最高のお仕事
一面の雪景色に覆われた、だだっ広い荒野で大きな荷物を担いで歩く。
歩くたびにザクッザクッと聞こえる音は心地よいリズムを奏でるが、それと一緒に付着してくる白い雪が歩みを妨げる。
数十歩歩いて雪を払い、また数十歩歩いて払い、、、
その繰り返しでうんざりしてくる。
立ち止まって見渡してみても、辺りにある足跡は自分のものただ一つ。休憩できそうな場所などどこにも見当たらないが、そろそろ疲れてきた。
仕方なく、雪の上に荷物を置き、自分もそのまま雪に座る。
座りながら自分がここまで運んで来た荷物を見る。
この荷物を町まで届けるのが自分の仕事だ。
自分の何倍もあるその荷物は、馬1頭ほどの重さである。小柄な体でよくここまで運んできたものだと自分を褒めてやりたいものだ。
「でもなぁ…」
今までも何度か荷運びの仕事をしたことはあった。
だが、多くてこの半分ほどの重さだった。加えて一緒についてきてくれる先輩もいた。
しかし、今回この荷運びを命じられたのは自分だけ。一人前となって初めての仕事でこの重さである。
「はぁ…」
疲れたなぁ…と空を眺めた。
「さてと…」
重い腰を上げ、また荷物を背負う。
この荷物に配達時間は設定されてはいないが、
「届けるならまだ外で活動している人がいないような時間がおすすめだよ」
「特に早朝はおすすめだぞ」
先輩が教えてくれたことだ。
実際、先輩と荷運びをしていた時に何度も早朝に町を訪れたことはあるし、その都度なんとも言えない幸福感も得られた。
だから、今回も是が非でもその時間には町についていたい。
町までそう遠くない場所までは来ているし、時間もなかなかに良い時間になってきている。
「よし、行くか」
そう決意し歩みを進めた。
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何度目かの雪払いを終えて、町についた。
太陽も地面から顔をだしたばかりで時間もちょうどいい。
届ける前に改めて荷物の中身を確認する。
中身がしっかりとあるのを確認して、服についているフードを深く被る。
この周辺の町は中央に大きな広場があり、そこに危険を知らせるための大きな鐘がある。町の住人はこれを取り囲むようにして住居を構えていた。
荷運びの仕事はこの鐘を鳴らして終わりだ。
「ゴーン!ゴーン!!」と鐘を響かせる。
その音に町の人たちが慌てて中央の広場に集まってくる。
集まってきた住人たちは中央にある見慣れない人影をみて、訝しげな表情を浮かべる。
そして、町の長らしき人物が声をあげた。
「何用ですかな…?」
恐る恐るといったその声にこれでもかと明るい声で返事をした。
「荷物をお届けに参りました!!」
「荷物…?」
「これです!」
私はこれまで運んできた荷物の中身を無造作にあたりにまき散らした。
荷物の中身はこの町の元住人たちだ。
その荷物を見た住人たちは思わず悲鳴を上げる。
そして、一斉にこちらを見て身構える。
私はフードを外し、人とは異なる形をした顔を露わにする。
そして、満面の笑みで挨拶をした。
「どうも、こんにちは。」
また、大きな悲鳴が上がる。
ああ…本当に楽しい!
幸福感で満たされる!
やっぱり、この仕事は最高だ!!
私は、緑色の手を眺めながら満足そうに町を後にした。