ざまぁ編②
バイクの音がだんだん近くなる。このバイクの音に、宇崎君サイドも違和感を感じたようだ。
宇崎君が呼んだ先輩たちの中でも、リーダーらしき人が、宇崎君に問いかける。
「……おい。宇崎。俺らの他にも誰か呼んだのか?」
「い、いえ……。声をかけたのは、これで全員のはずなんですが……。もしかしたら、あいつらがビビって助けを呼んだかもしれないですね! へ、へへ……」
「……フン。まあいい。ここらじゃ聞いたことのないマフラー音だが、二台だけだ。多くても四人。こちとら10人は集まってんだ。誰が来ようとボコボコにしてやるよ」
「いやー! さすがっす! 約束通り、あの黒髪は先輩たちで好きにしてください。せっかくなんで、みんなで回したらどうですか?」
「そりゃいい! ぎゃははは!!」
……どこまで屑なんだ。あいつら……。
絶対に許してやるもんか……!!
「あれ? なんか私、酷い事されようとしてる?」
「いや冷静っ!! すごいですね。こんな状況なのに」
「いやまあ、あの人達が来たら、私らは見とくだけでいいし」
そ、そんなになんだ……。
なんか宇崎君がどうのこうのより、伏見さんのご家族の方が気になってきた……。
「おーい。こっちこっち!」
伏見さんが二台のバイクに向かって手を振っている。
そしてついに、伏見さんのご家族が到着した。
き、緊張する……。ま、まずは謝罪をしないと……。
「もー。おっそいんだけど。もう少し遅れてたらどうなってたか」
「……遅れてすまん」
背の高い男の人がバイクから降りる。フルフェイスのヘルメットをかぶっているから声を聞き取りずらいが声の高さからして、この人がお兄さんだろうか。
そして、もう一人の方が、恐らく……。
「……おい。どこのどいつだ………。俺の可愛い可愛い娘に手を出したのは……」
うん、間違いなくこの人がお父さんだ。娘って言ってるし。
そして両者二人とも同じタイミングで、ヘルメットを外した。
その瞬間、なんとも言えない雰囲気が周りに漂う。喧嘩なんかしたことない僕でも分かる。
これは駄目なやつだ。この人たちに逆らってはいけない。
お兄さんは、高身長で短髪黒髪なクールイケメン。どこの芸能人モデルかと思った。
そしてお父さん。お父さんというか、これは……。
「ちょっと。まだ出されてないってば。学校では恭子が守ってくれたし」
「おお! そうか! 無事でよかった! いつもありがとね! 恭子ちゃん!」
「いえいえー。どうもどうもー」
「ねえ。ちょっと。パ……、お父さん。なにその恰好。恥ずいからやめてよ……」
そう。問題はお父さんなのだが、第一印象はヤクザの組長かと思いました。はい。
髪の毛を銀色に染めてオールバック。ついでに袴を着ている。いやあれは着こなしていますね、ええ。
なんか宇崎君たちが可愛く見えてきた……。
「よいじゃろ、別に。こっちの方が動きやすいんだから。……それで、どこのどいつじゃ。ワシの可愛い娘を汚したのは……」
「いやだから、まだなんにもされてないって……」
……なんか、空気が読めない人なのかな。
「……おい」
「ひっ!」
び、びっくりしたー……。
僕の背後にいたのは、伏見さんのお兄さん。というか、いつのまに後ろに移動したんだよ……。
「な、なんでしょう……」
「……お前か? 妹に手を出したのは」
「い、いえいえいえいえ!! ち、違います違います! あ、いや、巻き込んだのは僕なんですけど……」
「……じゃあ、この騒ぎはお前が元凶ってことか?」
「そ、そうです……。すいませんでした……。妹さんを巻き込んでしまー-」
次の瞬間、僕の体は宙に浮いていた。いや、首を掴まれ、持ち上げられていた。
な、なんて力なんだ……。こんな細い体のどこからこんな力が……。
あ、やばい……。意識……が……。
「ちょっとお兄ちゃん!? なにしてんの!? その手を離して!!」
「……? こいつじゃないのか?」
「違うよ!? その人は私の友達! さっきまで私たちの前に出て、あいつらから守ろうとしてくれてたの! いいからその手を離して!」
「……」
「ごほっ……! ゲホゲホ……っ!」
「太田君!? 大丈夫!?」
「げほ……っ! だ、大丈夫です……」
「よかった……。……ちょっと。何してくれてんの……? ……もう兄貴とは口聞いてあげないから」
「そ、そんな!? そんな事になったら、俺は何を生きがいにすればいいんだ……」
「は、そんなの知らんし。勝手にすれば」
「な、なんだと……」
「ぎゃははは! ほんとに面白い! この家族!」
か、桂さん……。笑ってないでどうにかしてくれませんかね……。
僕、今死ぬ所だったんですけど……。
それにしても、お父さんも相当ヤバい人かと思ったけど、一番ヤバいのはお兄さんのほうかもしれない……。
でも、さっきお兄さんの言った通り、元わと言えば僕が元凶なんだ。
その元凶の僕が今するべき事は、頭を下げ続けることだ。
「伏見さんの、お父さんとお兄さん……。すいません、僕がー-」
「今はいい。小僧。話はあとで聞く。玲。お前もそれでいいな」
「ああ。……悪かったな。何も聞かずに手を出しちまって……」
「い、いえ! 何も気にしてません!」
な、なんだ……。すごい良い人達じゃないか……。
……ちょっと怖かったのはここだけの話でお願いします……。
「……おい。なに無視してくれてんだよっ!! てめーら一体誰だよ! 年寄はお呼びじゃねーんだよ!」
あ、すっかり忘れてた………。伏見家のインパクトが強すぎて、この人達の存在を忘れていました……。
「……あんた、乃愛の事好きとか言いながら、この人達の事知らないの? それだけでもう薄っぺらいわ」
「誰だよ知らねーよ。……おい、おっさん。ケガする前に帰んな」
何をかっこつけてるんだ……。宇崎の奴……。
お前はどうせ後ろで見てるだけでしょう……。
「お父さん。あいつに殴られかけたの。直前で恭子が守ってくれたけど。それでその周りの人たちが、あいつが連れてきた先輩たち。どうも、この辺りを仕切ってる暴走族らしいんだけど。なんか知ってる? クソ兄貴」
「……ほう」
「ク、クソ……!? ああ……。死のう……」
お、おにいーさーん!? 漫画の最強イケメンキャラみたいな雰囲気はどこいったんですかー!?
な、なるほど……。桂さんが言ってたことはこういう事か……。
「ああもう、めんどくさい! お兄ちゃん!」
「……ああ。いや、この辺じゃ見ない顔だな」
お、お兄さん!? 何事もなかったかのような顔をしてますけど、バッチリ見えてましたよー!?
「おい! 乃愛の家族でもこっちは容赦しねーぞ! 先輩方! お願いしますよ!」
「……お、おい……。宇崎……」
「はい?」
……何かあっちの様子がおかしいが、油断できない。
いつ襲われてもいいように、周りをちゃんと確認しとかないと……!
僕がきょろきょろと周りを見渡していると、伏見さんのお父さんが僕に話しかけてきた。
「小僧。そう焦るな。あとはワシらに任せておけばいい。それに、さっきまで乃愛達を守っていてくれたそうだな。礼を言う。ありがとう」
「い、いやいやいや! 守っていなんてとんでもない! むしろ守られていたのは、僕の方で……」
「ふむ。なかなか謙虚な男よ。あとでじっくり話を聞こう。それよりも今は、乃愛になにかとんでもない汚物を見せびらかしたクソガキ共をどう始末しようか……。そのことで頭がいっぱいでな……!」
「いやそんなん見せられてないし! 太田君の前でそんな事言うのやめてくんない!?」
お、汚物て……。
もっとオブラートに言いましょうよ……。お父さん……。
その汚物、あんたにもついてるんですよ……。
いやまあ、僕にもついてるんだけど……。
はいそこ。使ったことないくせにとか言わない。僕には画面の向こう側に天使が待っていてくれてるから。
「汚物って……。妄想豊か過ぎて草」
桂さーん!! あんたそんなキャラなの!?
そんな綺麗な顔立ちで、そんな事口走ってしまったら、おもわぬ性癖の野郎どもが集まってくるから口を謹んだ方がいいおもいますよ!?
それより、さっきから、宇崎サイドがやけに静かだ。何人か顔を真っ青にしてるが、なにかあったのだろうか。
「……え……。そ、そんな……」
「宇崎お前……! あれが誰か知らねーであの女たちに手を出したのか……! 何てことを……」
「そ、そんなこと言われましても……。そんな事一回も聞いたことないですし……」
「……クソ。もうやるしかねーか……」
「さすが先輩! もうボッコボコにしてくー-」
「ちげーよ! 頭を下げるんだよ! 俺らにあの人と喧嘩しろってのか!? ああ!? だったらお前一人で行ってこい!」
「そ、そんな……」
き、来た……!
宇崎君が呼んだ先輩たちが、ゾロゾロとこっちにむかって歩いてきている。
こ、怖い……。足が震える……。
目眩もしてきた……。でも、逃げないぞ……。伏見さんと桂さんは死んでも守る……!
「さ、乃愛。太田君。私たちは後ろに居よっか。邪魔になってもあれだし」
「え、で、でも……」
「大丈夫。多分喧嘩になる前に終わると思うから」
「え……? それはどうゆう……」
「ちょっとお父さん、お兄ちゃん! やり過ぎたらだめだからね! 分かってんの!」
「……何も心配するな。奴らの腕か足、どれか一本犠牲になるくらいにとどめておく」
「いや、それ全然とどめられていないじゃん! もっと手加減して!」
「ワシも大丈夫だ。奴らの股間を全て叩き潰す程度にとどめておく」
「「いやあんたが一番心配だわ!!」」
なんてファンキーな家族なんだ……。退屈しないな……。
「ふー……。ほんと疲れる……。ごめんね太田君……。なんか汚い物見せちゃって……。だから頼りたくなかったの……。特に太田君には見せたくなかった……」
「……? なんで僕だけなんですか?」
「そ、それは……」
「いいじゃん。どうせ将来挨拶に来るんだから」
「ちょっと恭子!」
「にゃははは~。すまんすまん。つい口が滑って」
……気楽だなー……。
「お、はじまるよ」
桂さんの声で前を向くと、ついに両サイドが相対している。
ついに、始まる……!!
僕はすぐに警察と救急車を呼べるように、スマホを準備していた。
「太田君? スマホなんか持ってどうしたの?」
「いえ……。これは元々僕が原因でこうなってしまいましたので……。僕が最後まで責任をもって終わらせないと……」
「太田君……。 責任感強くて素敵……」
「なにか言いました?」
「いや! なんでもないよ!」
なにやら伏見さんが顔を赤らめているが、今は気にしないでおこう。
「貴様らが、乃愛に汚物を握らした餓鬼どもか?」
「「………」」
「あひゃひゃひゃ!!」
もうツッコむのもしんどくなってきましたね……。
桂さん……。あんたのキャラがいまいち掴めないよ……。
「……殺す」
お兄さんはブチ切れフィーバータイムに突入していた。
あのクールなイケメンの顔で、どうやってあんな顔ができるんだよ……。
もう目がイっちゃってるよ……。ガンギマってるよ……。
宇崎サイドの先輩たちは、顔を下に向け、なにやらプルプルしている。
そして次の瞬間。
「「「「「すいませんでしたー!!!」」」」
「…………え?」
なんと、先輩方が一斉に土下座をし始めたではないですか……。
な、なんだ……。なんであの人達、土下座なんてしてるんだ……。
ど、どゆこと!? なんで!? なんでなんでなんで!?
あんたらさっきまでの威勢どこ行ったんだよ!
桂さんの体見て、涎たらしてたじゃないか! めっちゃ気持ち悪かったよ!! その気持ち悪さ返してよ!
「あー。やっぱりこうなったか。ま、予想通りだね」
「そうだね。まあ、暴力沙汰にならなくてよかったよ」
「伏見さん……? 桂さん……? これは一体どうゆう……」
「ウチの男どもは、この辺じゃ結構有名なんだ。兄貴は昔この辺を取り仕切ってた暴走族の総長だったし、その暴走族を作ったのがお父さんみたい。それで多分あいつらが怖気づいて、今に至るって感じかな」
「そ、そうだったんですか……」
「あ、でもでも、勘違いしないでほしいのは、ウチは暴走族とかそんなんじゃないからね!? 普通にただのJKだから!」
「わ、分かってますよ……」
「ほ、ほんとに……?」
「う、うん……」
「よかったぁー」
可愛い……。
にしても、まさかそんなすごい人達だったとは……。
桂さんが言っていた『喧嘩になる前に終わる』とは、この事を言っていたのか……。
たしかに、喧嘩になる前に解決出来たら一番の理想なんだけど……。
この事も計算済みだった、って事だよね……。
やはり、学校のトップカーストを敵に回してはいけないと、改めて思ったよ……。
「う、うちの後輩がバカやらかしたみたいで……! まさか玲さんの妹さんとは知らずに……! 本当に申し訳ありませんでした! おい! 宇崎! お前ももっと頭下げろ!」
「す、すいませんでした……」
「…………お前誰?」
「え……? ほ、ほら! 玲さんが仕切ってた時に、その時の新入りの……!」
「……知らないな。それに、謝ってどうにかなるとでも思ってるのか? 貴様らの死は確定事項だ」
「そ、そんな……」
いや思いっきり暴力沙汰になりそうなんですけどー!?
全然止まる気配が見えないんですけどー!?
「まあ、待て。玲。そう熱くなるな」
親父さーん!! やっぱり伏見さんの父親だ!
常に冷静!さすがです!
「あいつらの汚物は俺のもんだ。手をだすなよ。お前には目ん玉をやる」
親父ー!! あんたもう汚物から離れろよ!! 汚物に囚われすぎだよ!
僕の中の親父さんのイメージが汚物でいっぱいになっちゃうよ! 今ならまだ間に合うから戻ってきてー!
ほら!見て! あんたが汚物汚物って連呼するから、みんな股間を抑えちゃってるから!
ただし、宇崎の汚物は許可します。存分にやっちゃってください。
「ど、どうしましょう……。このままだと……」
「これは、乃愛の出番だね」
「……はー……。あんまりやりたくないんだけど……。お、太田君……。今からウチがやる事見ても、幻滅しないでね……?」
「幻滅なんてしませんよ。何をするのかわかりませんが、伏見さんが危険と思ったら、すぐに行きますから」
「お、太田君……」
「はいはい。イチャイチャしない。それはこの件が終わってからね」
「イ、イチャイチャなんてしてないし……! じゃあ、行ってくる……」
「はーい。よろしくー」
伏見さんは、落ち込んだ様子でトボトボ歩いている。
一体何を……。危険なことはしないで欲しいけど……。
「まあ、見てなって」
桂さんは僕の心配した顔をみて、そう告げた。
「ぱ、ぱぱー。お、おにぃー」
「……下がって居ろ。乃愛。お前が居たら、存分に暴れられない」
「そうだぞ。あとはパパにまかせなさい。お前にはあいつらの汚物を潰す役割をあげるから。それまでは辛抱しときなさい」
きったねーなー!! あんたの事これから汚物親父って呼ぶわ!!
「ウ、ウチー。人に暴力振るう人なんてきらーい。このままだと、パパとおにぃとは口聞いてあげないよー? あーあ。せっかく今日はウチの手作り料理を披露しようと思ったんだけどなー。もうそれも無くなっちゃうなー」
伏見さんはなにやら、体をクネクネさせて、急に違うキャラになっていた。
まさか、あんな事であの二人が止まるとは思えないけど……。
「「……な、なん……だと……」」
……おっと?
「せっかくオムライスを作ろうと思ってたんだけどなー。このままこの人達に暴力をふるうなら、オムライスなくなっちゃうなー。暴力を振るわないなら、許してあげるっ!」
「「……や、やめます……。もうこの人達には暴力を振るいません……」」
「誰に誓って?」
「「乃愛に誓って……」」
「よろしい」
…………お、親父さーん!? お兄さーん!?
さっきまでの下りはなんだったのー!?
『貴様らの死は確定事項だ』とか言ってたけど、その時のカッコイイお兄さんはどこ行ったんですかー!?
「ぎゃははは! あーおもしろ」
「桂さん……。ただ単に面白がってるだけじゃ……」
「いやいや。そんなことないって」
もう顔が嘘ついてるよ……。
隠しきれないほどニヤついてるよ……。
「じゃーあー。あとはもう大丈夫だから、あのベンチで静かに座っててくれるー?」
「「はーい……」」
いや子供かよ!
いい年したおっさんたちのそんな母親に宥められる姿なんて見たくないよ!
トボトボとベンチに向かっていくおっさんたち。
なんてシュールなんだ……。
「カオスすぎて草」
いや桂さん!!
あんたもたいがいだよ!!
い、いつの間にか、ラ、ランキング1位に……!! あ、ありがとうございます!!
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