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第6話 狂い出す歯車

朝のホームルームから3限目、昼食休みまで行われた説明会は生徒たちに不安や期待など様々な感情を煽らせ、濃く長い時間だった。


 12時の時刻と言ったらどこの学校も会社も日本人の9割は昼食の時間だ。各自持参した昼食を机の上に広げ、今日は何が入ってるのだろう?と気分が

高揚するのは大方の人がそうだろう。


 そして人の昼食を見ては欲しがり貰う。そう言った可愛らしいイベントが給食制度がない高校ではよく見られる光景だ。しかし、あの話の後となると気分が上がらないのも無理もない。そんな中この男はだけは違った。


「なぁ、涼太?退学になったらどうする?」


 クラスのみんなが退学にならないかと心配する中、この男はまさかの退学をする程で俺に質問してきた。メンタルどうなっているんだ?


「退学になったらって、そうならないようにこれから努力するんだろうが。退学した後の事を考える

なんていやなフラグが立ちそうで嫌だよ。」


「まぁまぁなったらだよ」


「なったらって‥まぁ強いて言うなら‥‥バイトとか?地道に金を稼いで生きていくしかないだろ?」


「えぇーバイトかぁ。まぁ確かに退学したって言う

肩書き背負って生きていくわけだもんなぁ。そう言う生き方に縛られてくるのかー」


「まぁあまり事例はないけど退学した子が猛勉強をして大企業の社長になったって言う話は聞いたことがあるな」


「お!それいいな!決めたよ!僕は社長になる!」


いいなー。コイツは人生たのしそーでー。とそんなことを思っていたら————


「お前ら、さっきから退学退学ってうるせーんだよ!」


はい、ごもっともな意見ありがとうございます。いや、実際俺悪くないからね。


「ん?坂田くん。どうしたんだい君も退学した者の末路について共に語り合うかい?」


「まずお前はなんで退学することを前提に話をしたんだよ」


おっしゃる通りでありやす。


「何事ももしもの時の対応策を考えるのは大事だよ?もし想定していない事が起きた時、少しでも冷静に的確な答えを出すためには必要なことだからね」


 だがまぁ和真の言うことには一理ある。だが、和真のように重すぎる事実を認めてすぐ次に進もうとできる人間はそうはいないだろうな。


「だから、そんなことを考えることなく事を解決

するためにこれからたくさん努力するんだろうがよ」


 お互いの意見は全く交錯せずに対立しあったまま、こんな風に身内争いを繰り広げて内分裂するクラスもあるのかと思っていたその時。


「二人とも少し落ち着いて」


 さっきまで顔が青く昼食すら机に出していなかった李亜が動いた。


「和真くんの意見は確かに将来の安全性を考えたら

否定はできない。だけどまず負けた時のことを考えたり、勝つための努力をする前にそう言った発言をするのはクラス内の士気に関わりよね?だからそういった発言は感心できないかな。」


 和真はゆっくりと頷くと、坂田と向き合う。


「まぁ考えてみたらそれもそうか。悪い坂田」


 和真は李亜に説得されると簡単に引いた。そんな軽い意志ならさっさと捨ておけっての。


「いや、俺も熱くなりすぎた。ごめん。」


 危うくクラス内で最初の分裂が起ころうとする前になんとか李亜が止めたが、今後俺たちの知らないところでこう言ったことが起きる可能性を考えたら、本校昇格どころか退学になる方が高いな。


 




 その後。昼休みが終わるチャイムが鳴り渡ると、4限目の授業である体育が俺を待っていた。


「っげ!?」


 俺は思わず漫画やアニメのキャラが言うような

言葉を言ってしまった。


 だって仕方ないよね。なぜなら体育の担当教師が‥‥‥


「お前たちさっさと列になれ」


天下のくそじじい。雷鳴先生だからだ。


「さて、もうすぐ能力調査が行われることは朝聞いたはずだ。能力調査がある月は主に身体能力とスキルの強化メニューを行ってもらう。」


 そういえば俺のスキルってなんだ?ここにきてまだ一度も確認してないし発動してないな。

 魔法と同じで手足を動かすように発動できるのかと思ったけど、今までそんなイベントに遭遇したことがない。


「では名簿番号が奇数の生徒は肉体強化メニューを団体で、偶数の生徒はスキル強化メニューを各自

行うこと」


 まぁとりあえずクラスメイトもいるしあまり派手なのはやめてほしいところだな。


「あーあと。涼太お前どうする?」


「ん?どうするってなんですか?」


「いやお前体育の時はいつも瞑想するとか言って

グラウンドにマット引いてやってるだろ?今日もそれか?」


 瞑想?転生前の俺はなんのスキルだったんだ?集中すれば強くなるとか?

 えぇそんな変なスキルかよ。もっと目立たないで高性能なスキルがよかったな。


「まぁー何してもいいがいつもみたいに迷惑行動をするんじゃないぞ。今度したら休学処分も考えてるからな」


 いろいろとこれからだってのに、それは勘弁ですよ先生‥‥


「せんせー」


「なんだ小林」


「涼太はそう言った行動を金輪際しないと誓ったので信頼してやってください。ね?りょーうーた?」


「もしやったらわかるな?」という目をこちらに向けてくるので「当たり前だ!」という意味を込めて

ウインクしてやった。


「そうか‥‥やっと反省したんだな。自分の運命にしっかりと向き合うその姿。先生すごいと思うぞ」


 先生はそういうと拍手をし始めた。悪行やめたくらいで賞賛されるとかどんだけ迷惑かけてたんだよ俺。でも運命ってなんだ?いくらなんでも大袈裟すぎる。


「では各自、自分の強化場所に移れ」


「はい!」


元気よく返事をすると駆け足で移動していった。


「さてと、俺はもちろんこの時間にスキルの確認

だな」


「そういえばスキルってどうやって確認するんだ?」


 本来ならば子供の頃から徐々に自覚したりとするのだろうがなんせ俺は転生者だ。16歳で生まれたのも当然なのだ。自分のスキルを知る術がない。


「とりあえず先生に聞くか」


 俺は先程少しだけ、ほんの少しだけ評価が上がった雷鳴先生に聞くことにした。


「先生」


「三矢か。どうした」


「俺、もう一度自分のスキルと向き合ってどうやったら強くなるか探究したいと思うんです。」


「涼太‥‥そうか、分かった。だが本当にやるのか?」


「え?あの‥‥スキルの確認って危険が伴うものなんでしょうか?


「ん?いや別に危険も問題も何もない。ただ‥‥」


「ただ?」


「これ以上追及するのは酷か‥‥わかった。だが何度やっても結果は同じだからな」


「え?あ、はい。」


 そう言って雷鳴先生はその道具を渋々貸してくれた。


「使い方は前も言ったがここの円に手を広げるように置いて青いボタンを押せば装置が起動する。そうしてしばらくすると色のついた光が現れると、静かに光は消えていきスキル診断終了となる。今後ここの液晶画面にスキルが文字として浮かび上がってくる」


 なるほど、意外と簡単だな。


「ありがとうございました!」


「あぁしっかりな、なんせお前はスキルが———」


 俺は先生の後半の部分の言葉を聞かずに早々と野球部が使っているであろう屋根付きベンチに向かった。


 さぁ、果たしてどんなスキルだろうか。


 この学校の制度について佐賀先生から聞いた時、その時点をもって俺はこの学校でのどのようにして

生きていくか決めていた。

 それは平穏に目立たず学校生活を送り卒業すること。そもそも俺は異世界でマスターハンター、無限に狩る者なんていう肩書きが付いちまったからあんな目にあったんだ。またここで無双して異世界で起きたような事の‥‥‥二の舞はごめんだ。


 あんな、あんな思いは————痛みは味わいたくない。


 涼太は自分の唇を噛み鉄の味を噛みしめた。


 さてと、やるか。


 装置をベンチの横にある机に置き、左手を円にかざすと青いボタンを右手で押した。すると円周が光輝きだし、眩い光は段々と赤くなり始める。


これ、大丈夫なんだよな?


 もしスキルがすごかったりして目立つことがないようにクラスメイトや先生からは見えない位置で装置を起動させているため気づかれることはないだろうが、赤く光出した円周の光は段々と濃くなりその内、もはや赤ではなく漆黒とも呼べるような色付きになってきた。


 光の輝きは段々と落ち着き元の状態に戻っていった。右手で機械の底に触れてみた——————


「あっっつ!」


 とてつもない高熱を帯び、触れる状態ではなくなっていた。そこからは微かに煙が出ている、まさかこれは壊れたか?

 いや、一度使うと壊れるものかもしれない。あまり変な想像はやめようっと。


 すると突然、左手の甲に何かが浮かび上がった。歯車?いや、太陽?日本地図で言えば工場を示すあの地図記号を少し改造したような絵が浮かびあがってきた。


 その絵から文字が映し出されるのは己のスキル。


 黄色い文字で浮かび上がった文字はたしかに己のスキルを表していた。


 けど。


 これが、俺のスキル、なのか?





 自分のスキルを確認した俺は、ちょうど他のみんなも強化メニューが終わったそうで地面に寝そべっている者や息を切らしている者が多い。

 きつく雷鳴先生にしごかれたのだろう。


「よぉー、涼太。お前はまた瞑想してたのか?」


 体力を消費してぶっ倒れているものが多い中、この男は既にもう息を整えており、体力の余裕を見せている。


「坂田か」


「竜平でいいぜ」


白い歯を見せて笑う姿はまるで好青年。


「竜平、お前は疲れてないのか?」


「あぁ、どっちかっていうと剣道の強化トレの方が体にくるぜ。」


「慣れってやつか?」


「んま、そういうこったな。」


 体を見てわかる。隆起している胸筋や膨れ上がった足の筋肉。岩でも入っているのでは?と疑いたくなる肩。こいつはやべぇな。異世界だろうが現実だろうが敵に回したらダメなやつだ。殺される。


 和真の件が最悪の形で幕を下ろしていたらと思うと背筋が凍り始める。すると何やら機械を持った雷鳴先生が体育器具庫らしき部屋から出てくる。


「おいお前ら、試しに今の自分の握力を測っておきたいやつは測りに来ていいぞ。」


「俺やります!」


 坂田はすぐさま手を挙げた。すると同時に疲れ果てていた連中も調査絡みになると目の色を変えて起き上がり列に並びはじめていた。

 一人一人が順々に測っており45から50台が多い中、竜平は81とぶっちぎりの高記録を叩き出していた。

 ちなみに和真は中の下である40だった。そのうちにスキル強化組も帰ってきたのでそのまま授業は終わった。


 俺は竜平と和真と帰ろうとしたが雷鳴先生に測っただけなんだから片付けぐらいしていけと言われたので文句も言えず片付けをしに向かった。 

 壊れかけたスキル診断装置は器具庫の奥にしまった。バレて万が一クラスに迷惑かけました!なんてことになったら洒落にならないからな。


「ん?これはさっきの握力計‥‥‥」


 視界の隅に先ほど龍平たちが使用していた、握力計が目に映った。






 学校も1日が終わり生徒が各自寮に帰ったであろう時刻である夜21.00。夜の学校では毎週当番によって決められた先生が校内の鍵が閉まっているか確認しなくてはいけない。


「全く、なんで私が鍵が閉まっているか確認しないといけないのよ?残業よ残業。これがサービスなんておかしくない?」


 涼太や李亜達の担任である佐賀が今日の鍵閉め当番であった。


「女子更衣室もよし。あとはえーと、体育器具庫ね。これを確認すればおーわりっと」


 ガチャン。と不愉快な音を鳴らしながら扉が開くと、佐賀の表情が歪む。


「嘘でしょ、なんで開いてるのよ」


 これを確認すれば即帰れると思った佐賀は落胆し、恨みを持った目つきでここを最後に施錠の担当をした人を確認した。


「三矢あいつか‥‥‥ま、あいつならやりかねないか」


 片手で顔面を抑えると、大きくため息を吐く。そうして意を決すると重々しい扉を開いた。


「本当に古びた倉庫よね。金は潤沢にあるのだからこういうところにこそ使いなさいよ。ま、分校って理由でそんな金はないとか言われて終わるのでしょうけど、ん?」


放置されたかのように棚に置かれた握力計が佐賀の目に入った。


「三矢あのガキ————ッ!!全くもう!仕事を増やすなよ」


 普段は冷静な佐賀もこういう場面ではつい取り乱してしまう。

 そしてこの後、冷静ではいられなくなるような衝撃が佐賀を襲うことになる。


「はぁ—————え?これって」


 分校そして本校の握力計は一般的に知られている矢印型の針が0から120まで回るものではなく、超人の身体能力を持った者でも正確な調査が行われるように開発された完全なデジタル型であり、手で動かしたりして調査を誤魔化せないようにできている。


 だからこその正確性。だからこその衝撃。


 あらゆる感情がたかぶると、佐賀は表情筋を緩ませた。


「これをあの子が?でも‥‥フフフだとしたらとんでもない化け物じゃない。分校なんかで収まるそれじゃない。来週の能力調査が楽しみになってきたわね」


 スマホを取り出し写真を撮ると、三矢涼太のデータを画面に表示させた。


「こんな劣等生君の振りなんかして、案外ゲスな性格してるじゃない。フフフ三矢涼太‥‥か」


 握力計 159.8 kg


 そして器具庫の暗闇の中、光輝くスマホの液晶画面には1人の生徒の個人情報が表示されていた。

    

 三矢涼太 入学審査テスト結果 

           学力 42(100)

         身体能力 39(100)

 スキル価値及び応用的な力 — (100)


※スキル無所持のため調査不可能。




   

      



       

 

 

 

 

 




















 





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