第23話 公爵家の淑女教育はスパルタです!
◇◇◇
「足! 腰! ほらっ、もっと力入れる!」
「は、はいい〜……!」
なぜか――公爵家の広大な庭園で、リリアは全力疾走させられていた。
芝生の上を何周目かも分からないほど走らされ、息は上がり、脚はがくがく震えている。
「体幹が弱いっ!そんなことじゃ魔物に襲われたら一瞬でやられるわよっ!」
「し、死ぬ……死にますぅ……」
その様子を見て、ロルフがたまらず口を挟んだ。
「リリア、無理に姉貴の趣味に付き合うことねぇよ。ほら、あっちでリリアの好きなスイーツでも食うか?」
「あんたね」
アデイラは、じろりとロルフを睨みつける。 「パーティーのメンバーなら、リリアちゃんがいざって時に自分の身を自分で守れるように鍛えてあげなさいよ。それが愛ってもんでしょ」
「リリアは俺が守るからいいんだよ」
「リリアちゃんは仮にも冒険者でしょ?守られてばっかりじゃ重いのよ」
「……は?」
「女の子舐めんな」
ばっさり切り捨てられ、ロルフは言葉を失った。
「ほら、あと一周!」
「む、無理ですぅ〜!」
「無理じゃない、やるの!」
半泣きになりながら走るリリアを見て、アデイラはどこか満足そうに腕を組んで頷いていた。
◇◇◇
――それからしばらくして。
「……え?」
リリアは、自分の姿を鏡に映して目を瞬いた。
先ほどまで汗だくで走り回っていたとは思えないほど、綺麗に整えられた髪。淡い色合いのドレスが、体にしっくりと馴染んでいる。
向かいの席には、同じくドレスに身を包んだアデイラが、優雅にティーカップを傾けていた。
「……さっきまでと別人みたいですね」
「でしょう?」
アデイラはにやりと笑う。
「ほらね?ドレスを着るにも姿勢って大事なのよ」 カップを置き、すっと背筋を伸ばす。
「何事も、日頃の鍛錬が物を言うの」
「な、なるほど〜……」
リリアも真似して背筋を伸ばすと、不思議と呼吸が楽になった。所作も、さっきより自然に見える気がする。
「リリアちゃん、筋はいいわよ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。本気で鍛えたら、かなり化けるわね」
その言葉に、リリアの顔がぱっと明るくなる。
「……アデイラさんって、意地悪な人かと思ってました」
「ひどいわね」
くすっと笑って、アデイラは紅茶を一口。
「どうでもいい子なら最初から相手にしないわ。それほど暇じゃないもの。可愛い弟の彼女は、私にとっても可愛い妹よ。まぁ、気に入らなかったら虐めて追い返したかもしれないけど」
「……き、嫌われなくて良かった〜」
「根性のある子は好きよ」
「これからも精進します!師匠!」
二人は顔を見合わせて、笑った。
「じゃあ、これからはリリアって呼ぶわ」
「! はいっ……じゃ、じゃあ私も……お姉様、って呼んでもいいですか?」
「もちろんよ」
アデイラは嬉しそうに目を細める。
「よろしくね、リリア」
「はい! お姉様!」
庭園には、穏やかな午後の光と、二人の笑い声がいつまでも響いていた。
















