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第7話 嵐の前の静けさ

「李亜ちゃん!今日の帰りカフェに寄ってかない?」


「李亜ちゃん!ここの問題わからないんだけど教えてくれない?」


 1年3組学級長であり、みんなの憧れの存在である

李亜の周りには毎日沢山のクラスメイトで溢れている。

 人望ありきということもあり、困った時や悩み事などは李亜に相談することで問題が解決する子は

多いと和真に聞いたことがある。


「カフェ!?行く行く!あ、でもあーちゃんの問題を解いてから行こうかな。そのあとは一緒に!みんなで行こうよ!」


「そうだね。そこの問題私もわからないで授業終えちゃったし」


 重複した誘いや依頼を快く引き受けながらも周りが友人関係になるきっかけを作る。コミュニケーション能力に長けたものでなければそう簡単にできるものじゃないな。


「いい子だよなぁ。李亜ちゃん」


「性格は言うまでもなく!顔はアイドル級!スタイルは女優並み!くぅー一度でいいからあんな子と付き合いてぇー」


「バーカ、お前の顔じゃ無理だよ。月とスッポンだわ」


「うっせぇなぁー、でもお前知ってるか?李亜ちゃんあんなに可愛いのに彼氏いないらしいぜ」


「マジ!?俺ワンチャンある?」


「ねぇよ」


クラスの男子がそんな会話をしていると李亜がこちらを振り向く。


「またねー」


「はぁーい」


 男どもは完全にベタ惚れ状態でこれでもかというくらい鼻の下が伸びていた。

 一瞬李亜が俺の方を向いてウインクしてくれた気がしたが気のせいだろう。

 そうやって勘違いして恋に落ちるほどぬるい男じゃないぜ。


 

 時刻は17時。放課後の帰り道。


 俺と和真そして竜平の3人で寮に帰っている途中に俺は話を切り出した。


「竜平、和真」


「どうした?涼太」


「俺、もしかしたら告られるかもしれない。」


「え?ほんと!?」


和真はかなりの勢いで食いついてきた。


「へぇ?ちなみにお相手は?」 


 竜平が興味があってなさそうな反応を返してきたので俺は堂々と胸を張って仁王立ちで答えてやった。


「赤田李亜だ!」


「なーんだ」


 和真が。


「期待して損した」


 竜平が、俺を小馬鹿したように笑ってみせた。


 なんだこいつら。少しいや、かなり失礼ではないだろうか。確かに相手は美少女だ。それも超がつくほどの。

 そりゃ普通に考えたら俺みたいな平凡な奴が告白されるなんてあり得ないだろと言うやつは多いだろうな。だが考えて見てほしい。相手は所詮俺と同じ人間だ。男と女の性の壁があるだけでそこに美があるかないかなど所詮どうでもいいのだ。

 そんなの自分が過剰に思ってしまうだけでその人によっては美の価値観が違うだろ?ブサイクだろうがブスだろうが関係ない。好きになったら好き。

それでいいじゃないか。


「ん?おい待て!お前らなんで先に行っちゃってん

 の?」


 俺が悟り‥‥などとは言わないが、友人を置いて先に行くとはなんて薄情な奴らだろうか。


「いや、だってなんか違う世界に行ってたし」


 和真の肩に手を置き、竜平は俺は憐れみな表情を浮かべる。


「好きにさせてやれ和真。李亜と付き合っているifストーリーでも堪能してたんだろう。」


「してねぇよ!しかも誰が付き合いたいって言っ

た!」


「え?付き合いたいんじゃないの?」


和真は違うの?と頭ばかりにクエスチョンマークを

浮かべて頭をかしげる。


「あのなぁ。好きと付き合いたいは違うからな?」


「ほぅ?どう違うのか教えてくれよ」


 竜平は腕を組みながら俺に聞いてきた。


「好きってのは異性に関わらずオールマイティなんだぜ?あの音楽が好き、あの服が好き。とか色々あるだろ?」


「まぁ、そうだな」


「んでもって付き合いたいってのは対象者を独占したいとか、将来まで考えると結婚すら視野に入ってくる。俺は別に李亜を独占しようとか結婚したいとかそんなことは思ってない。俺は一人の人間として人として憧れるなーと思ってるだけだ」


「なーる。そう言うことか」


 竜平は納得したらしく。頷きながら感想を言ってきた。

 脳筋は単純で助かる。


「まぁでもよかったよ。本当に恋していたのなら

僕は今ここで涼太の初恋?になるのかな?それを止めなくちゃいけなくなるとこだったよ」


「おいおい。もし俺が本当に好きだったら黙って背中を押してくれるのがダチってもんじゃないのかよ」


 笑って俺は和真に言葉を返したが和真は至って

真剣な眼差しを向けていた。

 竜平に関しては「確かに」と共感の意を表している。


「そ、そんなにおれダメな人間か?」


 こうなってくると自分の人間性を疑うようになってしまう。


「いや涼太はいいやつだよ。問題さえ起こさなきゃいい友達だとも思ってるし。昔からの幼なじみだから親友だから理解度も高いしね」


 へぇー、和真とは幼なじみだったのか。それは初耳だ。


「でもね。赤田李亜と付き合うのはやめた方がいい」


 わざとフルネームで言うあたりが和真が本気で言っているのだと理解する。


「ん?つまり告白される側である李亜に問題があるのか?もしかして本当はものすごいドス黒女だったり?」


「それはわからないけど‥‥そうだなぁ。竜平はもし聞きたくなかったら先帰っててもいいよ?」


「聞きたくなかったらってあの話だろ?別に知ってるぜ俺は、有名だしよ。むしろ知らない涼太がおかしいんだよ」


 おかしい呼ばわりまでされるとはよっぽどのことなのだろうか。


「いやそう言った真偽が不明な噂話じゃなくて実際の話だよ。」


「そ、そうなのか。まぁ構わねぇぜ。話を続けてくれ」


 和真は俺の方を向いてきたので頷いた。


「李亜さんはね。日本の政治、経済、貿易、外交、

他にも日本全国を牛耳っている、そして全世界でもその名を轟かすあの日本が誇る三大名家の一つ。紅葉家の血筋。それが赤田李亜の正体さ。」


 紅葉家?三大名家?また知らない言葉のオンパレードか。それにしてもそれの何がやばいんだ?


「マジかよ。枕説より全然話のスケールが違うじゃねぇかよ。あの紅葉家?李亜がか?」


 は?枕?もっとえげつない話出てきたじゃねえか。


「そうだ」


「マジかよ。ってことは?お嬢様?」


「まぁー、ある意味ではそうだし、ある意味では

そうじゃないね。」


「あぁ?どう言うことだよ!?」


 そんなに凄いことなのか竜平が興奮気味に和真に

押しかけた。


「まぁまぁ。落ち着いて。順序よく説明するとね。日本三大名家ってのはみんなも知っての通り紅葉家を含めさらに蒼海そうかい家と翠雉よくきじ家が存在している。そしてその三家が本家と呼ばれている。そして本家に属する分家も存在するわけで、分家になる家系の苗字は本家に関した色の苗字が与えられる。それで?紅葉家の色は?」


「紅‥‥赤に関する色だからそのまんま赤田。ってことか?」


「その通り。そして他の名家も同じ仕組みだよね」


「だけど、結局は赤田もお嬢様じゃねえのか?分家なんだ————そうか。この学校と同じってことか‥」


 和真は一度頷くと人差し指を立てる。


「本家に属しているとは言え、基本他の家と変わらないらしいよ。ついている職のレベルは高く、給料もかなり貰っている。だけど、その給料は本家によって引き抜かれてしまい、結局は一般人、俺たちの親の給料とあんま変わらないってことさ」


「だが和真。いくらなんでもそれは可哀想じゃないか?分家だからって本家に金取られてるわけだろ?さっきの話だけで付き合わない方がいい理由にはならない」


 

「だが赤田家は潤沢な財と広い敷地を有している。分家にも関わらずね」


 和真は俺が話しているところを遮って発言してきた。


「これ以上は知らないし、無理に結論づけても意味ないしね‥‥あとそろそろ帰らないかい?遅刻したら俺たちはともかく涼太はお陀仏なんだからさ」


「そうだな。俺も腹が減ったし早く帰らないとな。

あー当たり前だと思うけどさっきの話はもちろん黙っとけって感じか?」


 竜平がそう聞くと和真はもちろんと言うばかりに頷いた。


 だが最後に俺は一つだけ聞かずにはいられなかった。


「和真」


「なんだい?」


「赤田のこと、赤田家のことを詳しく知ってんのはなんでだ?」


 和真は今まで即答に近いレベルで俺たちの質問に答えていたが、今回は違って渋った顔をしている。


「んーどうしよっかなー。ま、とりあえず今は誤魔化すよ。でも僕は分家ではない。これは確定事項だと認識してくれていいよ」


「そうか」


 今考えられる1番の可能性だけを否定すると、和真は俺に微笑みかけた。

 その後、少しずついつもの馬鹿な3人に戻り寮に戻った。



 学校での疲れを癒やし、自分の部屋で俺はスマホの検索機能で三大名家のことを調べた。すると紅葉家はここ東京都に位置する紅桜高校を、蒼海家は愛知県に位置する蒼海学園を、そして翠雉家は長野県に位置する翠雉学院をそれぞれの名家が受け持っており、運営しているということ。

 そしてそれぞれが赤木高校、青川学園、緑雛学院を分校とし、本校の半径約1.5キロメートル内に設置されていること。本当は赤田家について調べたかったのだがこれ以外には何も出てこなかった。


———————————————————————


 賑やかだった教室が佐賀が入ってきたことにより

一気に空気に緊張が走った。


「さて諸君。いよいよ明日、能力調査の日になるのだが私の可愛い生徒たちはもちろん大丈夫だと思っているのだけれど。どうかしら?小林あやめさん。」


 名前が呼ばれるとあやめは椅子から起立し、佐賀に向かって大きな声で宣誓した。


「私たちは必ず!ここにいる30名全員で必ず本校に行きます!そして本校で卒業式を迎える!それが私たち1年3組の目標です!」


 それを聞いた佐賀は口角を釣り上げ、愉快そうにゆっくりなテンポで拍手をし始めた。


「素晴らしいわあやめさん。その意気込み、そしてみんなの目を見ればあなたの気持ちはクラスメイト一同同じなのでしょうね」


「では学級委員長の赤田李亜さん。これより180分間の自由を与えます。その時間では郊外に出ない限りは自由にしてもらって結構です。貴方が指揮を取り教室で作戦会議をするのもよし、模擬戦をするのもよし、とにかく明日に備え万全な体制で挑めるように頑張ってください」


 本来ならここは声を上げて頑張って!と言うのだろうがこの先生は先程から完全に小馬鹿にしているような、いないようなそんな態度をあからさまにとっているのはクラスメイトへの挑発だろうか?


「ではどうぞ?自由にしてもらって結構よ。終了時には調査概要の紙を配って説明を行うので時間までには着席しておくこと。みんなわかった?」


「はい!」


「よろしい、では先生これから職員室で仕事があるから何かあったら教室から電話してね」


 そうして佐賀は静かに教室を後にすると、時計の針が10の数字を指した瞬間にあやめと李亜は黒板に立った。


「あやめ、書記お願いできる?」


「おっけ、任せな。」


 二人が揃うと頼もしく感じるのは多分俺だけではないだろう。みんな先程の緊張から段々と緩和されてきているのが雰囲気でわかる。

 俺もクラスメイトの一人としてこの場で発言したりして目立たない程度に貢献したいところだ。


 なのだが、みんなにはすまないんだが。まずは野暮用を片付けてからにしよう。


「李亜」


「ん?どうしたの?涼太くん」


「すまない、急に腹が痛くなってきた。保健室に行って薬を貰ってくるから少し席を外すがいいか?」


「おい下痢かぁ?」


「早く済ましてこいよぉ」


男共が煽る中、天使は違った。


「いいよ、無理しないで、ゆっくり休んだ後に参加してくれればいいから」


「あぁ、すまない」


クラスメイトに笑われながら俺は廊下に出た。


「クラスの雰囲気を明るくすることには貢献できたかもな」


 さてと、俺は嘘をついてまでクラス会議を抜けてきたのには理由がある。


 昨日の夜、三大名家について調べていた時だ。俺はそろそろ寝ようとスマホの電源を落とそうとした時一件のメールが届いた。


 そして俺はメール送信者であろう人物がいる部屋の前で立っていた。ノックを4回叩く。多いと思うだろうが親しい間柄がいる部屋やトイレでの空室確認でない場合は3回。目上の人にも4回のノックが正しい。


「失礼します。1年3組の三矢涼太です。佐賀先生に強制的に呼ばれたので来ました」


「フフフ、この部屋にいるのが私だけだからって

言い方が随分と偉そうね」


「何も間違っていませんよ。実際呼ばれた側ですので」


「機嫌悪そうね」


「当たり前です。クラス会議に出るか出ないかで

退学になるのかも知らないのですから。そんな時間を削ってまでも来たんですよ。不機嫌になるなと言う方が無理ってもんですよ?」


「まぁ確かに、大事なクラスメイトとの大事な会議の時間を奪ってしまい申し訳ないとはおもっているわ」


 ぜってぇおもってねぇだろ?と言いかけたがあくまでも先生なので喉元に出かけた言葉を引っ込めた。


 すると先生は立ち上がりさらに俺をイラつかせる

言葉を発した。


「まぁ、とりあえず座って?お茶にしましょう」


 は?こちらは早く帰って作戦会議に参加したいと

小学生でもわかりやすく発言をしてやったのにこの後に及んで茶?人を馬鹿にするのも大概にしてほしい。


「いえ結構です。それより早く話を」


 すると佐賀は突拍子のないことを言い出した


「私は魔法が使えるの」


 いきなりなんの話だ?魔法?


「はぁ‥‥魔法ですか」


「えぇそうよ。これから貴方に魔法をかけるわ」


 そろそろほんとにブチギレそうだ。


「貴方がその椅子に座り私とお茶したくなる魔法をかけてあげる」


「はぁ、どうぞ。ではもし俺が魔法にかからなかったら俺は退室してもいいですか?」


「えぇ結構よ」


 こうなってくると何故ここに俺は来たのか今更ながら馬鹿馬鹿しく思えてくる。


「では、かけるわね」


「はい」


その時の佐賀はまるで新しいおもちゃを目の前した子供のような笑みを浮かべていた。そしてゆっくりと口を開き言葉を発する。






「いよいよか」


 今日の天気は暖かく、雲一つない見事なまでの快晴だった。

 昨日の夜は李亜の発案のもと19時から21時にかけて勉強会が開かれた。

 開いた甲斐はあったようで、各々の生徒が自信を持った表情で自分の部屋に帰っていった。


そして今、俺の前には学校により用意された3本の尖った鉛筆に角一つ削れてない消しゴムに定規、コンパス。そして目の前には8.9枚ほどで構成されたテスト用紙。


 窓もドアも閉まり切ったこの教室で聞こえる時計の針の音は合格に誘う天国へと導く福音か、あるいは退学に誘う地獄へと導かれる鎮魂歌レクイエムか。


 まもなく始まる。


 そして高らかに鳴るチャイムは今までで1番大きく荘厳に聞こえた。そして———

 

 この時をもって俺のいや、俺たちのスクールサバイバルが始まろうとしていた。










 

 

 

 

 




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