第一章最終話 彼女はまだツンデレ獣人に番認定されていることに気付いていない
「リリア……」
ロルフがリリアの頬に伝わる涙をそっと拭うと、リリアは一瞬目を見開き、ギュッと掴んでいたロルフの胸元からそっと手を離した。
「ロルフ、突然、ごめん」
「いいんだ……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。ただしリリアは相変わらずロルフに馬乗りになっているのだが。
「猫ちゃんは……どこで討伐されたの?」
「?????」
「ロルフが猫ちゃんを討伐したんだよね?」
リリアの言葉を聞いてロルフは呆然とする。てっきり自分の正体がバレたと思っていたのだ。でも、これはもしや?
「え、えーと、猫ちゃんって言うのは……」
「このリボンを付けていた猫型の魔物のことよ。これがここにあるってことは知ってるんでしょ?」
猫型の魔物!?ロルフはリリアの前では常に獣化した姿を取っていたが、魔物と思われていたとは初耳である。
「猫型の、魔物……」
ロルフがボソッと呟くと、リリアはまたポロポロと泣き出してしまった。
「三年前、ぼろぼろになって倒れてたところを私が拾ったの。最初は猫だって思ったけど、寝言で人の言葉を喋ってたから、高位の魔物だってすぐにわかった。でも、でも、猫ちゃんは、私を傷つけなかったし、とてもいい子だったのにっ……」
「あ~……寝言……」
寝言を呟いていたとは気がつかなかった。しかも、魔物と思われていたとは。色んな意味で居たたまれない気持ちである。
「たまたま寝言を言ってるのをみたお父さんとお母さんが、私が魔物に取り付かれたっていって猫ちゃんのいない隙に村から引っ越したせいで、あえなくなっちゃって……」
「あ~……うん」
「だから、テイマーになって絶対迎えにいこうって思ってたのに、全然うまくいかなくて……」
えぐえぐと泣きながら話すリリアをみて、ロルフはようやくリリアがテイマーになった理由を知った。魔物を攻撃できないくせになぜテイマーになったのか、ずっと不思議に思っていたのだ。
「猫ちゃんは、リリアにとって大切な存在だったんだな」
「う、うう~っ!でも、もう、ロルフに倒されてたなんて!」
うわーんと泣き出したリリアを見つめながら、ロルフは心が満たされた気がした。魔物だと思っても、そばにいたいと思ってくれてたのだ。自分だけの独りよがりではなかったのだと。ただし、あくまでも獣化した姿での話なのだが。
「リリア、ちょっと降りてくれる?」
「うん……」
リリアがのろのろとロルフの上から降りると、ロルフはくるりと一回りして獣化してみせた。
「……ほぇ?」
間抜けな声を出すリリアに、
「あのときは、助けてくれてありがとう」
と小さな猫の姿で話しかける。
「え?え?ええーーーーーーーーーー!?猫ちゃん?本物?生きてた!でも待って!ロルフ?猫ちゃんがロルフだったってこと?ロルフは魔物じゃ、ないよね?えっ?魔物じゃなかった?えっ?獣人?なんで!?」
「獣人がみんな獣化できるわけじゃないが、俺は獣化の魔法が得意なんだ。」
「そんなの、初耳だよーーーーー!」
「そうだな、初めて話した」
リリアの慌てぶりに思わずぷはっと吹き出して笑ってしまう。
「ああ、訳わかんない。猫ちゃんが魔物じやなくて、ロルフが猫ちゃんで。でも、良かった。生きてて、良かった。またあえて、良かったよぉー……」
言うなりリリアはロルフを抱きかかえて頬をすり寄せてくる。
「猫ちゃん!猫ちゃんだぁー」
「え、ちょっ、リリア!」
バスローブ姿のリリアに抱きかかえられたロルフは、慌ててリリアの腕から逃げ出すと、今度は人間の姿に変化した。
「だーかーらっ!俺だっていってるだろ!んな姿で抱くな!」
「あ、そっか、えへへ、ごめんねー」
リリアは照れたように頭をかくが、ちっとも反省しているようには見えない。
「全くお前は、少しは危機感というものをだな……」
ロルフが顔を赤くしながらブツブツ文句を言うのを、リリアはマジマジと眺めてしまう。
「な、なんだよ」
「いや、本当にロルフだったんだなーって」
「ガッカリした?」
「いや、うーん?驚きすぎて何がなんだか」
魔物だと思っていた猫が実は獣人が変化した姿で、しかも、リリアにいつもちょっかいをかけてくるあのあのロルフだったのだ。もう、何がなんだかわからない。でも、そういえば、と思う。猫ちゃんも遊んでほしいときは、リリアの前をわざといったりきたりして気を引いていたなぁーと。
思い返すといくつも共通点が出てきて思わず笑ってしまう。ロルフが、猫ちゃん。うん、悪くないかもしれない。ロルフのほうをチラチラ見ながらニヤニヤ笑うリリアに、ロルフはわざとらしくコホンっと咳払いをしてみせた。
「で、お前、これからどうするの?」
「えっ?どうとは?」
「だって、俺と一緒にいたくて冒険者になったんだろ?」
「え?あ、うん、そう……だね?ロルフが猫ちゃんだからね?だけど、うん?」
「じゃあ、俺とパーティー組めば良くない?」
「んんん~?え、いや、それはどうなんだろう……」
逃がさないとばかりに、言葉を重ねてくるロルフにたじたじのリリア。一方ロルフは、リリアを今度こそ逃がす気はなかった。
「あの日、リリアに助けられてから、リリアのことがずっと好きだった。獣の姿でもいいから、ずっと一緒にいてほしいって思うくらい。」
「え、えー!!!ロルフが私を好き?そ、それも初耳なんですけど……」
「そうだな。初めて言った」
ロルフがニヤリと悪そうに笑う。
(そういえば、その悪そうにニヤリと笑うのが一番似てるー!)
「遠征から帰ってきて、空っぽの家を見たとき、俺、捨てられたんだと思った」
「ご、ごめんね……」
「いや、まさか、魔物と思われてたとは思わなかったから。」
思い出したようにクックっと笑う。
「冒険者ギルドであったとき、すぐにリリアだってわかって嬉しかった。リリアは俺のことなんてとっくに忘れてるだろうと思ったけど。気になって、結局いつもリリアのことばかりみてたんだ」
(ロルフが!あのロルフが!私のことを、好き?うわ、うわわわー!!!待って!)
リリア、人生初の告白である。
(ロルフは口は悪いけど、顔は格好いいし、いつもちょっかい出してくるけど、なんだかんだいつも助けてくれてたし。結構、いいやつ、だよね……)
全身真っ赤になってアワアワしているリリアの頬を両手でそっと挟むと、じっと見つめてくる。びっくりするような整った顔に、猫ちゃんの姿が重なる。猫ちゃんと同じ、月の瞳。
「リリアは二回も、俺を捨てたりしないよな?」
「はい……」
――――次の日、リリアとロルフはギルドに行き、パーティーの申請を行った。Bランク冒険者とEランク冒険者の異例の組み合わせだ。
「ロルフ、リリアと組んで本当にいいのか?」
ギルドマスターが声をかけてくるのにロルフは澄ました調子で答える。
「ああ、俺はだいぶん前にリリアにテイムされてるらしいからな。ご主人様を守るのが従魔の勤めだろう?」
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