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明治異聞録  作者: 雪風
2/8

遭遇

「さっきから連絡が取れない! どうにかしろよっ!」


 食って掛かっていたのは「圏外になった」と騒いでいた男だった。


「おい落ち着けよ、騒いでもどうにもならないだろうが」


 それを灰色のキャップを被った男が肩に手を置きながら宥めている。


「分かったから、こっちでも連絡取ってみるから──病院との連絡は取れた?」


「いえ、未だです。 雷が落ちてから辺りの風景が変わって慌てて出てきたので……」


「判った。 落雷でバスの無線機が壊れてるかもしれないからこっちでも連絡取ってみるよ」


 怒声をいなしながら医者が大野運転手と会話している。


 騒いでいた男は肩を上下させていたがどうやら深呼吸だったようで、少し落ち着いたようだ。


 仲裁しなくて済んだと内心ほっとしながら司は残った男に話しかけた。


「あの~、此処、何処かわかりますか?」


「いや、わからない」


 ですよねと思いながら表情に出さず「そうですか」と返すと、男の顔が強張った。


 焦点が合っておらず、心無しか視線は司の後ろを見ているようだ。


「そこで何をしている!」


 声に振り返った先には数人の男達が。


 坊主頭に黒い作務衣の出で立ちからすると僧侶か。


 先程の男が呼んできたのだろう。


「変わった服装をしているが貴方方はボードワン殿の部下かね? それにしては見知った顔が無いが……」


 司達の格好を見てやって来た男達に動揺が走る中、一人だけ紫色の袈裟を着けた年嵩の男がそう声を掛けてきた。


 皆の顔に疑問符が浮かび、口々に否定しながら首を振る。 


 年嵩の男はその反応に困った表情を浮かべ


「立ち話もなんですから中に。 着いて来なさい」


 と言って踵を返した。


「亮栄様! こんな格好の者達を迎え入れるのですか!?」


「邦仙の言う通りです! 先触れも無しに大勢で押し掛け無礼千万! 持て成す必要等ございませぬ!」


 激昂する二人の僧侶を見やり亮栄と呼ばれた僧は、


「処遇を決めるのは私達ではない。 それにその妙な馬車……で良いのかは判らないが外から来たのであれば入門する前から騒ぎになっていよう」


 とだけ言い残して去って行った。


 二人はハッとした表情を浮かべると司達に着いて来るよう促した。


 僧侶達は大野氏が鍵を掛けているのを物珍しそうに見ていたが、そのまま外でバスの番をすると聞き、


「誰にも触れさせぬようにする。 そもそも妙な臭いのせいで近付かぬよ」


 と邦仙が憮然とした表情で口にした。


 落雷で幟が溶け、異臭を放っていたのだ。


 残骸をごみ袋に何とか詰めた後、邦仙に同調していた僧が守慶と名乗り司達に尋ねた。


「先程は失礼した、貴方方は何か官位はお持ちか?」


 一同は変わりように訝しみながら持っていないと返す。


「ふむ、では八瀬童子か十津川郷士の何れかに連なる者は?」


 十津川郷士の所で看護師が一人反応したが、これも該当者無し。


「そうですか、ではこれから話す場に宮様もご臨席為されるが許可が出されない限りは亮栄様へ向けて話すように」


 宮様の一言で医療関係者に緊張が走るが、司達献血に来た若者にはチンプンカンプンだった。


 靴を脱ぎ本堂へ向かう。


 靴を脱いだ時僧侶達は足を見てざわめいていたが不安は司達に質を変えて伝播した。


 電灯の類いが、ない。


 司は過去に移動した事は予想していたが、電球普及以前に飛ばされる事は想定外だった。


 室内の様子で気付いた者も多いのだろう。


「タイムスリップ……」


 ひそひそ声が聞こえて来るうちに本堂に着いた。

戦前の無位無官の者は基本的に皇族と直接会話する事を許されてはいません。


例外は上記の八瀬童子と十津川郷士(士分ですが古来からの忠誠による特権がなければ不可)位です。


天皇が臨席する部屋に突然転移する小説がありますが、まず会話が成立する前に近衛兵に捕縛されます。


フィクションに何をか言わんやですが……。



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