最終話 ずっと一緒にいたいから
◇◇◇
三人がアデイラと別れ、公爵家を後にしたのは、三週間後のことだった。
「……マジで酷い目にあった」
げんなりした表情で呟くロルフに、リリアは思わず笑ってしまう。
公爵家に滞在中の間、アデイラはリリアの体力作りと淑女教育の合間に、暇さえあればロルフとフェンを相手に手合わせしていたのだ。
細い身体で、巨大なモーニングスターをぶんぶん振り回しながら二人を追いかけるアデイラは、実に生き生きしていた。
「でも、お姉様本当にかっこいいよね〜。憧れちゃう!」
「……そ、そうか」
どこか複雑そうな表情のロルフを横目に、三人は家路についた。
公爵家の当主であるロルフの両親は、森の管理者として常に各地を巡っているらしい。今回も二人揃って長期の視察に出ていたため、会うことができなかった。緊張していたリリアとしては、少し拍子抜けな結果になったのだが、数日後、視察先からロルフ宛に一通の手紙が届いた。
『アデイラから聞いたわ。素敵な番が見つかって良かったわね。おめでとう、ロルフ。今度絶対に紹介してね!』
「……本当に反対されないんだ……」
手紙を読み終えたリリアが、ポツリと呟く。
「獣人は番第一主義だからな」
ロルフは当たり前だと言わんばかりに頷いた。
「そっかぁ……」
「お互いの両親の許可も取ったし、あとはリリアが成人するのを待って、すぐに結婚しよう!」
「えっ……」
「……もしかして、嫌なのか」
「いや、成人してすぐって、さすがに早すぎない?」
「……じゃあ、どのぐらい待てばいいんだ?」
「えっ!それは……何ていうか、お互いに結婚してもいいかなぁと思ったとき、みたいな」
「……今すぐその気にさせてやろうか?」
「近い近い近い!!!もうっ!」
◇◇◇
その夜。
リリアは一人、静かに考えていた。
ロルフはこのままで良いって言ってくれるけど、私はもっと強くなりたい。冒険者としても、女としても、もっともっと、成長できるはず。
(……このまま、守られてばかりじゃダメだ)
ロルフと、これからもずっと一緒にいるために。 対等に隣を歩くために。
リリアは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……決めた」
◇◇◇
翌朝。
「ロルフ、私、アデイラお姉様に弟子入りします!」
「――は?」
朝食の席で、いきなりそう宣言したリリアに、ロルフは盛大に噎せた。
「ま、待て待て待て! 何言い出してるんだ!?」
「強くなりたいの。ロルフと、ずっと一緒にいるために」
「いや、それは嬉しいけど……!よりにもよって、なんで姉貴なんだよ!」
必死に止めるロルフとは対照的に、リリアの瞳はキラキラと輝いていた。
「だって、アデイラお姉様、めちゃくちゃかっこいいじゃない!綺麗で、強くて、優しいなんて最高でしょっ!私もアデイラお姉様みたいな大人の女になりたい!」
「いや、ならなくていいけど。むしろ、頼むからやめてくれ」
遠くで、誰かがくしゃみをしたような気がした。
「とにかくもう決めたからっ!」
「絶対にだめだっ!!!」
そんな二人のやり取りを見ながら、フェンはくすりと笑う。
――守られるだけじゃなく、守れるくらい強くなりたい。それが、リリアの願いだから。
こうして、リリアの新たな修行生活が、静かに、そして確実に幕を開けようとしていた。
なお、ロルフの苦労は、まだまだ続くのであった。
◇◇◇
おしまい
















