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古書店に咲く花

作者: 三島真之

1章本って何


 桂純翔は空を見上げていた。

 薄暗い日々を過ごしていると、空まで暗くなるというがそんなはずは無い。空はいつも空である。

 北堀江の古書店でアルバイトをして8年になる。大学を卒業して富豪の叔父に助けを乞い今に至る。『純、三島由紀夫の全集を仕入れてきて欲しんだけど、ついでに東京神保町の大東に挨拶してきてくれるか』古書店の店長である叔父がまだ目が覚めない為か少し不機嫌気味に話しかけてきた。特に用事、予定がある訳でもないし東京にタダで行けるのは、フリーターには願ってもない機会である。

『いいよ。大東書店って僕らの祖先が築いたとこだよね』っと父に昔聞いた話を確かめた。

 桂家は長州を祖にする武士の家系である。その蓄えた資産を使って本屋を興しまた資産を築きあげたらしい。まぁ、今の俺には関係無いけどね。桂純翔は今年31歳となるが年収150万で家賃と光熱費などで8割を越えて、ほぼ自分で自由に使えるお金はないし貯金も大学4年の時少し貯めた20万くらいしかない。いわゆる新貧困階級である。

 新大阪の駅を9時発で新幹線が出た。

 よく晴れた日常の平日の朝、2時間しない内に着くだろう。新幹線の中で三島由紀夫の潮騒を読んだ。古書店に働き、父も大手出版社の営業部長ということもあり、本については手に入れる事に困った事はない。それにしても社会人で初めて三島由紀夫を読んで8年何度再読してきたのだろう。『金閣寺』に挫折と日本文学・文章の美しさに感動を同時に味わった。その後『憂国』『英霊の声』と当時のイデオロギーに湧き上がった作品を読んでいった。

 安倍晋三7年越えの憲政史上最長内閣で強さが正義の世の中を作っていった。安倍晋三という人物は難病を持ちながらよく戦ってくれた総理大臣だと思うが最後の最後に裏切られた。憲法改正発議をする事は安倍内閣で必ず実現すると思っていたが逃げた。また逃げたのである。

 安倍晋三は令和という時代を御代代わりを問題なく遂行した事は歴代を見てもこの人間しかいなかったし歴史もそうである。

 でも、裏切られた。

 私は、ずーと自分が強い側と同じ考えをする事に縋っていた。

 この出来事以降、私は文弱の徒になるのである。三島由紀夫の作品は、『潮騒』『仮面の告白』『豊饒の海』と美しく綺麗な精密な文章に酔いしれた。煙草も酒も飲まない私には生きる上で唯一の娯楽となっていった。気づけば31歳である。

 東京が近づくにつれてビルが並び摩天楼の如く冷たい街へ来てしまったと少し後悔したが、東京駅の明治建築の見事さに心が再び勢いついてくる。純翔は、北堀江の古書店がなぜあんなに専門家や歴史家、一部小説家から人気があるのだろうとふと考えていた。大東書店はベストセラーや人気雑誌などを揃えて15年しか経たない内にここまで上り詰めた。大東書店の店主、桂大東は、息子がいない為、跡継ぎを20人いる社員の中で一番優秀な東大卒の松下一45歳に任そうと考えていると叔父より聞いた。純翔は桂家にとって大事な跡継ぎ候補だった。祖父が亡き後、長男の叔父さん、次男の父、三男の大東叔父さんが家長を含め家族会議が開かれた。家長として家を継ぐのは叔父さんになり資産は物件は父、現金は三等分にし少し多く大東叔父さんに分けられた。長男の純翔と次男公博がいる以外に子供がいない。

 神保町はいつ来ても風情ある街である。

 本好きの人間が本を求め、本を見に、本に魅了されにと本に関わることはここにくれば味わえる。 

 三島由紀夫の全集を買い目的を果たすと次の予定である叔父の大東に会いに行く前に司馬遼太郎の著名な寄贈本を見学に行き喫茶店でブラックコーヒーとパンケーキを食べた。風情のある喫茶店だったと感傷に浸りながら大東書店についた。

 書店と言いながらビル4階建てである。


2章家族会議


 桂家本家、山口県の片田舎に多くの親族が集まった。

 桂大東が死んだ。

 突然死であった。

 あの日あった時は元気だったのに。

 『純翔、元気か。お前もそろそろ身を立てないとな。兄貴はお前に後を継がすつもりなんだもんな』怖い顔が少し笑みを含んだ年輪が深さを感じさせる。

 『純翔が後を継いでもやっていけるように少し手広く仕事をする様になったみたいだな』この言葉を聞いたか聞く前に涙が出てきて慟哭した。

 桂家本家総取締の毛利龍元は、毛利藩主の子孫で桂家本家の品位・家の存続の為養子として来てもらったという流れである。

 龍元が話をはじめた。

 『・・・という事で大東の資産は法定相続に基づき、大東書店の店主は松下一とする』この短い決定の為にわざわざみんな家族は集まったのである。

 大東が、はじめた大東書店をはじめに山口、北堀江と書店を展開していった。大東書店は売れ行きは良いが、世間・景気に凄く影響されやすい為経営は中々安定しにくい。山口県にある長州書店は、街中で田舎経営を続けている為経営はすごく安定しているが蓄えもあまり無い。北堀江にある桂古書店は、経営蓄え共に非常に良く見栄えは悪いが昔ながらの付き合い経営と新規に魅了させる強さも叔父の人柄も強さとなっている。

 松下一が経営を継いでから景気悪化、書店不況となり売上が半減強となり先が見えなくなってきた。

 純翔は、大阪に戻ってから叔父に少し休みを欲しいと頼んだ。叔父は快く了解した。何気に嬉しそうであった。

 『お父さんの会社で勉強させて欲しいんだ。叔父の店を継げる様に力をつけたいんだ』頭を地につけた飲み込んだ。

 『いいぞ。叔父さんには自分で話して来いよ』父はいつも優しい。何かあればいつでも帰って来て良いからなと会う度に言ってくれる。

 

 4月より父の会社で働き始めた。雑用からデータ入力、書庫整理、業務終業後に経営の勉強を部長の父からはじめて厳しく教えてもらった。日々成長を実感できるというのはここまで達成感があるものかと驚いた。

 10月になり大東書店が潰れた。  

 松下一が倒産の前日に自殺した。

 遺書には『従業員に、先代に申し訳がない』その短い言葉に親族や従業員に心に大きな傷を残した。

 

 叔父に松下一のこともあり会いに行った。

 『叔父さん元気』いつもと変わらない挨拶である。

 『純、本好きか』寂しそうに問われた。

 『好きだよ』短く答えた。

 『俺もそろそろ引退するよ。純、後は頼んだよ』

 『分かったよ。長い間お疲れ様』

 とうとうこの時が来た。

 桂純翔は桂古書店の店長になり叔父より得意先や経営方法などを簡単に教えて貰い後は自由にやらしてもらった。

 何ヶ月経ったか、ずーと安定していて安心し拍子抜けした。

 そうこうしていると、急に龍元がやってきた。

 『長州書店も来月閉じる。経営がだめなんだ』涙を我慢しながら松下一の事もあり従業員と店長の職探しをしに来たらしい。

 父に頼んだ。やはりこういう時は強者は強者である。


3章三島由紀夫


 最近、三島由紀夫研究が盛んである。死に様、生き方、美学と研究対象は多い人である。近代文学は福沢諭吉から森鴎外、夏目漱石にはじまり谷崎潤一郎、川端康成に引き継ぎ三島由紀夫で近代文学は終わる。その後に石原慎太郎、村上春樹、平野啓一郎と力ある小説家はいてもあの時代は越えれない。

 三島由紀夫の後、村上春樹は追いかけて迷い逃げた。

 文学は続いても日本文学は多様性は広がっても深まらない。逃げてるうちは。

 桂純翔は古書店を上げて三島由紀夫を押していった。

 令和という時代に、日本が様々な意味で失われていく中で三島由紀夫がもう一度見直されている。娯楽、暇潰しも良いがやはり人生の後押しをし背骨や血となる本が世の中に日本に必要なのである。

 何も無いところに来てしまった主人公はその後のあとの人生をどう生きたのであろうか。アメリカ、中国が強さを披露する中、追随するしかない日本。

 日本の強さとは。

 龍元が跡継ぎを叔父さんに頼みに行ったが断られ父と相談している。秋霜の厳しい夜に険しい顔をした2人は外からみると戦争画の様である。

 父は家長となった。

 桂家本家は、厳しい台所事情を純翔に頼るしか無かった。三島由紀夫研究の特需で家を保ってた。

 

4章歴史にあるもの

 

 古事記、日本書紀に始まり源氏物語、平家物語と古書がありノーベル文学賞2回受賞と海外にも評価されている。

 古さと深み。

 日本に生きる四季や神社仏閣は脈々と紡いでいかれ日本文学を完成させて次の時代を待っている。

 世界において日本国以上の国はない。

 日本人は誇り高い民族である。

 桂古書店は伝統・文化を繋いでいくであろう。




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