釣りの途中
「飽きないねぇ」
釣りをしていたら、声をかけられた。
「君、今日の朝からずっといるね。もう夕方だよ」
釣りに来たおじさんかと思って顔をあげると、スーツを着こなした若い男が立っていた。
若干面食らって、はぁ、としか答えられなかった。
こんなシュッとした人に自身のくたびれた背中を見られていたかと思うと、少し恥ずかしくなった。
「釣りは良いよな。なーんにも考えないでいられるし。
君さ、今日一匹も釣れてないだろう。一日中ただただボーッとして、楽しそうだ。」
なぜだか、若干皮肉が混ざっていたような気がする。
「いや、釣れましたよ。」
「?魚どころかそもそもケースも無いじゃないか。」
「ほら、ここに」
そういって、僕は隣のアザラシを指さした。
確かに魚一匹釣れなかったが、アザラシを釣ることは出来た。こいつは昼頃に釣れて、なぜだかずっと隣りにいる。
「…君、帰り道気をつけなよ」
若干の沈黙の後、男は苦笑いで言った。
そしてどこの神社のものか分からないお守りを、僕の手に握らせて、颯爽とこの場を立ち去った。
「何だったんだ?」
若い男に目を奪われている隙に、お守りがアザラシに食われてしまった。
あっ、と思った時には遅かった。