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1.


 北の砦の朝は早い。


 中でも特に、魔術師部隊の朝は早い。理由は単純、トップであるグウェンが北の砦でぶっちぎりに早起きだからだ。


 魔術師たちの中には、そこそこ不満に思う者もいた。騎士隊より早起きとか意味わからんとか、精神論乙とか、ぶっちゃけグウェンが早起きなのは年齢のせいでは、とか、エトセトラ、エトセトラ。


 だからというわけでもないだろうが、グウェンも最近では、朝の個人鍛錬に若い部下を誘わなくなった。良かれと思って誘っても、相手に迷惑に思われるなら面倒くさい。そんなわけでグウェンは、薬草の世話をしつつ、体の節々に魔力を通わせる柔軟体操のようなものを黙々と一人でやる。


 けれども、そんなグウェンの隣に、小さな人影が並ぶようになった。





「そうですぞー、ライラ殿! 息を吸ってぇぇぇ、吐いてぇぇぇぇ」


「すうううう、はあああああ」


「そうそう、その意気ですぞ! そしてぇぇぇぇ、頭のてっぺんから爪の先まで、もいいっぺん魔力をみなぎらせる!」


「はい……!」


 身に纏うのは動きやすい上下のつなぎで、ヘアスタイルは気合のポニーテール。その正体は、妙に気合の入った小柄の新米魔術師……ではなく、ライラだ。


 先だってのイフリートの分身討伐の折、ライラは改めて、自分の実力不足を実感した。精霊魔術を使えることには使えるが、魔力反動が大きすぎる。この調子では、イフリートの本体と死闘を繰り広げた前世の自分に、とてもじゃないが追いつけない。


 だからライラは、北の砦の魔術師部隊のトップ、グウェン・デフリートに弟子入りすることにした。具体的には早朝と夕方、一日二回の魔力反動を押さえるための特別レッスン。やり方は至ってシンプルで、体内でひたすら魔力を膨らまし続け、魔石に注ぎ続ける。


 魔石は魔道具の核となったり、魔導武器の材料に使われたりする素材だ。良質な魔力を与えることで、より質のいい魔石となる。長く続けることで身体に魔力を馴染ませ、魔石鍛錬もできるという、地味だが一石二鳥な古くから続く訓練法だ。


 訓練を初めて、まだひと月ほど。それでもライラは、体に変化が生まれつつあるのを実感していた。


 まず、魔力反動による息切れや眩暈が落ち着いてきた。最初の頃は訓練の途中で動悸が激しくなり、長距離を駆け抜けたような息切れが出ていたが、今では少し胸が苦しくなるくらいだ。


 それから、扱える魔力量も増えた。もともとライラは聖女エルザの時とほぼ同様の、高い魔力をもって生まれた。しかしながら訓練を行うことで、その魔力をより体内で膨らませることが可能になった。この能力は、もしかしたら前世よりも上がっているかもしれない。グウェンが良い師でいてくれるおかげだ。


 そして何より、ケマリの精霊魔力を借りている状態――超・聖女モードと、ケマリに茶化して名付けられた――で活動できる時間が格段に伸びた。


 ライラが仕上がってきたのを感じたグウェンは、実践のため、ライラを何度か砦からいくばくか離れた森への魔獣討伐遠征に連れて行ってくれた。そこでも結果は歴然だった。ライラは遠征のほとんどの時間を、超・聖女モードを保ったまま動くことができた。


 これでも、まだ足りないとライラは思う。聖女と呼ばれた前世ですら、イフリートを完全に倒すことは出来なかった。残り二体の分身を倒すために、ライラはもっともっと強くなる必要がある。それこそ、『聖女エルザ』を越えるくらいに。


(第二第三の分身の活動限界はあと半年。その前に、彼らは必ず次の手を打ってくる。もっともっと、私も鍛錬しないと!)


「グウェンさん。私、まだ行けます。もうワンセット、ご指南お願いします!」


「よくぞ言われました、ライラ殿。いやあ、骨のある若者を育てるのはなんと楽しいことか。では、さっそく参りましょうぞ!」


「はい!」


 そのままライラは、用意してあった魔石すべての魔力を充填し続けるまで、ひたすら訓練にいそしんだのだった。



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