第13話 本気の闘い—涼太VS美桜—
周知の最強VS秘匿の最強の闘いが。
今、火蓋を切って落とされた。
「ハァァァァァァァ」
声をあげた美桜は、たった一回の踏み込みで俺の
懐にまで辿り着いた。
体育館中に地面が割れてもおかしくないような轟音が響く。
「へぇ。これを防ぐの?鳩尾を狙って即KOさせるつもりだったけど、流石に無理ね」
高速で撃ち込まれた拳を手のひらで覆うようにして受け止める。
信じられないような痛みがジンジンと骨から伝わってくる。
沈黙が続くと美桜は一旦距離を取る。
「先行は私だったわけだし、次は貴方からどうぞ?」
「あぁ、じゃあ行かせてもらう」
流石と言うべきか、あの細腕からは想像ができないような、ひどく重い一撃の痛みが今も片手に響いている。
そして俺は彼女と同じように一歩一踏みで美桜との距離を詰め、拳を振るう。
攻撃は命中。かと思われたが。
美桜は斜め後方に下がり、回避を試みるが涼太から繰り出された拳は頬を掠り、微弱な痛みの余韻を感じながらも美桜はすぐさま左足の回し蹴りで反撃に出る。
「—————っな!」
美桜は驚いたような声をあげる。
俺はすぐさま左手で掴み対応し、掴んだ足を勢いよく場外方向に投げようとしたが、片方の足で地面を蹴り、体を浮かせて飛び蹴りを脇腹に食らわされた。
「流石に痛いな」
「これでも。いい蹴りが入ったと思ったのよ?鍛え方が尋常じゃないわね。蹴ったこっちの足が痛むんですけど」
場外のやつからしたら一蹴り入れた美桜が優勢かと思うだろうが、圧倒的までに俺と美桜では体の鍛え方がちがう。
俺のスキルは肉体にも影響するので異世界でのチート筋力パラメーターは健在だ。
「悪いが痛みが落ち着くまで待ってやるほどお人好しじゃないんっだ!」
俺は試合を終わらせるつもりで美桜との距離を
一瞬で詰めると、先程の比じゃないスピードと重さで得意のローキックをぶちかました。
「へ?ッッづ」
予想を遥かに超えた蹴りを脇腹に直撃したことに
よって声が詰まり、勢いよく地面に叩きつけられる。
「んっッック。ハァハァハァ」
美桜は膝をつき、息を乱しながら痛みと向き合う。
「美桜様!」
これには会場も驚いたようで美桜を心配する者や
「んだよ‥‥あいつ、スキルなしなのにつえぇ」
俺を見て、驚嘆する声も聞こえる。
まぁ、スキルがバレるよりも喧嘩が強い、なんてレッテルを貼られた方がましだ。元々問題児なんだし今更だよな。
「美桜様!刀を使わないのであればせめてスキルを!」
スキル、か。どんなものか知らないが、それを使われたら負けるな。
対抗手段として魔法があるがあまり勘も戻ってないし、調べると異世界で使える魔法がここで使えないという縛りもあることが分かった。
そんな限りが少ない状況で魔法を行使するのは、俺としてはリスクが高すぎる。
だがそんな中、美桜が放った言葉は予想を反する。
「ふぅ。いいえ、使わないわ。私は彼と、相手と
同じ土俵で戦って勝つ。手を使えないのであれば手を、を使えないのであれば足を、スキルが使えないのならスキルを。それが、私が昔から決めてる”決意”だから」
「美桜様‥」
「かっこいいな。だがそれで負けたらどうするんだ?結局全ては勝たないと意味がないと思うんだが?」
「負ける?ないわよそんなの。だって勝つもの」
「即答か‥‥悪いな、野暮な質問だった」
「いいえいいわ。でもそうね。貴方が本気を出すのなら、私も勝てると言えなくなってくるわね」
「ん?何を言っているんだ?俺はさっきから本気
だ」
「いいえ、貴方はさっき、私に距離を詰める時とは相成ってスピードは減速してたし、攻撃も心なしか全力だと感じなかった。 ほら、人って相手が全力かそうでないか、勝負や対局してる時って敏感になるものでしよ?」
想像以上だ。最初の攻撃を避けた瞬発力と判断力。攻撃とスピードを緩めたと判断できた推理力。
闘いの中で必要とされるものを完璧なまでにマスターしている。
「ここで俺が本気だって言っても信じるか?」
「いいえ、信じないわ。というか認めるのね。‥‥何故?どうしてそんなことをするの?」
「こっちもいろいろ事情があるんだ。あまり詮索しないでくれると助かる」
「実力を隠す事情?ふーーん。そうやって馬鹿にしてるといいわ。痛い思いすることになるから!」
途端に距離を詰めようと駆け寄ってくる。だがあいつのスピードは先ほどに比べてかなり落ちている。ダメージの蓄積によるものか?
だが俺は油断などしていなかった。瞬時に消える美桜を見逃すその瞬間までは。
同時に直後、頸に電撃が走るような衝撃が走る。
「流石です!美桜!」
激励する沙織を横目で見ながら後ろの事態を確認する。
美桜の手刀の先端が俺の首に突き立っている。
「これも、効かないわけ?」
「いや、かなり効いた」
本音だ。
「嘘よ。表情一つ変わってないじゃない。」
「顔に出ないだけでマジでいてぇよ。えぐいなお前。JKがこんなことできるなんて知らないぞ。」
いや、戦うJKがいる時点でこの世界はおかしいか。
「そういう貴方こそなんなの?いちいち攻撃するたびにこっちの骨が折れそうになるのは気のせい?」
「頑丈さには自信があってな。」
「頑丈って‥‥まあいいわ。」
美桜があきれたように言うと話を変えてきた。
「ねぇ、やっぱり本気でやりましょ?」
「だから事情が—————————」
俺が言い終える前に美桜は遮ってきた。
「その事情。よかったら教えてくれないかしら?人の事情に土足でずかずかと入り込んでくるのは失礼だと思う。それは分かってるわ。でもそれ以上に私はあなたの本気を知りたいの。私が出来ることがあるのなら、手伝うわ」
こう言うのを好戦的と言うのだろうか。美桜の目は至って真剣そのもの。誠意と優しさが織り混ざっている分、断るのが辛くなる。
だが悪い。越えられないラインというものはどうしても存在する。
「悪いな。お前がどうにかできるほどの問題じゃないんだ」
「そんなのわからな—————」
今度は俺が言葉を遮った。
「無理だ。絶対に。分かってくれ」
「そう。まぁ、今回はいいわ。次の機会にしてあげる」
いや、こんな有名人と関わるのは今日限りにしたいもんだ。
「その代わりと言ってはなんだが、次でお前を倒す。今までよりもずっと力を込めて、な。これでいいか?」
美桜は一瞬驚きの表情を見せるが、それは徐々に興味ある笑みへと変わっていく。
「ふーん。大した自信ね。いいわ。それ相応の攻撃を仕掛けてくるってことよね。受けて立つわ!」
手を胸に当て、申し出を受諾する。
「もしもだ、これに耐えたのなら。それ以降の闘いは全力を出してやる」
そん時は逆に俺の興味が湧くだろうしな。
「本当!?いいわ。俄然やる気が出たわ!」
そして美桜は一回深呼吸をした。
「私が負けたら同学年の中で初めてあなたを好敵手と認めるわ三矢涼太」
「俺が負けたらお前に永遠の忠誠を誓ってやるよ。
紅葉美桜」
互いの名前を呼び合い、二人のただならぬ気迫と気迫がぶつかり合う。
俺はここにきて、この変わり果てた現実に来て、初めて身体能力の真骨頂を見せる。
地面を蹴り、動きを読まれることなく美桜の懐に入ることに成功しだ俺は、鳩尾に膝蹴りを喰らわした。
「クッ。はァ!」
かなり強めのを与えたが美桜は意識を保ち、左足で俺の顎を捉えると天井に向かって突き上げた。その技は俗にムーンサルトと呼ばれる。
その剛技をバックステップでかわし、再びローキックを喰らわせようと頭部を狙うも直撃したかと思われた蹴りは豪快に空を切る。
膝と腰を柔軟に動かし、姿勢を低くして避けたのだ。
「あっぶないのよ!!!」
荒げた声と共に、鳩尾を捉えた拳は避けられ、涼太の腹筋に直撃する。
「痛っっったっ。」
美桜は文字通り、鉄の壁を殴ったような衝撃に刈られる。
自身が攻撃をしたというのに、あり得ない現状だった。
痛がる美桜に構うことなく、回し蹴りが美桜の顔面に迫るも、左腕を右手で支えるようにして涼太の鋭い蹴りを受け止めた。
現在涼太は片足の自由が効かない状態であり、次の攻撃をするにも体制が崩れる。よって、急いで体制を整えなくてはいけない
この刹那の一瞬の隙こそ、美桜が重く、強く、
そして何より最大の反撃ができる絶好の機会だった。
「これっで!どうだァァァァァァァ!」
美桜の渾身の正拳突きが涼太の鳩尾に炸裂する。
拳が腹にめり込み、血反吐を吐いてもおかしくない威力だ。
だが体の頑丈さ、衝撃の受け流し。体術の技術において一枚上手であった涼太を崩すには、あと一歩届かなかった。
「痛っって。強すぎだお前」
腹元を摩る良太を見ると、美桜はニコッと笑い、天井を見上げた。
「あーあ。強いな。上には上がいるんだなぁ。私ももっと、つよく———ならない、と」
直立した状態の美桜がそのまま崩れ落ちるところを両手で掬い上げ、受け止めた。
これでスキルと武器なしかよ。どちらか使われていたら勝負は真逆の結果になっていたかもな。
俺もふんぞりかえってる場合じゃねえな。早くスキルを強くしねぇと。
マスターハンターなんて過去の栄光に縋ってる時間も終わったことみたいだし。




