ラブレター編⑩
「……お、お前……。伏見……。桂まで……。な、何の用……?」
いきなりの二人の登場に、佐野は驚愕している。
その問いに伏見さんが答える。
「なんでウチらが居るのかは置いといて、まずその手を離しな」
「……チッ……」
佐野は乱暴に本田さんの髪の毛を離す。
割と強く引っ張っていたのか、何本か髪の毛が抜けていた。
すぐさま伏見さんが本田さんのそばに寄る。
「大丈夫? 美智子ちゃん」
「……は、はい……。大丈夫です……。ありがとうございます……」
「……それで? 一体あんたら、ここに何しに来たの?」
その問いに、次は桂さんが答える。
「まあ、いろいろありましてねー。でも、一つだけどうしてもやらないといけない事がありましてー。協力してくれます? 先輩方」
「……協力? 何言ってんの? 友里があんたらの事を嫌ってんの、分かってるでしょ?」
「そんなの知ってますともー。佐野先輩が宇崎の件で、乃愛を恨んでることも知ってますし、他も知ってますよー? 色々ヤバい事やってることって事も……」
桂さんは顔をニヤつけながら、相手の秘密をあたかも全て知っているかのように佐野先輩を煽る。
まああたかもどころか、全部知っているんだけど……。
でも、その煽るような言い回しが佐野先輩を腹立たせる。
「……は、はぁ? い、色々って何……? へ、変な事言わないでくんない……!?」
「別に変な事なんて言ってないですよー? ただ事実だけを言ってるだけでぇ~」
……ウ、ウゼー。あれは僕から見てもうざい。
「……な、なんだって言うの!? 友里たち何もしてないし! もう帰るよ!」
佐野一派はそそくさと部室から出ようとする。
そうはさせまいと、伏見さんが扉の前に立ちはだかる。
「……逃げれると思ってんの?」
「……さっきから、あんたら一体何なの……?」
「ウチらが何も知らないと思ってんの? 何も知らなかったら、わざわざあんたの顔なんて見てないっての。その雑な化粧で出来上がった顔なんて、ね」
「な、なんだと……!? あんたら、誰に喧嘩売ってんのか、分かってんの!?」
いいぞ。上手い事、泳がせている。
「喧嘩? ……今からはただの殲滅だよ。あんたら全員、牢屋行きね」
「そろそろ頃合いかなー。それじゃあ美智子ちゃん。ミュージック、スタート~」
「な、なにが……」
本田さんが自分のスマホを操作し、さっきまで録音していた音声を流す。
「……なにそれ……。なんなのよそれ!?」
「……今日は、佐野先輩とケリをつけにきました」
本田さんは目の前の佐野を力強く睨みつける。
「……は、はぁ……? あんた、自分が何してんのか、分かってんの? この動画が拡散されて困るのはあんたなんだよ?」
「……いえ、困るのはそちらの方です……。私が今録音した音声をSNSに載せたらどうなるか。分かるはずです」
昨日の本田さんとはまるで別人のように、強い意思を感じる。
その力強さに少しずつ圧倒されていく佐野。
……今日の彼女はお前が知っている本田さんではない。
闘う事を決意した、強い女の子だ。
卑怯なお前なんかと違って、ね……。
「はっ! お前みたいな陰キャが拡散したところで、何も意味ないだろ。どれだけのフォロワー数がいるんだよ」
「……拡散するのは私のアカウントではありません」
「……は? じゃ、じゃあ一体誰が……。……ま、まさか……」
「そうそう。その為に私たちがいるんですよ~。さすが佐野先輩。気付くのが早いですねー」
「……桂……っ……!! あんたら、三年を敵に回すっていうの!?」
いい感じにキレてくれてるな。
そのまま自分で墓穴を掘ってもらおう。
「……敵に回す? 上等じゃん。あんたこそ、ウチらを敵に回した事、後悔すんじゃないわよ」
「……伏見……っ……!!」
「……それで、どうします? 一応、交渉してあげますよ。その動画を消してくれるなら、こっちは手を引きます」
桂さんがついに交渉を持ちかける。
……いよいよ終盤ですね。
まあ、結果はある程度予想はつくけど……。
「はあ? 消すわけないでしょ? せっかくのバイトが台無しになるじゃん。それに、いくらあんたらがSNSに拡散したって、ただの音声じゃ身元は分んないでしょ? こっちは思い切りレイプのシーンが映ってるんだから。動画編集なんて今の時代、誰でもできるんだよ」
……交渉決裂だな。
これから起きることを想定して、僕はあえて今のタイミングで動画を撮るのをやめる。
「……交渉決裂って事でいい?」
伏見さんは今にも殴りかかりそうな勢いで、佐野を睨みつける。
「……なに睨んでんの? まさか、ここで友里の事殴る気? そんな事したらーー」
「おらぁ!!」
次の瞬間、伏見さんは佐野の顔をめがけて、小さな拳を思い切り振りかざし、佐野の頬がへこむくらいに殴りつけた。
……痛そうー…。
「……いっ、いったー……!! この野郎っ……!!」
佐野も負けじと伏見さんに殴りかかるが、それは大間違いだね。
それを見て黙ってる彼女じゃない。
「乃愛にそんな事して、私が何もしないと思ってんの?」
「ブッ……!!」
桂さんの蹴りが佐野の顔面にクリーンヒット!!
「あーだらしない先輩。鼻血なんて出しちゃって。せっかく可愛いお化粧(笑)が台無しでちゅよ~?」
「……こ、この……っ……!! こんな事して、タダで済むとおもーー」
「二回目じゃこらぁ!!」
「ぶべらぁ!!」
伏見さんの二回目の怒りの鉄拳が繰り出された。
……そろそろ顔の原型がとどめられていないような……。
「おいお前。まず美智子ちゃんにしてきた事、ちゃんと責任とれよ。あ、責任って何のことかわかんない?バカだもんね。ちゃんと説明してあげる」
「な、なんのことーー」
「まず自首しろ。やらないならウチらが連れて行く。それと今までのお金も美智子ちゃんに返せ。今まで美智子ちゃんがどんな思いで生活してきたか分かる? まあ、分かんないか。お前には人間の事は分んないよね。だって、人間以下のゴミカス、いやゴミに失礼だからそれ以下だわ。女の子の人生めちゃくちゃにした罪は重いよ」
伏見さんは撒くし立てるように喋りを続ける。
「そんなミジンコみたいな奴を好きになる男なんているわけないでしょ。だから宇崎にも振られるんだよ。あ、あいつも同じカスだったわ。良かったじゃん、同じカス同士で。お揃いじゃん」
「……だ、だからってーー」
「はい三回目ー。誰が喋っていいって言ったの?」
「……ぐふ……っ……!」
次は桂さんの蹴りが炸裂。
今度は踏み下ろす感じで、佐野の顔を踏みつける。
いや、やる事エグイてあんた……。
「さて、あんたこれからどうするの? このまま私らにボコられるか、自分で警察行くか。それともお仲間でも呼んでくる? 私的には仲間呼んでくれた方がいいけどね。まだ蹴り足りないし」
あんたはただ暴れたいだけじゃないか……。
「あ、あんふぁら……!! もうゆふさふぁい!! ゆふぃのなふぁまよんできてふぉこふぉこにしてひゃる……!!」
「あーん? なんだってー? よく聞こえなーい。もっとハキハキ喋ってくださいよー。猿じゃあるまいし。私らの事舐めてんですかー? 舐めてるんですよねー? はい四回目―」
「……ギャ……ッ……!!」
……喋られないようにしてるのはあんたなんだが。
もう声にならない声をしてしまっている……。
「……金魚の糞のあんたらはどうするの? このままこいつと一緒にボコられたい?」
伏見さんは佐野一派の二人に問いかける。
「「……私たちは……っ……」」
そう言うと、その二人は部室の扉に向かって走り出した。
僕はそそくさと身を隠す。
……薄いな。所詮その程度の関係だってことか。
「あんた、友達にも見捨てられてんじゃん。あ、まあ、あれは友達じゃないか。にしても、惨めね。どう?裏切られた感想は。あ、あんたに感想を求めることも間違いか。そもそも感情なんてないもんね」
「やめーー」
「そもそもあんた、美智子ちゃんの人生を滅茶苦茶にした次は、太田君までも滅茶苦茶にしようとしたでしょ? それがどれだけの事か、分かってんの?」
「もう、ゆるーー」
伏見さんは佐野に対して馬乗りになり、佐野の顔を殴りながら喋りを続ける。
……伏見さんの目のハイライトが……。
「太田君に手を出した時点で、あんたの死刑執行は確約されたの。 しかも自分の身体でやらずに、美智子ちゃんの身体を使ってきた。それがお前の一番の罪じゃこらぁー!!」
とどめの一撃と言わんばかりのフォームで拳を振りかざす。
佐野の顔はもはや原型を留めず、フグみたいに顔が腫れあがっている。
さて、そろそろ僕の出番かな。
……これからはさらに地獄を見せてあげますよ。
先輩……。




