る……」
「分かりました」
……伏見さんの元気がない。それはそうか。あんなことがあったたんだ。
だれでも疲れますよね。
「……伏見さん。改めてごめんなさい、いや、ありがとうございます。あの時教室に来てくれなかったら、どうなっていたか……」
「い、いいよいいよ! ウチとしては太田君と少し仲良くなれたから、むしろご褒美というか……。と、とにかくなにも気にしないで!」
「はい。ありがとうございます。でも、なにかお礼をしないと僕の気が済まないので……。僕にできる事なら、なんでもします。あ、でも、お金が結構掛かる物は買えないかもしれません……」
「い、いやいやいや! そんな高い物なんていらないよ! ウチをなんだと思ってんのさ!」
「え? まあ、僕からすると別次元の人みたいな感じですかね」
「べ、べつじげん……? ま、まあいいや……。とにかくそんな高い物はいらないよ。まあ、でも、それ以外なら、なんでもいいんだよね……?」
何やら顔を赤らめて手をモジモジしている。
か、かわいい……。
「ええ。僕にできる事なら何でも」
「じゃ、じゃあさ……。朝毎日ラインしていい!? あ、あと放課後も一緒に帰りたい!」
「え、ええまあそれぐらいなら全然大丈夫です……」
「あ、あと休憩時間も太田君の教室に行ってもいい? 昼休みも十分休憩も!」
「え、ええ……? 十分休憩も? 来てくれるのはすごい嬉しいんですが、さすがに手間じゃないですか?」
「え、あ、う、嬉しいんだ……。そっか……。へ、へへ……」
「伏見さん?」
そりゃあ、伏見さんが来てくれたら嬉しいもんだよ。
クラスの人は僕にちょっかいを出すこともないだろうし。
それに、こんな美少女と毎回一緒に帰ったり連絡を取り合うなんて、ご褒美じゃないか。むしろいいんですか!? って感じだよね。
「え、あ、ああごめんごめん! だ、大丈夫だよ! 全然手間じゃないし! それに敵情視察も兼ねてるしね……」
「……敵情視察?」
「ううん! な、なんでもない……。こ、こっちの話だから……」
敵情視察……。何のことだろう……。
「と、とにかく! これからは毎日に朝ラインするし、放課後も一緒に帰れる時は一緒に帰りたい。それから休憩時間もそっちの教室にいく!」
「分かりました」
「……っし!」
……小さくガッツポーズをする伏見さん。
かわいい……。
「じゃ、じゃあウチここからバスだから……」
「はい。ではバスが来るまで一緒に待ちますよ」
「え、あ、あ、ありがと……。や、優しいんだね……」
「僕が優しかったら、この世の中の全員優しい事になりますよ。僕なんてただのオタクだし、イケメンでもない、女の人への気遣いも分からないし……」
「……優しいよ。太田君は。誰よりも早く教室にきて日直の仕事やってるでしょ?」
「なんでそれを……?」
なんで伏見さんが知ってるんだろ……。
「何回か見た事あるの。ウチもたまに早く学校に行くことあるんだけど、その時に太田君の教室の前を通ると、いつも黒板とか綺麗にしてたんだよね」
「そうだったんですか……」
「誰よりも真面目だし、いつも紳士だし。って、なに言ってんだろウチ……! ご、ごめんね急に!」
「いえ、ありがとうございます。……嬉しかったです。誰にもそんな事言われたことなかったので……」
「そ、そうなんだ……。こ、これからは毎日ウチが言ってあげる!」
「え、ええ……。それはさすがに恥ずかしいですね……」
「そ、そうだね……。よく考えたらウチも恥ずかしいわ……」
「……」
「……」
なんとも言えない沈黙が続く。
き、気まずい……! コミュ症にとってこの沈黙は地獄でしかない……!
「……あ、バ、バス、来ましたね……」
「あ、うん……。そ、そうだね……」
「じ、じゃあ、また来週……。今日はありがとうございました」
「う、うん……。こちらこそ……。またね……」
「はい……。また……」
伏見さんがバスに乗り、僕はそれを見送る。
バスが見えなくなるまで、伏見さんはこちらに手を振っていた。
僕もそれに応えようと、ぎこちなく手を振り返す。
そしてバスが見えなくなり、ただ一人、バス停に取り残された。
……なんか、寂しい感じだ……。
なんて言ったらいいのか、言葉に表しずらいけど、もっと喋って居たかったというか……。なにかもどかしい……。
僕は一人夜の中、雲一つない夜空を見ながら家に向かって歩く。
今日は色々あったけど、これからどうなるんだろう……。
宇崎君はおそらく退学になるだろうし、良くても停学になるはず……。
まだまだ考えないといけない事は山ほどあるが、それを考えるのはまた今度にしよう。
今日はもうゆっくり休もう……。
雲一つない夜空は、僕の今の心を表現しているみたいだった。
今まではずっと曇っていたけど、今日はずいぶんと晴れ模様みたいだ。
これからもずっと、晴れ続けるといいな……。