異世界転移に当たって女神様からギフトをもらいました
異世界転移ってさ~、女神様からお願いされたからしてきたんだよね。
この世界に来た時にその事実を告げて、一時は公爵家預かりとなった私。
それなのに魔力が無いからって、私の言葉を信じないどころか、殺そうとするんだもの。
それが上手くいかないと国外追放ってあんまりじゃん。
送ってくれるんだと思った兵士たちは、私を殺すように命じられていたんだって!(←いまここ!)
「ば、馬鹿な。こいつには力がないんじゃなかったのか」
私は先ほど私に切りかかり、私にかかっている女神様の加護の力によって、はじかれて尻もちをついた男のことを冷ややかに見つめた。それから私を囲む男達、この国の兵士へと視線を向けた。他の兵士たちも驚愕の表情を浮かべているのを見て、内心ほくそ笑む。
(さて、どうしてくれましょうか。ねえ)
頬に右手を添えて軽く首を傾げるようにしながら、人差し指でトントンと叩く。思案をしていると、アイコンタクトを終えた兵士たちは、頷くと一斉に私へと剣を突き立てようとしてきた。
だが、先ほどと同じ様に私の体に剣が刺さることはなかった。私の体から逸れた剣は、その向かい側で剣を突き立てようとした兵士の体を傷付けた。
「ぐあ~!」
「いっ!」
「つぅー!」
どれも致命傷ではないのに、傷を負った兵士たちの口から、情けない声が漏れた。
「ば、馬鹿な。なぜ、剣が通らない? ま、まさか、魔女?」
少し離れた位置から、兵士を指揮している男……たぶんこの任務の責任者、隊長だろう……が、困惑の声をあげた。いや、恐れを含んでいるから、怯えからの言葉かしら。
だけど、さすがに聞き捨てならないので、反論をすることにした。
本当なら言わないでおいて、この国の人たちがどのような目に遭うのかを、高みの見物でいようと思ったのだけどね。だけど、さすがにこの暴言は見過ごせないよね。
「しっつれいな~。誰が魔女よ。魔女くらい魔法に長けていたのなら、そもそもこんなことになってないでしょうが!」
隊長は私の言葉に目を丸くして驚いている。多分これは私が言った内容に対してではないでしょう。貴族の令嬢、それも王家に次ぐ公爵家の令嬢がする言葉使いではないからだろう。
(いや、そもそも私、公爵家にお世話になっていたけど、貴族令嬢じゃないし)
私はチラリと隊長の頭上へと視線を向けた。それから、抜かりなく兵士たちを視界の端に捉えながら、頭の中で会話を始めた。
[あー、女神様やーい]
[あら~、サラちゃんじゃないの~。どうしたの?]
[女神様、この国の人間に国を追い出されるだけでなく、始末されそうになったんですけど。なので、黙っていて高みの見物をするつもりでいたのを、いろいろぶっちゃけて混乱という名の阿鼻叫喚を誘ってもいいですか?]
[はっ? えっ? 私がサラちゃんを遣わしたのに、敬い奉るどころか、始末しようとしたの?]
女神様から茫然とした言葉が返ってきた。
[はい。そうです]
[…… …… ……あんの馬鹿どもめ~]
しばし無言が続いたけど、だんだん女神様の怒りのボルテージが上がっているのが伝わってきて、ものすっごく低い声が聞こえてきた時点で、この世界は終わったと悟った私。
[わかったわ。許します。ぶっちゃけて、良し! ううん、もういっそ、この国の人間すべてに解って貰いましょう。そこに飛んでる魔道具とおんなじことをするから、少し待ってね。…… …… ……はい、いいわよ]
(はやっ! 少しって本当に少しじゃない)
そう考えた私に、女神様の苦笑交じりの声が聞こえてきた。
[サラちゃん、心の中で考えただけのつもりかもしれないけど、今は繋がっているから聞こえているわよ]
[あー、そうでしたね。それじゃあ、いっちょかましますんで、その後はよろしくお願いしますね、女神様]
[それはこちらの台詞よ。こちらこそ、せっかくお願いしてきてもらったのに、こんなことになってしまって……。サラちゃんの気がすんだら、約束通りに元の世界に返してあげるわね]
[えー、すぐに帰らなきゃいけないんですか?]
[えっ? えーと、サラちゃんは帰れることを喜んでくれないの?]
[嬉しいですよ。でも、結果を見ずに帰るのは、ちょ~っと、つまらないかな~って]
[そこは大丈夫。結果はちゃんと見られるようにしてあげるわ。それとあちらの世界の日常生活に支障がでないように、こちらに来た時間ピッタリに戻してあげるわね♡]
「ありっ、した!」
私はつい声に出して言って、ついでに深々とお辞儀をした。顔を上げると兵士たちが奇妙なものを見るように、私のことを見つめていた。
私はそんな彼らのことを丸っと無視して、右手の人差し指をくいっと引き寄せるように動かした。それにつられるように、隊長の頭上から羽の生えたカメラのレンズだけ……いや、羽の生えた目玉が降りてきた。
「お前~! やはり魔法を使えるではないか! 我らを謀っていたのだな!!」
隊長が激昂して叫んだ。続けてギャーギャーと口から泡を飛ばして騒いでいる。
「うるさいし!」
私の一言で、隊長が黙った。いや、口は動いて何やら言っているようなので、言葉を消したようね。さすが、女神様。
隊長は、自分の声が聞こえないことに気がつくと狼狽え、それから私へと掴みかかってきた。
「そばにくんなし!」
その言葉で隊長は動けなくなった。手を振り上げて、私に掴みかかろうとした姿で止まっているのは、なんか笑えるけど。
「お前、隊長に何をした」
我に返った兵士が、私へと掴みかかろうとした。
「くんなし!」
そいつも手を伸ばした格好で固まった。それを見て、私に詰め寄ろうとするものと、逃げ出そうとするものに別れた。
「動くなし!」
すべての兵士が動きを止めた。おっと、呼吸は出来るようにしてね、と、女神様に語り掛けてから、羽根つき目玉を掴んだ。
「さーてっと。これを見ている王宮の方々、ちゃんと聞こえてます?」
すかさず、女神様が王宮の様子が見られるように、大空に映し出してくれた。
『おお~!』
『なんで、空にここの様子が?』
『ええい、これこそが、そこの魔女の所業であろう。追い詰められて、やっと正体を現したのだ』
節穴ボンクラ王子が何やらドヤ顔で喚いている。
(いや、なに言っちゃってんの、ボンクラ王子は。私に魔力がないと、馬鹿にしまくっていたのに。それで女神様から遣わされたということを信じないで、追放をしてくれやがりましたよね)
半眼でその様子を見ていた私は、むかっ腹と共に言った。
「黙れや、ボンクラ! うるさいつぅーの、し!」
途端に王子の声が聞こえなくなる。声が出なくなったことで、身振り手振りで怒りを伝えてくるけど、知ったこっちゃない。
(お怒りなのは女神様なんだよ)
私は王子を睨みつけると言った。
「声が聞こえなくても煩いっていうのは、もはや才能では? でもはた迷惑な行為はいらんよね。しばらく止まっときなし!」
私の言葉と共に動きが止まる王子。王宮にいる人々は畏怖と共にじりじりと広間から、逃げ出そうとしている。
「そこに居る方々。逃げても無駄ですよ。どこに行っても、私からの言葉は聞こえるようになっていますから。
さて、それでは残念なお知らせをいたします。
皆さんは、私が女神様からの依頼で、この世界に来たということを信じませんでした。
その理由が、『私に魔力がないから』でしたね。
ええ、そうです。魔力が無いことは、私も女神様から聞いていましたから、何の不思議もありません。
それに女神様は私がこの世界で不自由しないようにと、加護を目一杯かけてくれました。
先程のことでお分かりいただけたと思いますけど、私を害そうとしても加護によりかすり傷一つつけることが出来ない仕様になっているそうです。
他にも、どこの国に行っても困らないようにと自動翻訳してくれるとか、食べ物が体に合わず体調を崩さないようにするなどと、本当に至れり尽くせりの加護をつけていただきました」
私の言葉を聞いていた人たちの中で、少なくない人たちの顔色が蒼くなっていく。
知っていますよ、私。私のことを気に入らないと思った方々が、私の頭上から重いものを落としたり、食べ物に毒を仕込んだり、はたまた猛獣……いや、この世界では魔獣でしたね。それに襲われるようにもくろんだりしたことを。
(魔法を使えない私が、そういうことを避けることが出来た時点で、考えればわかりそうなものなのに)
ため息をつきたい気分だけど、まだ、言いたいことは言い終わっていない。
「それでですね、女神様が私に依頼したことなのですけど……」
そこまで言って言葉をとめる。
(う~ん、どういえばいいかな?)
ついついこの後のことを考えて、まだ少しある良心がチクリと胸を刺した。
優しい言い回しにしようと暫し考えこんでいたら、堪え性のないらしい王様が話してきた。
「そこで言葉を止めるな! いや、そもそも女神様から頼まれたなどと、嘘を言いおって。不敬にもほどがあるだろう!」
決めつけの言葉に私のこめかみにピキリと青筋がたった。
「ああっ? せっかく少しはオブラートに包んで優しく言ってやろうと思ったけど、今更だったわ」
ドスの利いた低い声がでた。
「もういいや。先ずは結論から教えてやんよ。女神様はこの世界に愛想をつかしたんだってさ」
「「「「「はっ?」」」」」
王宮の人たちはポカンと口を大きく開けた。
「というかさ、もうとっくにこの世界の他の国々は、神々に愛想つかされてるんだよね。それなのにそんなことに気がついてない国々ばっかでさ」
そう私が言ったら、女神様が話しかけてきた。
[ありがとう、サラちゃん。他の国々のことも話してくれて。他の国の神々もそのままで離れちゃって、この世界の人々が神々が居なくなったことに気付いてないことを気にしていたのよ。ということで、その神々の協力のもと、この世界に住む人々全員に、これから先のサラちゃんの発言を流すことになったわ♪]
楽しそうな女神様の発言に一瞬茫然として口をお間抜け様に開きそうになったけど、すぐにハッとして気を引き締めた。この世界の奴らに間抜け面を晒すのは絶対に嫌だもの。
で、私が不自然に黙ったからだろうけど、またも王様が喚いてきた。
「嘘を吐くならもっともらしい嘘を吐くんだな。神々が愛想をつかされたなどと」
「嘘じゃないし。というかさ、王様、聞くけどさ、最近女神様から神託ってあった?」
王様は不機嫌な顔をしたまま、神官長へと目を向けた。神官長はニチャリと厭らしく笑うと言った。
「もちろんですとも。いやいや、神託と言うほどのものではないですが、私は毎朝の祈りの時に、女神様とお話させていただいております」
「それこそ嘘を言わないでよね。女神様が私をこの世界に呼んだ理由は、この世界の誰にも女神様の言葉が届かなくなったからって言ってたもの」
私の言葉を馬鹿にしたような顔で聞く神官長。ただでさえだらしない体で、脂肪に埋もれた細い目が、この世界の誰も女神の言葉が届かないのであれば、自分の嘘がバレることはないだろうと物語っている。
(だーかーらー、女神様を馬鹿にし過ぎなんだよ。報いはすぐに受けてもらうからね)
「まあいいわ。私には関係ないことだから、伝言だけはちゃんと伝えてやんよ。女神様曰く、
『この国の人々には愛想が尽きました。なので、この国を守護することを止めます。
ついでに言うと、他の国々の神々も、とっくにそれぞれが守護している国に愛想をつかしているのよね。
そのことに他の国々は気がついていないようだけど。
まあそれは、そちらの国と神々の事情なので、わたくしには関係ないことだわ。
それで最後に私たち神々がそれぞれの国を守護することになった経緯を伝えておこうと思って、異世界からサラちゃんに来てもらったの。
この世界はこの世界の国々を守護していた神々が作った世界ではないの。
他の神が作ったのだけど、彼はあまりやる気のない状態でこの世界を作ったので、生き物が暮らすには生きにくい世界になってしまったのね。
魔獣はその産物なのよ。
それで、あまりに酷い状態だったので、作った神からこの世界を取り上げたのよ。
ほかの神に任せるはずだったのだけど、一人の神に背負わせるには過酷過ぎたのね。
神々で協議した結果、わたくしたちが一国ずつ受け持つことにしたのよ。というのも、わたくしたちは別に管理する世界を持っているのですもの。
ということなので、守護することをやめてもわたくしたちには、見守らなければならない世界があるのよ。仕事がなくなるわけではないから安心してね。
そうそう。わたくしたちが守護をするのを辞めるのは、あなた方の自業自得ですからね。
この国もそうだけど、他の国々もずいぶん前から神々を敬わなくなっていたもの。
本来なら神に仕え、神と人との橋渡しをしなければならない神官たちは、あるまじきことに金集めに走り贅沢をしているわね。
呆れて物も言えないわ。
というか、もう言う言葉もないんだけど。
そういうことなので、これからあなたたちにとっては未曽有の災害が襲って来るだろうけど、それはこの世界がもとに戻っただけなので甘んじて受け入れてね』
以上です!」
私の言葉にポカンとした顔をした人々だけど、次第に怒りのためか顔色を赤くしている人が増えていった。反対に蒼褪めさせている人は、四分の一にも満たないかもしれないけどいた。
「ふざけんな! そんなの受け入れられるわけがないだろう!」
「そうだ、そうだ!」
ギャーギャーと口汚く罵る人たち。その姿は呆れを通り越して、滑稽に見えてきた。
「あのさ、私が言うことじゃないけど、もう女神様が決めたことなんだからさ、どうすることも出来ないんだよ。それよりも、私からもあなた方に伝えないとならないことがあるのよね」
そう言ったけど、誰も喚くばかりで聞いちゃいなかった。私は大きくため息を吐きだすと言った。
「うるさいからしゃべるなし!」
ピタリと声が聞こえなくなった。おかげでどこかに居る鳥の鳴き声が聞こえてきた。
ピロロローって、いい声だね~。
……じゃなくて~。一瞬現実逃避をしそうになったわ。
「あー、静かになったー。それじゃあ、もう一度いうけど、女神様から私に依頼があったのは、神の言葉が聞こえなくなったこの世界の人に、言葉を届けることだったんだよね。最初は公爵家に私を預けてくれたから、少しは聞く耳があって最悪の事態を避けられるかと思ったけど、すぐに私を殺そうとあれこれしてくれたよね」
ここで言葉をきって、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「さっきさぁ~、女神様がこの世界に私を呼ぶときに、目一杯の加護を掛けてくれたと言ったっしょ。その中に面白いギフトがあったんだよね」
そこで言葉をきって、またもニンマリと笑ってやる。悪い予感を覚えたのか、顔色を悪くしだした王様たち。でも、今更よね。遅いんだっつーの。
「それは“ルーレット 受けたことの二倍返し”というものなの~。これね、恩にしろ悪意にしろ、受けたと思ったら、確実に二倍返しになるんだって~。それからさ~、これの面白いところがね、すぐには起こらないことなのよね~。まあ、実際に見てもらった方が早いと思うから~、“ルーレット、オープン~!”」
私の言葉と共に、人々の目の前にルーレットが現れた。
「うふふっ。見て分かるように、ルーレットの内容は、『今すぐ』『一時間後』『六時間後』『半日後』『一日後』『五日後』『十日後』『一カ月後』『二カ月後』『三カ月後』『半年後』『一年後』の十二項目となっているよね。あれ~、なんで蒼い顔をしている人が多いのかな~。私になんかしてなければ、怖がることはないんだよ~」
ニマニマと笑いながら言えば、人々は必死な顔をして口をパクパクと動かした。声を封じてあるから何も聞こえこないけど、一応謝罪をしているんだろうな~。
若干、真っ赤な顔でパクパクさせている人がいるけど、こっちは知ったこっちゃないっつうの!
「私も長引かせて恐怖をあおる趣味は無いから、さっさとやるよ~。それじゃあ、“ルーレット、スタート!”」
カラカラカラと軽い音を響かせてルーレットが回る。
カラ カラ カラ
ピタリとルーレットが止まり、決まったようだ。
「ぐうっ」
『今すぐ』となった人の声を戻したらしく、呻き声をあげて首を押さえて口から泡を吹いて倒れた男の人がいた。
その様子を蒼い顔で見ている人々。
「えーと、これは?」
小さな声だったけど、隅のほうに居た侍女の服を来た少女が戸惑った声をあげた。
「あー、あなたは私が最初に王宮に来た時に優しく接してくれた侍女さんじゃない。えーと、なになに、私が感謝の気持ちを抱いたから、それに見合ったお礼の品が出てきたのね。ああ、それはあなたの物だから安心してね。もし、それを奪おうとする人がいたら、その時点で悪意のルーレットが回って、その人に倍返しで悪いことがおこるからさ」
少女の周りに集まった人々は、少女の手の上にある綺麗な髪飾りと大金貨10枚に目が釘付けになっていた。
それから……何を勘違いしたのか、笑顔を浮かべる人多数。特に少女と同じ侍女をしている人たちだね。
(おいおい。自分たちが私に優しく接していて、お礼をもらえる立場だと思っているのかよ。まあ、実際にその時間になるまで、本人に悪いことをした自覚がなければわからないだろうしね。でも、現れたルーレットを見ていれば一目瞭然だったんだけど、気がついた人はいないんだろうね)
そんなことを思いながら、私はニッコリと笑った。
「では皆様、私はこれで失礼しますね。ごきげんよう~」
最後に見たのは蒼い顔をした私を襲った兵士たちだった。私が転移すると共に、女神様が行った“消音”や“停止”は解除されたことだろう。
クラっと軽いめまいに襲われた私は、とっさに目を瞑った。それから恐る恐る目を開けると自分が生まれ育った神社の境内、そのご神木の前で巫女の姿で竹ぼうきを持っている状態なのに気がついた。
どうやら約束通りにあちらに行くことになった時に、戻ったようだ。
[お疲れ様、サラちゃん。厄介ごとを頼んじゃってごめんね]
[女神様、いえいえ。あんなものでよかったんですか?]
[十分よ。もう、私もあの世界から手を引いたし、あとのことは知らないわ]
私はフウ~と息を吐きだした。
[それでね、こちらでの生活に支障をきたさないためにも、あちらで下されたルーレットの結果は、夢の中で報告させてもらおうと思うのだけどいいかしら]
[あー、それは助かります]
[サラちゃん、本当に本当にありがとう。お礼が出来ないのが残念なのだけど]
[それは気にしないでください。私は納得してあちらに行ったんですから。というか、あの体験がご褒美ですよ。普通に生活してたら、お貴族様体験なんてできないですもの]
[でも、命を狙われたじゃない]
[そこは死なないように、女神様が守ってくれたじゃないですか。珍しい料理も堪能できたし、面白かったからいいですよ。……というか、まだ、面白いことは残ってますし、あー、一年間楽しみだわ~]
[それって……サラちゃんも大概よね]
[でも、女神様も優しいじゃないですか。私にした悪意の倍返しとか言いながら、誰も死にはしないんですよね]
[だって、サラちゃんは加護があるから、死なないようにはしてあったじゃない。そうなると、倍返しで死ぬのは可愛そうかな~って]
[……ええ、そうですね]
[じゃあ、私もそろそろ行くわね。これでお別れだと思うと寂しいけど、サラちゃんのこれからに幸多いことを祈っているわ]
[ありがとうございます、女神様]
神気が離れていくのを、目を瞑って見送った。
そして目を開けると私は独り言ちた。
「死なないのが良いことかしらね~? 重い壺やあの毒が二倍なんでしょ。死なないということは逆を言えば死ねないということよね。つまりそれだけ長い間苦しむことになるんじゃないかしら。……まあ、私には関係ないか。女神様も言っていたものね。自業自得だって。……いや、因果応報のほうがあっているかな? ……それよりも~、次は一時間後だったよね。ふっふっ。見るためにもお昼寝をしようかしら?」
私は手早く掃除を終えると、一休みをすることを父(この神社の宮司)に告げて、部屋へと戻ったのだった。