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相談

どうも。皆さん初めまして。生涯ボッチ兼独身が約束されている高校二年生の、太田浩二郎と申します。

趣味は、アニメ、漫画小説、アイドルVtuber鑑賞です。

そうです。皆さんご察しの通り、俗に言うオタクです。


顔はごくごく平均だと思いますが、身長は百六十センチと、普通に低いです。


もちろん、友達などいません。彼女などもってのほかです。


さて、ここまでの詳細を聞いて、勘のいい人は想像したんじゃないでしょうか。


こいつ、いじめられてんじゃね? と。


ええそうですとも。絶賛いじめられてる最中です。バリバリの現役ですとも。


そろそろ引退したい時期なのですが、周りの人達が許してくれません。


僕も高校二年生なので、受験とかいろいろ本腰を入れて向かっていきたいのですけどね。

僕のファン(いじめっ子)がまだ現役でいてほしいと言うので、仕方なく、いじめられるのに必死になってます。


ではなぜ僕がいじめられるようになったのか、説明しておきましょう。


結論から言いますと、周りと言うか、クラスメート数名の男子たちからしたら、なんかオタクでスマホでアイドルみてニヤニヤしてる奴がいて気持ち悪いから、だと思われます。

そしていつの間にか数名のファン(いじめっ子)が僕にできていました。


残念ながら、いじめっ子の中に女の子はいません。いつも見て見ぬふりです。


いじめの内容は、靴を隠される、トイレで水をかけられる、悪口を言われる、などなど、様々な種類のいじめの内容になっています。


僕がいじめられるようになって、約三ヶ月ほど経ちました。


今日もいつもの朝がやってきます。


学校に行く時は何もないですが、学校についてからが大変です。


まず上履きを探すところから始まります。なのでいつも早い時間に学校に行きます。


そして、誰よりも早く教室に行き、誰もやらない日直の仕事をやります。

黒板を拭く、窓を開けて換気する、などの作業を行います。


誰もやらなかったら、先生の無駄な説教タイムが発生してしまいます。

朝からそんな事を言われると、単純にその日のモチベーションが下がるので、いつも早く教室に着く人間がやった方が効率的なので、そのようにしてます。

この時間に教室にいるのは、基本的に僕だけなので、必然的に僕が毎日日直の仕事をする流れになってます。


日直の仕事が終わったら、一時間目の授業の準備をして、あとはスマホをいじりながら、先生が来るまで待機です。


ある程度時間が経つと、次々とクラスメートの方たちが教室に入ってきます。


「おはよー」


「おっすー」


などなど、様々な挨拶を交わしながら、みんな自分の席に着きます。


もちろん僕に挨拶をしてくれる人はいません。

クラスの方々からしたら、僕はそこら辺の埃程度しか思ってないでしょうから。


埃に挨拶しますか? しませんよね? つまりそういう事です。


「ういーっす」


「和樹、ういーす」


「ういーす」


「かずっち。おっす」


「おっす」



お。ついに現れました。僕のファン第一号が。


彼の名前は、宇崎和樹君。僕をいじめるグループのリーダー的な存在です。


容姿も整っていて、部活はしていないらしいが、どこの部活に入っても活躍できるくらいの運動神経。

コミュニケーション能力も高い。そしてかなりモテるらしいです。


僕とは正反対の人間ですね。


さて、彼が入ってきたという事は、いよいよ始まります。



「おいっす。太田。元気にしてたか?」


「……おはよう、宇崎君」


「元気ないねー。あ、靴見つかっちゃったのかー。次はもっと分かりにくい場所に隠さないとなー」


「……」


「宇崎ー。やめとけってー」


「いやいや。こいつがいつもしけた顔してっから、俺が構ってやってんのよ」


「さすがっす。宇崎の兄貴!」


さあ始まりました。これがいつもの彼なりの挨拶です。


言ってる内容は、聞こえは良いが、ただ単に『構ってやってる俺やさしー』みたいな愉悦に浸りたいだけでしょう。


「あ、そういや、太田。今日一時間目が終わったら、いつものトイレに集合な」


「……」


「ちょい頼み事があるんだよなー。あんま他の奴らには知られたくないからさ」


「……分かったよ」


おっと。今日はなにか頼み事をされるようだ。

まあどうせ、碌でもない事でしょうけど。



そして一時間目が終わり、いつものトイレにむかう。

トイレの中に入ると、宇崎君とそのほか数名が待っていた。


いつもなら、水をかけられたりするのだが、今日は手にバケツを持っていないので、水をかけられる事はないようです。


「お、来たか」


「……頼み事って?」


「いやー。実は俺さー。隣のクラスに伏見乃愛ちゃんって子がいるだろ? その子とそろそろ付き合おうかなって思ってんだよね。今結構いい感じでさー。今度ディズニー行くんだよ。その帰りに告ろうかなっておもってんだよな」



「……それで?」



……何か嫌な予感がするのは、僕だけでしょうか。


「んで、俺今金欠なんだよねー。ちょい遊びすぎちゃって。なのでー。ちょっとお金貸してくんない?」



嫌な予感が、大的中しました。

さすがにお金は貸せないので、お断りしましょう。


「……さすがにお金は貸せないよ。僕はバイトもしてないし、お小遣いもそんなに貰ってない」


「……は? いや、ちょっとだけじゃん。ちょっとだけ」


「……だめだよ。お金の貸し借りは良くないって言うし」


「いやだから。ちょっとだけって言ってんだろ」


……今日の宇崎君は機嫌が悪いようだ。いつもと様子が違う。

このまま長引くと、色々めんどくさそうですね。とりあえず欲しい金額を聞いてみましょう。


「……いくら貸してほしいの? 千円とかなら貸せるー-」


「三万」


「さ、三万!? む、無理だよ! そんな大金…」


「……は? なにさっきから。ちょい生意気なんじゃねーの?」


さ、三万なんて……。そんな大金持ってるわけないだろ……。


「さ、さすがに無理だよ……。バイトもしてないー-」


「おらぁ!!」


「ぐふっ!!」


げ、げほげほっ……!!


……え……? 


なんで殴られたんだ……?


「あのさー。さっきからお前生意気なんだわ。いいから三万持ってこいや。期限は明日までだから」


「ハ、ハァハァ……。あ、明日までなんて……、そんなの……」


「とりあえずよろー。持ってこなかったら……、どうなるか分かってんな? んじゃ」


そういって宇崎君たちはトイレから出て行った。


そんな……。一体どうしたら……。

持って行かなかったら、また今日みたいに暴力を振るわれる……。


さて……。困ったぞ……。

まさかこんなことになるとは……。


しかも借りる理由が、好きな人と良い感じで、その人とディズニーに遊びに行くから、金を貸せだって?


いや知るかよ! 自分でなんとかしろや!!


……ふぅー。落ち着こう。今は愚痴っても何も解決しない。


仕方ない……。ばーちゃんにお小遣いを前借りするしかない……。


「……くそっ……」


情けないですね。こんな自分が。





そして次の日、僕は憂鬱な気分で教室にいつものように座っていると、宇崎君が教室に入ってきた。


「ういーす」


「和樹、ういーす」


「ういーす。あ、太田。例の物、ちゃんと持ってきたよな?」


「……持ってきたよ……。いつ頃返してくれるの……?」


「んー。わかんね。返す時また言うわ。とりあえずサンキューなー。付き合ったら、また報告してやるよ」


「……」


これ絶対返ってこないやつだ……。


はぁー。まあ殴られるよりましか……。

もうこれ以上ばーちゃんに迷惑かけられないし……。


そして四時間目が終わり、昼休みに入った。


僕はいつもの如く、スマホをいじりながらパンをかじっていた。

今日も今日とて、宇崎君になにかされるかと思っていたら、何やら廊下が騒がしい。


「ほらっ! 乃愛! 早く入りなって!」


「いーやいやいや! やっぱ無理だって!無理無理無理!」


「何を今更恥ずかしがってんの! あんたが行くって言ったんでしょうが!」


「無理なもんは無理! やっぱ恥ずかしいって!」


廊下で女子二人がじゃれついている。


あれは確か……、隣のクラスの女子ですね。


僕でも知ってるくらい有名な人達だ。学校の中でもトップカーストに君臨するグループ。


確か名前は……


「おっ、乃愛ちゃんと恭子ちゃんじゃん。なにか用ー?」


そうそう、思い出した。


確か、黒髪で清楚ギャルみたいな人は、『桂 恭子』さん。


そしてもう一人の、長い髪を金色に染めて、いかにもギャルな感じの人は、『伏見乃愛』さん。


……ん……?


伏見乃愛!? 

それって宇崎君の想い人じゃないか!


おいおいおい……。


これは宇崎君が黙っていないぞ……。

好きな人が自分のクラスに来たんだ。

しかも相手はあの有名なギャル。


頼むからややこしい事しないでくれよ……。


「あーいや、ちょっと人を探してんだけどー……、ほら、乃愛!あんたが呼びなさい!」


「むーりむりむりむり! マジでハズイ! マジで恥ずか死にそう!」


「ないしょうもない事言ってんのよ!」


どうやら、人を探してるようです。


まあ十中八九、宇崎君の事でしょう。

なんか、良い感じと言っていたし。


「お、乃愛ちゃーん! 恭子ちゃん! ういーす! なんか用ー? あ、もしかして明日の事?」



ほら来たぞ。主役の登場だ。


「あ、和樹君。ういっすー。いやー。乃愛がこんな感じでさー。恥ずかしがってんの」


「……あー。なるほどね。とりま俺と乃愛ちゃんで二人きりにしてくんない? 多分乃愛ちゃんもこんな大勢の前じゃ、緊張するだろうし」


やっぱり、宇崎君目当てだったらしい。

しかもあの雰囲気は……。

これから告白でもするのでしょうか。


いやはや。モテる男は行動力がありますね。


まあなにも羨ましくないですが。宇崎君だし。

宇崎君に対しては、今は殺意しかありません。


「ん……? あーいや違う違う。私らが捜してんの、和樹君じゃないんよ」


「……え? あ、そ、そうなの? な、なんだびっくりしたわー」


「そうそう。勘違いさしてごめんね? ほら乃愛!」


「う~!! ご、ごめん、やっぱ恭子が呼んできて……。き、来たらちゃんとウチが喋るから!」


「え~? もう。 しゃーないなー」


「よかったら俺が呼ぼうか? 女子だよね? 誰?」


「あ、今回は女子じゃないんよ。男子男子」


「え、だ、男子……!?」


おっと。

探していたのは、宇崎君じゃなかったらしい。


あの宇崎君が見た事ない顔をしている。


……ざまぁみやがれ。


「そうそう。えっーと……、あ、いたいた!おーい!」


「……俺以外の男子って……。誰だよ……」


あれま~。

見事に嫉妬されていますねー。


見てる分には普通に気持ちよくて草。


さて、宇崎君を差し押さえて、一体だれをお呼びなのでしょうか。


「ちょっとー。太田君。さっきから呼んでるんですけどー」


「……はぁ!? お、太田!?」


「ぎにゃー!!」


ふむ。どうやら探していたのは太田と言う男らしい。


……ん? 


あれ、えっと……。


太田……。


んん!? 僕!?


なんで僕!?


「おーい。太田くーん」


桂さんが僕の名前を呼んでいる。


おいおいおい……。勘弁してくれ……。


宇崎君の目がえらい事になっちゃってるよ……。

今すぐにでも殺しに来そうな目をしてるよ……。


えー……。なんで僕……。

しかも僕、この人達とは今日が初めましてなんだけどなー……。


しかたない……。とりあえず廊下に向かうか……。


「お、来た来たっ! ほら、乃愛! 太田君来たよ!」


「ちょ、ちょっと待って……。こ、心の準備が……」


「そんなの、前からできてたでしょ!」


「……」


いや宇崎君の目っ!!


もはや犯罪者だよ!


「……あ、ど、どうも……。何か用かな……?」


「あ、急にごめんね? まあ用があるのは、この子の方なんだけど」


「は、はあ……」


「はい、乃愛! とりあえず挨拶しなよ」


「え、あ、あの、ど、どうみょ……。伏見乃愛でしゅ……」


「え、あ、ど、どうも……。太田浩二郎です……」


なんかすごい緊張してらっしゃる……。

噛み噛みだし……。


まあ僕は違う意味で緊張してるんですけどね!!

主に隣の男の人のせいで!


「よし。とりあえず、場所移さない? こんな人前でもあれだし。それでいいよね?乃愛?」


「う、うん……。それでいい……」


「太田君もそれでいい?」


「あ、はい……。僕はなんでも……」


「おっけい。じゃあいこっか」


なにか大事な話でもあるんだろうか……。

まったく見当がつかない……。


今日初めて会ったはずなんですけどね……。


そして僕が廊下に出ようとすると、宇崎君がドスの効いた声で僕に喋りかけてくる。


「……後でいつものトイレ集合な……」


「………」


一体何をされるんだ……。


「太田くーん? 行くよー?」


「あ、はい。今行きます……」


頼むから、しょうもない事であってくれ……。



場所は変わって、人気のない非常階段。


「ここの非常階段、人があんま来ないからいいよねー」


「……そ、そうですね……」


「さて。私の出番はここまでー。あとはあんたが頑張りなさい」


「え、えー…」


未だに顔が真っ赤の伏見さん。

こちらとしても、そろそろ本題に入ってもらいたい。


「ほら、シャキッとしなさいよ。太田君待たせちゃ悪いでしょ」


「わ、分かってるって……。あ、あのさ……。う、うちの事、覚えてる……?」


「……?……。いや、まあ、名前はご存じですけど……。こうして会話するのは初めてですよね…?」


「や、やっぱり覚えてないんだ……。ウチら一回会ってるんだよ。太田君、半年前くらいに学生手帳拾ったの、覚えてない?」


……そういえば、そんなことがあったような。

でもあの時確か……


「そうですね。確かに拾った記憶はありますが……。でも、あの時の学生手帳は、先生に届けてそのまま家に帰ったような……」


「そう。その学生手帳、私のだったんだ……。あとで先生に聞いて、届けてくれたのが太田君って知ったんだ。その時の帰り道で、太田君にお礼を言ったと思うんだけど……。覚えてる……?」



「……あー。綺麗な人だと思ってたけど……。あれは、伏見さんだったのか……」


「き、きれっ……!?」


「……? どうしたんですか?」


「な、なんでもない……」


綺麗なんて言われ慣れてるだろうに。


桂さんなんて、なんかニヤニヤしてるし。


「それで、その事と今回の件について、なんの関係が……?」


「そ、それは……」


なにか、やましい事でもあるのでしょうか……。


「れ、れ…ら……き」


「れ、れらき?」


「れ、連絡先っ! 交換してほしくて……」


………? 


な、なんだって……?

連絡先……?


なんで僕なんかと、連絡先を交換なんか……。


そ、そうか! 分かったぞ!


さては、宇崎君とのパイプを探していて、僕にたどり着いた訳だな。

宇崎君との仲をより深めたいと思ったわけか。宇崎君が今度のディズニーで、告白すると言っていたしな。

あの時はすごい自信家と思っていたけど、これは完全な両想いですね。


宇崎君が調子に乗るのも分かる。

だからといって、お金の件はまた別の話だけど。


ただここで断ったら、また話がややこしくなりそうなので、潔く交換しよう。


「わかりました。いいですよ」


「え!? いいの……?」


「はい」


「やったじゃん!」


桂さんも一緒になって喜んでいる。

友達想いな人なんだな……。


「う、うん……」


「それで? どのような時に連絡すればいいですか?」


「え! 太田君から連絡してくれるの!?」


「? はい。じゃないと交換した意味がないでしょ?」


「そ、そうだね……」


「とりあえず、宇崎君の動向などを報告すればいいですか? それとも……」


「……? な、なんで和樹君が出てくるの……?」


「え? だって、宇崎君とのパイプ役を僕がする、という解釈だと思うんですけど……」


「え?」


「え?」


なんか話が嚙み合っていないような気がする……。

僕がなにか勘違いしていたのかな?


「和樹君はなんも関係ないんだけど……」


「え? そうなのですか?」


「逆になんで和樹君が出てくるの?」


「いや、伏見さんが宇崎君に好意を抱いていて、それで僕に協力をお願いしてきたのかと……」


「ち、違う違う違う!!」


「ぎゃははは!! も、もう無理……。笑い止まんない……!!」


桂さんがえらく爆笑してるのですが……。

僕が勘違いしていたのか……。


「う、うちが和樹君の事好きなんて、それどこ情報!? そいつの事絞めてやる……」


「ふー……ふー……。や、やっと落ち着いた……。そっかー。太田君は鈍感なんだなー」


失敬な。これでも人間観察は得意な方だぞ。


「それで? 乃愛が和樹君の事好きっていう情報は誰から聞いたの? もしこの噂が広がってるようなら、どこかで止めなきゃいけないからね。よかったら教えてほしいんだけど」


……これは、言ってもいいのか……?


これで僕がこの人達に教えた事が宇崎君にバレたら、また暴力を……。


僕が考え込んでいると、桂さんが優しい声で僕に話しかける。


「大丈夫よ。誰にも言わないし、そんなこと言ったって私らになんのメリットもないからね」


……意外にしっかりしてるんだな……。

ギャルというだけで、変な偏見を持っていたが、いざ話てみると、普通にいい人達なんだ……。


…………この人達になら、僕自身の事も相談してもいいのかな……。


「ほんとに誰よ……。そんなこと言った奴……。うちが好きなんは……」


「?」


「ご、ごめん! な、なんでもない……」


「それで、誰なの? 同じ学校の奴なら、大体は分かる」


さすが、学校のトップカースト。

顔が広い事で。


……この人達なら、信用してもいいかもしれない……。


「じ、実は……、そ、その……」


「ふんふん」


「ほ、本人、なんだ……。宇崎君本人から聞いて……」


「「……は?」」


「ひっ!」


どこからそんな低い声が出るんだ……。

思わず声が出てしまったじゃないか……


「本人が言ってたって、乃愛が自分の事が好きって、自分で言ってたって事?」


「そ、そうなりますね……」


「うわ……。きも……」


桂さんは本気で引いてる……。


伏見さんはというと……


「……は? ウチ全然あいつの事好きじゃないんだけど……。しかも自分で言ってたって……。信じらんない……。……ちょっとあいつの所行ってくる!」


「ちょ、ちょっと待って! それは僕が困るんです!」


「大丈夫! 太田君の事は何も言わないから! 安心して!」


「そ、それでもだめなんです!」


「……なにか訳あり? 太田君。もしかして……」


桂さんはなにか察したようだ。

この人……。よく見てるな……。


僕が黙りこんでいると、伏見さんも冷静になったようだ。


「……太田君。もしかして、あいつに何か言われてるの……?」


伏見さんは心配するような顔で、僕の顔を覗き込んでくる。


……いっその事、全部話てみようか……。


そろそろ、僕も精神的にキツかったし、この人達なら、大丈夫だと思う……。


「実は……」


それから僕はこの二人に、今までの事を吐き出すように、事の発端から、つい最近の事までを淡々と話す。


二人は笑わずに、真剣に聞いてくれた。

話していくうちに、僕の心もだんだん軽くなっていって、少し楽になった気がする。


そして話が終わり、二人の反応を待っていると、桂さんが先に口を開いた。


「……裏でそんなことになってたなんて……。しかもほとんどのクラスメートから……」


「すいません……。急にこんな話して……。今のは忘れて下さい。お二人に迷惑をかける訳にもいかないので」


「……太田君……」


桂さんはどう反応したらいいのか、戸惑っているようだ。

そらそうだ。急にこんな話を聞いたら、誰だって戸惑う。


「……でも、ありがとう」


「? なんでお礼を……。むしろ急にこんな重い話をされて迷惑だと思うんですけど……」


「ううん。全然迷惑なんかじゃないよ。今日がほとんど初めて会話した仲なのにさ。それでも話してくれたって事は、それだけ私らの事信用してくれたってことでしょ? それが嬉しいの」


「そ、そうですか……」


……ほんとにしっかりしてるな……。


「さて! とりあえずやる事は決まったね! 乃愛!」


「……うん」


今まで口を開かなった伏見さんが、ついに口を開いた。


………めっちゃキレてらっしゃる……。


「……あ、あのー……。やるって何をするんでしょうか……?」


「「決まってんでしょ。そいつらぶっ殺すのよ」」


「ぶ、ぶっころっ……」


なんて物騒な……。


「……ねえ、太田君。これから休み時間になったら、そっちのクラスに行くね」


伏見さんが僕に神妙な顔で僕に話かけてくる。


「なんでですか?」


「私らが行ったら、そっちのクラスの奴らも大人しくなるでしょ。そ、それに……。太田君と話、したいし……」


「ん? 最後何か言いましたか?」


「な、なんでもない!」


「ん~。乃愛がこんなに乙女だったなんて」


何のことかわからないが、僕のためになにか行動してくれるのは確かなようだ。


……優しい人たちだな。世の中には色んな人がいるなー……。


なんか涙がでてきた……。


「あ、あの……。急にこんな話になって、大丈夫なんですか……? お二人って宇崎君と仲良かったんじゃないですか……?」


僕の質問に伏見さんと桂さんが答える。


「……まあ、それなりにね。でもそれもさっきまで。これからは敵よ……。つーか、太田君に害を与える奴は全員うちがぶっ殺す……」


「まあ、確かにあいつ、乃愛の事好きっていうのは分かってたけど。まあこの際どうでもいいか。これからは私たちからしたら、ただの害虫だし」


「が、害虫って……」


「とりあえず、お昼休みももう終わるし、教室に戻ろっか」


「は、はい……。そうですね……」


教室に帰ったら宇崎君が待ってるのか……。不安だ……。

今回の事はかなりキレてるだろうな……。


「……不安?」


「……ええ。まあ。今回は宇崎君もかなりキレてるだろうし……」


「大丈夫。私たちが守ってあげるから」


「伏見さん……」


この人達に相談してよかった……。

初めて人に相談できた気がする。今まで相談できる間柄の人なんていなかったし。


ばーちゃんはいるけど、そんな事でばーちゃんに迷惑なんてかけたくないし。

僕の両親は、数年前に事故で亡くなった。そこでばーちゃんに引き取られて、今までお世話になってるから、ほんとに感謝しかない。今日宇崎君に貸したお金もばーちゃんに『友達と遊びに行く』なんて嘘をついて、お金をもらったんだ。正直胸が張り裂けそうだったよ……。


だから、僕も逃げてばっかじゃいけないと思った。

逃げる事も時には大切だけど、時には闘う事も大事なんだ。


この人達に相談して、今までの事を吐き出してスッキリできた事もありがたいんだけど、それと同時に、自分に自信がついた気がする。宇崎君たちと闘おうとする自身が。



「伏見さん。桂さん。ありがとうございます。相談に乗ってくれて。だいぶスッキリできました。それと自分にも自信がついた気がします」


「どういたしまして。よかったね。乃愛」


「……うん」


「それじゃ、戻ろっか」


「はい」


非常階段から自分たちの教室に戻っていると、横で歩いてる伏見さんに声をかけられた。


「……太田君」


「はい?」


「もしあいつに何かされそうになったら、すぐ連絡してね。秒で行くから」


「はい。ありがとうございます」


「ぐはぁ!!」


いい人だなー。心の底から笑顔で会話できるなんて、いつぶりだろう。

今まで愛想笑いしかしてこなかったしなー。


「……太田君。これから女子の前では笑うの禁止ね」


「? なんでですか?」


「いいから!! そんな顔されたら、ほとんどの子が落ちちゃう……」


「どこに落ちるんですか?」


「こ、こっちの話! とりあえず禁止ね!! ウチとの約束!!」


「わ、分かりました……」


伏見さんって、意外と喜怒哀楽が激しい人なんだな。

急に落ち込んだりするし、顔を真っ赤にして怒るし。

意外にナイーブな人かもしれませんね。言葉には気を付けないと。


「太田君……。それ完全に勘違い……。ま、いっか。このままの方が面白そうだし」


桂さんが何かニヤニヤしてるが、なにか面白い事でもあったのだろうか。


「それじゃ。私たち二組だから。次の休憩時間になったらそっちの教室にいくね」


「はい。ありがとうございました」


「……太田君。また、ね……」


「はい、またあとで」


「なにかあったらラインしてね。ウチ基本スマホ触ってるから」


「分かりました。それでは」


そういって僕たちはそれぞれの教室に戻る。

今までは教室に戻るのは怖かったけど、今は不思議とそうでもない。


闘ってやる。無様でもいい。伏見さんたちは守ってくれると言ってくれたけど、あくまでこれは僕自身の問題なんだ。僕が頑張らないと。ここで何か行動しないと一生後悔する。


そうやって自分で自分のケツをたたき、意気込み十分な状態で、教室の扉を開く。


この時は、思いもしなかっただろう。


まさか、あんなことになるなんて……。























































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