第22話 意地悪なお姉様?
◇◇◇
――大きい。
それが、リリアが最初に抱いた感想だった。
王都の森を抜けた先に現れたのは、想像していた「獣人の里」なんてものとは似ても似つかない、白い石造りの巨大な屋敷だった。高くそびえる外壁。重厚な鉄門。門の左右には、獣を象った威圧感のある石像が睨みを利かせている。
「……ここ、ほんとにロルフの家?」
思わずそう口にすると、ロルフは少し気まずそうに視線を逸らした。
「ああ。まあ……うん。そうだ」
そうだ、じゃない。
どう見ても、城だ。しかも、王都の貴族街にも立派な邸宅があるらしいのだが、こちらが本邸らしい。一体いくつ家があるんだろう。リリアは考えただけで頭が痛くなってきた。
手入れの行き届いた庭園から漂ってくる高級そうな花の香りに、リリアはごくりと喉を鳴らした。
(む、無理……)
さっきまでの決意が、音を立てて崩れていく。
(やっぱり、私なんかが来る場所じゃない……)
ドレスも持っていない。礼儀作法も知らない。冒険者としても半人前。神獣の巫女だなんて言われても、実感なんてまるでない。
「……帰ろうかな」
小さく呟いたその瞬間だった。
ズドンッ!
地面が揺れた。
「……え?」
次の瞬間、森の奥から、血の匂いと共に現れたのは、匂い立つような艶やかな美女だった。
露出度の高い戦装束に、引き締まった肢体。白い肌には赤黒い血が飛び散り、肩には――大の男でも持ち上げるのに苦労しそうな、巨大なモーニングスターが無造作に担がれている。
先端の棘から、ぽたり、と血が滴った。
「…………」
リリアは、声を失った。
美女は気だるげに首を回し、こちらを見ると、一瞬きょとんとした顔をする。
「あれ?」
そして、次の瞬間。
「あ、ロルフじゃん」
「――――げっ」
ロルフが、心底嫌そうな声を出した。
「姉貴……なんでこっちにいるんだよ」
「なんでって、ここ私の家なんだけど?」
あっけらかんと笑う美女。
それから、ようやくリリアの存在に気づいたらしく、じっと見つめてくる。金色がかった瞳が、獲物を見定めるように細められた。
「……へえ」
その視線に、リリアの背筋がぞくりと粟立つ。
「この子、面白いね。紹介してくれないの?」
「……紹介する。姉のアデイラだ。……アリシア王国公爵家長女で、今はSランクの冒険者をやってる」
「よろしく。アデイラよ」
「あ、リリアです!王都で冒険者をやっていて、ロルフさんとは、パーティーを組ませていただいています!」
アデイラは悪戯っぽく目を細める。
「それだけじゃないわよね?……あなた、ロルフの番でしょ?」
アデイラは、リリアを上から下までじっくりと眺めたあと、楽しそうに口角を上げた。
「なるほどね。ロルフが夢中になるのも分かるわ」
アデイラの不躾な態度にロルフが頭を抱えた。
「……だから嫌だったんだよ。姉貴は王都の屋敷で淑女ぶってるときに紹介しようと思ってたのに」
ブツブツと文句を言うロルフを無視して、リリアににっこり微笑みかけるアデイラ。
「リリアちゃん、せっかくだから、腕試しでもする?」
そう言って、モーニングスターを地面にドンと下ろす。
「ようこそ、公爵家へ。──さぁ、やろうか?」
「ひぃっ……!?」
リリアの悲鳴が、広大な庭園に響いた。
















