第3話 ロルフの秘密
◇◇◇
(やっべぇーーーーーーーー!!!!)
リリアがトイレのためにダッシュで家に向かっているころ、ロルフは、独り身悶えていた。リリアから香るクラクラするような甘い香りに頭の芯まで犯されそうになるのを、なけなしの理性をかき集めて必死に我慢していたのだ。後ちょっとでも一緒にいたら、自分でも何をしていたか分からない。
「くっそ、油断したっ!」
獅子獣人のディランに挑発され、にらみ合っている間にリリアは独りで森の奥に入って行ってしまった。王都から程近い場所にあるこの森は、通称「冒険者殺しの森」と呼ばれている。鬱蒼と茂る大木は瘴気を吐き出し、冒険者の方向感覚を狂わせる。森の入り口近くを探索しているはずが、知らず知らず奥深くまで誘い込まれ、迷い込んでしまうのだ。
深遠に一歩足を踏み入れると、そこは高ランクの魔物が闊歩する世界。万が一高ランクの魔物に遭遇したなら、駆け出し冒険者のリリアなど、ひとたまりもない。森中必死に探し回り、リリアが触手に絡みつかれているのを見たときは、正直心臓が止まって死ぬかと思った。
触手をもつ魔物自体は大したことないが、怖いのは別の魔物に遭遇したときだ。幸い魔物の出す強い香りを嫌って他の魔物も寄ってこなかったが、その分リリアの匂いを辿れず、見つけ出すまでに時間が掛かってしまった。粘液に塗れて震えるリリアを見て、リリアから目を離したことを死ぬほど後悔した。
ロルフはリリアが冒険者になってからというもの、リリアが危険な目に合わないよう、いつも目を光らせている。リリアが冒険に出るときは常にリリアの気配が感じられる場所で見守っていたし、リリアに近付くものは分かりやすく牽制している。
本来ならとうにSランクになっていてもおかしくない実力をもちながら、リリアの護衛を優先させているため、Bランク止まりなのだ。そのあまりの執着ぶりに、かえってリリアに興味を持ってしまうものや横槍を入れてくるものも多いが、今のところ力ずくで黙らせている。ロルフの執着に気付いてないのはリリアぐらいだ。
あまりにわかりやすい牽制に、年長者からは生暖かい目を向けられることも多い。なかにはディランのように、わざとロルフを煽って喧嘩を仕掛けてくる奴もいるが。
必死になるのには理由がある。それは、リリアがロルフにとって唯一無二の番であること。
もうずいぶん前から、そう、定めてしまったこと。焦げ茶色の丸くて大きな瞳も、瞳と同じ色の、ちょっと癖のある柔らかな髪も、抱き締めたら壊れそうなくらい小さく華奢な体も、……愛しくてたまらない。
本当は、もっと甘やかして、自分なしではいられないほど、心も、体もドロドロに溶かしてやりたい。だが、胸に刺さる過去の小さな傷が、ロルフを躊躇わせていた。
―――リリアは一度、ロルフを捨てた。
信じていたのに。愛していたのに。
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