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1.



「クロード様!!」


 叫んで飛び起きたライラは、目の前に広がる光景にきょとんとした。


(え、どこ?)


 少なくともライラの私室ではない。両隣はカーテンで仕切られていて見えないが、唯一見えている正面に広がるのは木目調の簡素な部屋。清潔感があって、無駄なものがなく片付いていて、白いシーツがはられたベッドが向かいに見える。


 なるほど。ここは医務室だ。ライラが理解したそのとき、何かモフモフであたたかい小さなものが顔面目掛けて飛び込んできた。


『ライラー!! 目が覚めたー!』


「ふぇぶ!?」


『いきなり寝ちゃうからさーー! 死んじゃったのかと思ったよー!』


 声とモフモフ具合から尋ねるまでもない。ケマリである。子犬よろしくまとわりつくケマリは、どうやらライラが目を覚ますまでそばで見守ってくれていたらしい。しばらく好きにさせてから、ライラは改めてケマリに尋ねた。


「ここ、医務室よね。私はどうしてここに?」


『覚えてないの? 君、精霊魔術を使ったあとで倒れちゃったんだよ。ウィルフレドが目を覚ましたのを見届けたあとでさ』


「っ、そうだった! ウィルフレドさんは?」


『大丈夫! っていうか、ほら。ウィルフレドなら隣で寝てるよ』


 言いながら、ケマリは隣のベッドを隠していたカーテンを開ける。ケマリの言う通り、そこにはウィルフレドが横たわっている。傷一つなく、呼吸も穏やかだ。大怪我を負い、さらには魔獣との戦闘で大幅に魔力を削られたから眠っているのだろうが、もう命の心配をする必要はなさそうだ。


(よかった……)


 穏やかなウィルフレドの寝顔に、ライラは胸を撫でおろす。多少無茶をしてしまったが、助けられてよかった。たとえウィルフレドがイフリートの協力者だとしても、その思いは変わらない。


 ほっと息を吐いてから、ライラはケマリを見た。


「森で何があったの? 助かったひとたちは、何か話していた?」


『僕はライラのそばにいたから遠征隊の話は知らないよ。だけど、窓辺に通りがかった小鳥から、森であったことは聞いたよ』


 ケマリが話したのは、ライラが意識を失うまえにグウェンたちが口にしていたのと同じようなことだった。


 通常、瘴気が広がるのには段階がある。まずは魔力の澱みが出来て、そこに瘴気が集まり始める。ある程度それが濃くなると、中心に核のような瘴気溜まりが生まれる。そこから魔獣が這いだしてくる。ざっくり言うと、こういった具合。


 しかし今回は、何もないところに不意に巨大な瘴気溜まりが生まれた。第一部隊はあっという間に瘴気溜まりに呑まれ、瘴気の毒に侵されながら、湧きだしてくる魔獣との戦闘を余儀なくされた。考えられうる限りの最悪の事態だ。


 問題は、なぜそんな異常事態が第一部隊を襲ったのか。


「……イフリートの分身の仕業、よね」


 ライラが呟くと、ケマリが珍しく神妙な顔をして頷いた。


『僕もそう思う。分身の奴が、なけなしの魔力を操って瘴気溜まりを第一部隊にぶつけたんだ。たぶん、ウィルフレドを消すために』


「うん……」


 表情を曇らせたまま、ライラは考え込んだ。そう。狙いはウィルフレドだ。第一部隊の副隊長は、瘴気が爆発した中心からウィルフレドを救出したと、グウェンたちに報告を上げていた。分身が殺そうとしたのは、ウィルフレドで間違いない。


(だけど、どうしてイフリートの分身がウィルフレドさんを殺そうとするの?)


 考えられる可能性は、仲間割れだ。ウィルフレドが仮にイフリートの協力者であったのなら、両者の間で何らかのトラブルが発生した。話がこじれた結果、分身がウィルフレドを排除しようとして動いた。


 だけど、タイミングだって妙だ。本当ならウィルフレドは今頃、遠征から戻ってきたところをユーシスとダグラスに確保されて尋問を受けていたはずだ。なのに森で起きた事件のせいでウィルフレドは瀕死の重傷を負った。


というか、ライラが反則級の魔術を行使しなければ、ウィルフレドは間違いなく命を落としていた。そうなれば、ライラたちは永遠にウィルフレドから話を聞く機会を失った。


そう。これでは、まるで。


(まるで誰かが、私たちがウィルフレドさんの話を聞くのを邪魔しようとしているみたいな……?)


 そこまで考えたとき、ぱたんと扉が開く音がした。ライラたちがそちらを向くと、すごい表情でこちらを凝視するユーシスと目が合った。


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