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第5話 能力調査

  〜宣誓〜   三矢涼太


いきなりですまないが少し考えてほしい。


 もし君の友人、家族、あるいは恋人がこんなことを言ってきたらどうする?


「さっき人を殺してきた、と」


 今すぐに出る答えは警察に連絡、あるいはその人に情が移り警察にバレるのが時間の問題だと思っていても匿う。またはその人を一生懸命諭す。こんな解答が多いのではないだろうか。


 しかしそれは今落ち着いている状態こその答えであって、実際の現場での判断が同じになるとは限らないのだ。


 パニックになり発作を起こす者やいきなりの告白に冷静を保てず、その場で怒鳴ったり、泣き出したりする者もいるかもしれない。


 つまりは人間という生き物は冷静である時は正しく根拠ある行動を当たり前のようにと語るが、いざその現場に直面した時はその時の感情と状況が全く異なるため、正しく根拠ある行動が取れなくなる。


 話が長々となってしまい申し訳ない。


 ただこれだけは覚えといて欲しいし、覚えていて損はない。


 今、信頼しきっている人が君の周りにいるのであれば、それは己の中で都合よく構成された人間だ。


 その人が「絶対に〇〇をしない」と断言するのは浅はかであり、愚かであるということ。これだけは忘れないでいて欲しい。


それはどんな場所でも変わらない。例え住む世界が違っても。


 これは「あの時」自分の胸に深く刻んだ

    


    俺の、三矢涼太の”宣誓”である。


 



 時刻は放課後。学校が終了し、各々の生徒が帰寮していた。道中校内の売店による者もいれば早々と郊外に出て、カラオケや娯楽施設に立ち寄ろうとしている者も多い。

 そんな青春の1ページを作ろうと励んでいる若者たちもいれば、時間を無駄にしてしまう者も残念ながらいるのだ。


 そう例えば、俺のように上半身を包帯ぐるぐるにされてミイラになる者も赤木高校には存在する。


「と言ってもミイラになるのは俺くらいだろうな」


 保健室のベットに仰向けになり、真っ白な天井を見つめながら涼太はぼやく。


「ん?なんだって?」


 購買で買ったメロンパンを頬張りながら、とぼけ顔で和真はこちらを振り向いた。


「なんでもねぇよ。ってか、お前までここに居ていいのかよ?そろそろ帰らないと門限じゃねぇの?」


「あぁそのこと。大丈夫だよ、だって涼太をここまで運んだのは僕だよ?先生には寮に帰るまでしっかりと介抱するって言ったしね」


「そうか、悪いな、なんか」


「気にすんなって、というかあやめのスキルをモロに食らおうとするなんて涼太も命知らずだよなぁ」


 正直痛みよりも衝撃の方が確実に勝っていたため心なしかそこまで痛くはなかった

 まさかここでも魔法が使えるとは、いやここではスキルというのか?だとするとここは異世界なのだろうか、建物や自然環境と言ったものは明らかに日本‥‥現実なのにスキルと言った概念がある以上簡単に現実と決めつけるのはできなくなってきたな。


「なぁ涼太」


「んー?なんだ?」


「下半身は平気なんだよな?」


「まぁ頭から突っ込んだからな。あんまり腰から下に痛みはないな」


「歩けるんだな。なら寮に帰りながら話さないか?」


「ん?あぁそうだな帰ろう。門限破ったら男じゃなくなるしな」


 あのギャル女は本気でやる口ぶりだったし、何よりスキル紹介がてらいきなり殴ってくるような奴だ。冗談ではなく本当にやりかねない‥。


「あははっそうだな。早く帰らないとやばいな。

それじゃいくか」


 俺たちは校舎を出ると、そのまま徒歩8分程度で着く寮に向かった。

 外はすっかり黄昏色に染まっており、虫の鳴き声も風情ながらに聞こえてくる。


「しかし涼太は本校のこともクラスメイトのスキルのことも全く知らなかったなんて、ちょっとびっくりしたというか引いたよ」


「そうだなー。あんまりクラス連中と関わることもなかったし。こうして話せたのも自分が変わるいいきっかけになったのかもな」


 異世界からの現実転生。少しずつ環境に慣れてきたからか、演技も中々板に付いてきた。


「ま、あやめは気のいい奴だから涼太も仲良くできると思うよ。それに今日殴られて分かったと思うけどあやめは学校でもトップクラスの実力を持つからね」


「へぇそうなのな。それでも本校にいけないってことはよほど本校連中は凄いってことなのか?」


「あやめが言ってただろ?本校と分校はすごい差が

あるって、だからあやめでも今のレベルじゃ本校編入とはいかないだろうね」


「なるほどな。ちなみにどれほど差があるのかわかりやすく説明してくれないか?」


和真は少し考えると地面の小さな石を拾い上げた。


「これが分校だとするよ?」


「あ、あぁ」


 手を使ってこれくらい〜みたいな感じで教えてくれるのかと思ったが、まさかの物で比較してくれるのか。

 まぁわかりやすいこの上ないから助かるが‥‥石?


「本校はあれ、かな」


 和真が指を刺したのはちょうど今通りかかった偉人?と思わしき銅像だった。


「は?何言ってるんだお前。もう少し真面目に答えて欲しいんだが」


 俺は苦笑いをしながら和真を見つめるが至って

和真の顔は冗談を抜かすような顔ではなかった。


「ま、マジですか?」


「そうだね。これくらいの差はあるよ」


「この石は3センチ程度の大きさだよな?でもって

この銅像2メートルはあるぞ?」


どれだけ化け物高校なんだよ、紅桜高校ってのは。




 しばらくして寮に着き、俺は久しぶりの飯にありつけることができた。

 やはり飯は美味いなと幸福の余韻に浸りながら部屋に戻り、そのまま寝てやろうとうたた寝しようとしたその時。


ブーブーブーブーブーブー


ん?


 机に置いといたスマホからバイブ音が鳴った。まさか、またあのジジイか!?


 今俺のスマホには雷鳴先生と言ったジジイのものと和真、そして和真が担任だと言っていた佐賀先生の三つが自分の持っている連絡先である。

 

 素朴な疑問だが転生前の俺はボッチだったのかよ‥


 和真は先寝てるのでゆっくり風呂入ってろと伝えたのであいつではない‥‥となると?

 恐る恐るスマホを確認すると、そこには不明と書かれた文字がスマホには表示されていた。

 不明?誰だ?どっかのバカの悪戯かなんかか?まぁ放置すればそのうち消えるだろ。そう思い俺は寝床に着いた。


ブーブーブーブーブーブー


‥‥‥


ブーブーブーブーブーブー


‥‥‥


ブーブーブーブーブーブー


いやいや、しつこすぎない!?


 流石にうるさいので電源を落とすことにしたが、最初から電話を拒否するか電源を落とすかなりすればよかったのだ。


 よし、これで静かになったな。


「あれ?涼太。寝てるんじゃなかったのかい?」


「寝るぜ。少し悪戯されてな」


「悪戯?」


「なんでもねぇよ、それより寝ようぜ」


 時刻は10時を回っており一般的な高校生が寝るのはまだ早いと思ったが明日は慣れない早起きだ。

 夜更かしなんかして学校で迷惑かけるようなことをしたら‥‥いやいや想像するだけでゾッとするわ!





「りょーたくん!」


 登校していきなり美少女に話しかけられるとは今日はいい日になりそうだな。


「なんだ、えーと李亜さん」


「李亜でいいよ!それよりも大丈夫だった?」


「ん?あぁ昨日のことか、大丈夫だよ。少し帰って痛んだが大した怪我にならないで良かった」


 最初は気を使って怪我一つしませんでした!とでも言おうと思ったが、これから信頼を預ける相手に嘘は言えないしな。


「へぇ、大したやつじゃん!あたしのスキル食らって怪我で済んだのここじゃああんたくらいだよ」


 怪我で済んだ‥‥は?それ以上の最悪の事ってなに?


「はは、昔から体の頑丈さには自信があってな」


 異世界じゃあ金がない時に食い逃げして店主に捕まってよくリンチにされてたのがここで生きるか。


「だったら涼太!!今度あたしの————ッ!」


「結構です!!」


「まだなんも言ってないじゃん!」


「どうせサンドバッグだろうが!あんなパンチ食らいまくってたら死ぬわ!骨も残らねぇよ!」


「違うわ!サンドバッグじゃなくて氷像!」


氷像だぁ?なんだまたスキルの話か?


「氷像ってなんだよ」


「あやめはスキルとパンチの組み合わせでバキバキにするのが好きなんですよ」


怖っわ!!サイコじゃん。フツーにサイコじゃん!

あと何平然と李亜ちゃんはバキバキにするとか言っちゃってんの!!


「そうねー、あれを盛大に壊した時の快感はえげつない!」


 なるほど今わかった。李亜ちゃんを汚染してるのはコイツだ、絶対そうだ。仕方ない、ここは俺が正義の鉄槌を下して————


「それで?氷像になるの?ならないの?」


「いやまだ言ってんのかよ!わかったよ!答えるよ!NO!答えはNOだ!って言うか氷像ってなんだよどうやって作るんだ?スキル?」


「正解です。私の部活仲間にあすはって子がいましてね。その子のスキルが冷凍なんです。だから、たまにその子の力を借りてあやめのストレス発散に付き合ってあげてるんですよ」


「へぇー、冷凍のスキル。それはまた強そうだ。っていうか。スキルの無駄遣いだろそれ。」

 

「スキルは使ってこそ意味があるっての!」


 どうやらこの女の脳は筋肉に侵されているらしく

まともな考えができないようだな。かわいそーに。

 

「あ、そろそろ時間よ。早く席に着きましょ」


「そうだね。」


 ブーブーブーブー

 

 ん?電話?


 すぐさまスマホを見たがメールだった。一体誰からだ?


件名なし。 「のにてらかなのちかい」


 は?意味がわからん。迷惑メールか?


 ガラガラガラガラと、音を立てて教室に。


「みんな、席についているかしら」

 

 扉を開けて入ってきたのは黒いジャケットに白いカットソーに長細い美しい足を強調させるストッキング、煌びやかな黒いスカートを纏っており、いかにも大人びた女性だった。


「さてと、今日は今月末に行われる能力調査について説明するわよ」


 両手に抱えたプリントを6列順に配布した。

 

「みんなもう分かっていると思うけど、中学時代のような生易しいものではないことをしっかりと理解しておくことね。そして、結果によっては本校昇格など各生徒の調査結果は今後の学校生活に大きく影響を及ぼすことになるわ」

  

 周りを見渡すと一言一句先生の言葉を聞き逃さまいと耳を凝らしている。

 本校進出への熱意が伝わってくる。


「では、これからホームルームを始めると共に2100年度第一回赤木高校一学年能力調査の説明を始める。質問は後で受け付けるので途中で私の話を遮ったりはしないこと。もし私が質問をした場合、その生徒のみ答えることを許すわ」


 なんて理不尽な教師だろうか。異世界でもそうそういないぞ、と呆れていると。

 先生は手に持っていたデバイスで3D型の画面を黒板に映し出した。

  

「この表を見なさい。まずは身体能力から順に調査していくわ」

  

「内容は握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、20mシャトルラン、50メートル走に立ち幅跳びで最後にソフトボール投げの8項目よ。」

 

なるほど主に一般的な学校で行われる体力テストと同じなのか。

  

「一つ10点満点で換算し、トータル80点計算よ。尚平均点の半分未満の数値を出したものは即退学とする」

 

「は?」「退学?」「冗談でしょ」

  

 周りから不満の声や疑いの声、中には顔を青くして身を震わせる者もいた。

  

バン!

 

 先生が勢いよく手で机を叩くと、一瞬でクラスが静まった。


「言ったはずよ?私が許可しない限りは勝手な質問、私語は禁止すると」


 説明をスムーズなものにするためにわざとつつしめではなく禁止にしたのか。

 

「では続けるわ。次に学力調査よ」


「これは国語、数学、歴史と地理と公民を複合した社会、そして理科と最後に英語。この5教科で調査する。これも身体能力調査と同様に各教科そして5教科の総合得点が平均値以下の半分の数値は退学よ」


 先ほどではないがクラスに動揺の渦が巻いている

 

「さて、次が最も重要な調査となるわ。それはスキル調査よ。」


 スキル、か。

 

 この調査で俺は後に異世界での魔法と現実でのスキル。これらの決定的な違いを知らされることになるのだが。

 それはもう少し後の話になる。

 

「スキル調査の内容は主に指名試合形式で行われる。まずは簡単にルールを説明するが‥‥例えばそうだな。これはあくまで仮にだが赤田が今回の試験調査で小林と戦うこととする。そして二人は戦った後勝者が赤田だった場合、赤田にはポイントスコアが与えられる。だが、負けた小林は赤田に与えられた得点分だけ自分の得点が失われる」

 

「ここまでで質問はあるかしら」

  

「はい先生」

 

「赤田李亜。何かしら?」


「戦うのは1人につき1試合なのでしょうか?」


李亜がそういうと佐賀先生は唇を吊り上げる 


「いい質問ね。でも、答えはNOよ。」


「NO?つまり一人複数回行われると?」


「えぇそうね。1人1回から3回まで希望することが

できる。もちろん何回戦うことを希望してもいいけど我々教師は平等、公平に対戦相手を抽選するわ。なので誰とやるかはわからないし。もちろん得点の増減もちゃんと行われるわ。スコアについては一回の試合で100ポイントを軸にして増減するわ」

 

「ならもし自身が一回だけの試合を希望していたとしても、複数の相手が自分への対戦を希望していた場合。強制的に3回試合が行われるということでしょうか?」


 先生は首を縦に振ると、質問の意を肯定した。

 

 李亜が聞いたことはとても大きい。

 

 もし聞かずに説明が進んでいたら俺たちは仕組みを知らずに複数回の勝負に巻き込まれていた可能性もあった。


「では次に行くわね」

 

「スキル調査でのルールは調査前日に私から説明するわ。そして全校が‥‥特に分校生徒は気になっている名目。昇格転入について説明するわね」


 あやめの—目の色が変わった—————というかクラス全体の雰囲気が変わった。

 このクラスは本当に本校にいきたいんだな。上に行きたい欲というのは世界も現実も変わらないってことか。

 

「先程の三つの調査。身体調査で80点中70点以上学力調査で500点中450以上、スキル調査での戦闘を3回戦行った生徒のみに限り全勝。これらの条件をクリアした者のみを本校編入として認めることになってるわ」


 「結構厳しくね」    「それなー」

      「でもワンチャン」


 などと言った渋い声や淡い期待の声も聞こえてくるが先生はその程度の発言なら目を瞑るそうだ。

  

「あーそうそう。ちなみに戦う相手は完全抽選だし、本校の生徒も混じるわよ?」

 

 この一言でクラスの雰囲気は一気に最悪に。

 そして本校編入への枠は本校生徒を蹴落として自分自身で奪い取れというサインに他ならなかった。


 それでもクラスはあやめの言葉で士気を高め、やる気に満ちていた。

 

だが俺は見逃さなかった。


この発言の直後の佐賀先生の意味深な笑み。

 

そして何よりも隣の美少女の目が説明開始時に比べて確実に無気力なものになっていることに。


  

  


 




 

   

  


   

   

  

   

   

 






 






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