第2話 厨二病末期
異世界から現実に転生してしまった俺、三矢涼太は今何をしているんだろうか、金もなく食べ物もなく路頭に絶賛迷子中だった俺はなぜ、今こうしてまたこのじじいと向かい合って座っているのだろうか?
———それは遡ること1時間
さーてとこれからどうするか。金もましては食べ物もない、内面だけで見たら誰がどう見てもホームレスそのものだろう。服は制服だから見えないだろうが、服もこれしかないからそのうち汚れて悪臭がし始めて本当にホームレスになるな。
「とりあえずここがどこか。それからだな、ここが自分の地元とも限らないし、ましてや地元だとして
俺が転生している間に長い年月が過ぎてるはずだから死んだことにでもなってるだろうしつくづく
この状況は不味いな」
最悪今日はベンチで一晩過ごすかになるかもしれない。そうささやかな覚悟を決めていると、懐かしさを感じさせられるスマホのバイブ音が響き渡る。
「ん?」
というか‥
「これ、俺のポケットの中か?」
なぜ持ってるんだ?と疑問を感じるも、俺はすかさずスマホの液晶画面を見つめた。
「らいめい?先生?」
画面には雷鳴と見慣れない苗字が表示されており、とりあえず出ないわけにもいかないのでスマホをタップした
「はい、もしもし」
反射的に言ってしまったが”もしもし”か。なんか懐いな。
「おい、三矢お前今どこにいる?」
この声あのくそじじい!あいつだったんか!!
「今ですか?今はーーー」
そう言って辺りを見渡すと、葛西神社という案内標識を見つけた。
「葛西‥というところにいます」
「か、葛西だとぉ!?お前はどこをほっつき歩いてるんだ!」
先ほどの件でとてもとても聞き飽きた怒鳴り声が俺の耳の中に響く。
「どこって、だから葛西ですって」
「そんなことは聞いてない!なぜ寮の門限を堂々と破ってそんなところにいるんだ馬鹿者!」
理不尽なじじいだ。どこを聞かれたから答えてやったまでなのに、、、ん?寮?
「あのすいません寮?寮があるんですか?」
「何を寝ぼけたことを言っている!我が校は全寮制だぞ!お前だけ自宅通いな訳あるか!」
なんでことでしょう。路頭に迷っていた俺が奇跡的に無償で泊まれる宿屋を見つけましたよ。これも普段の行いの賜物なんだろうか。ありがとう!今までの自分!ナイス!俺!
「お前は今日は夕食抜きだ!!帰寮したら真っ直ぐに俺の部屋に来い。いいな!」
ツーツーツー
こうして今に至る。幸い寮は学校に隣接していたので簡単に見つけることができた.じじいの説教も居眠りの件で耐久がついたのかあっという間に感じた。こうして、俺はやっと床に着けると思いじじいに呆れながらも自分の部屋の前にいるのだが。
「桐坂和真?」
俺の名前が書かれた木板にもう一人の名前が書かれている。
「おいおい、同部屋かよ。」
勘弁してくれよ、俺は一人の部屋がいいんだ!とは言っても泊まらせてもらうだけありがたいから何も言えないか。そう思いながら部屋を開けた
「お、来たね、涼太」
ん?なんだいきなり、俺の名前を知ってるのは分かるが何故こんなフレンドリーに‥
「遅かったね、また雷鳴先生のお叱りを受けてきたのかな?」
「あ、あぁ。まぁな」
返事をしないわけにもいかないので空返事をしてやった。
「そろそろ反省しろよ?連帯責任にでもなったら困るのはお前だけでなく同室である僕も困るんだから」
確かにそれは申し訳ない。というかもうしない、てか俺はこんな非常識なキャラじゃないし、転生前の俺はどんなやつだったん‥‥‥ん?まて
「どうした?涼太?そんなアホみたいな顔して」
転生前の俺は門限を守らないし、反省しないクズ野郎だったってことになる。ということは俺が転生する前に三矢涼太は既にこの学校にいたってことなのか?わからん。判断材料が圧倒的に足りなすぎる
「おーい」
「あ、悪い悪い」
ならこいつに少し聞いてみるか。
「なぁ、えーと桐坂。俺ってそんなに反省しないやつか?」
「ん?あ、あぁまぁそうだな。食堂の食べ物をくすねてはバレて説教。杉下の宿題の名前の欄を三矢涼太に変えたらバレて説教。こんなにも不祥事を起こして怒られてるのに門限を守らずにまた怒られるなんて反省のはの字も見られないよ」
なんだこの救いようのないバカの所業は。食べ物の件はまぁまぁまぁ。うん可愛いよ、まだな?宿題はアホすぎるだろ。どこをどうしたらそんな考えが生まれるかな?
「‥‥‥今度こそ絶対に100%確実に有言実行してもう二度とこんなことしないと命を賭けて誓います」
今の気持ちをありのまま桐坂に伝えた。
「う、うん。た、頼んだよ?」
少し引いている気がするが気のせいだろう。気のせいだ。
「それにしてもどうしたんだい?僕の呼び方が変わってるけど」
まさか前の俺は普通に苗字も呼ばないほどクズだったのか!?
「前は和真だったのに」
「あ、そうだったな!悪い悪い!あははは」
そうか俺は基本的に名前呼びなんだな。異世界では名前呼びが主流だったけどそれはこっちでもそれでいいのか
「とりあえず寝ないかい?明日も早いよ?」
「そうだな。俺も疲れたから寝るわ」
「あ、その前にっと」
「ん?」
俺は両手を天に掲げると、高らかな声で呪文を唱える。
「シャワーズ!!」
やっぱり体を潤さねぇとな。汗だくで気持ち悪かった今には最高の魔法だぜ————と思っていたのだが、何故だ?水が出てこない
「‥‥‥あれ?」
「え、えーーと、りょ、涼太」
目の前には完全にドン引きしている和也がこちらを凝視していた。
「お、お風呂はどこだったかなぁ!?」
「え?う、うん。えーと、そこのドアを開ければすぐに」
「あ、そっか!あははー、ありがとー」
俺はバスルームに入るなり、小声で小さく呟いた。
「やっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまった やっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまった やっちまった!!!!!!!」
最悪だ!最悪の事態だ!異世界では普通に!あの魔法で!体を瞬時に清潔にできるから!すごい重宝してた魔法だったから!いつも使ってたから!つい!つーーい!言っちまった!
恐らく和真には俺が不治の厨二病を患っていると思われたであろう!なんてことだぁぁぁぁぁぁ!!
ーー風呂で後悔し続けて30分ーー
そろそろ出るか、いやーでもなぁ、どんな面して話せばいいんだよ!考えろ!考えろ!考えるんだ三矢涼太!今こそ今までの経験をフルに使ってー
「涼太ー」
「ひいっ!」
「そんなにビビるなよ。あのさ、気にしてないから」
「え?」
「お前が何しようが俺は蔑んだり、笑ったりしないよ」
「か、和真、お前ってやつは」
「だからさ、気にすんなよ?」
「おれ、先寝てるから!」
「和真、あぁ、和真!俺が日本の国王。いや、ここでは首相か。首相だったら、お前に国民栄誉賞を
1日に10個授与するよ」
涼太はここにきて初めて心があったかくなったの
である。だが、これから涼太に待ち受けることを考えるとこの時が1番平和だったかもしれない。